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黒世廻者達〜マヨネーズ〜  作者: 鯛の倒立
篇首草創の章〜邂逅祭編〜
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第二十八話 不透明


 ロウエム大陸における事実上の支配国フルオルガ、絶対君主制を敷くこの国の第八代国王ヒルブランド・ディアークの意向は全大陸に及ぶが、その彼でさえ持て余す人物が存在する。

 アクレース教団の最高位聖職者、法王ハイラムである。



 この世界に確かに存在する魔法。


 その概念は多神教によって存立しているが、つまるところはアクレース神教に帰結する。

 全ての神はアクレースから生まれ、アクレースへと(かえ)る――と言うのがどの宗派にも共通する教義であり、魔法という奇跡の存在が常識的に認知されるこの世界では、無神論者の存在は皆無と同義である。

 そのためアクレース教団の信徒と言えば人類の数と言っても過言ではなく、その頂点に君臨する法王の存在は、見ようによっては覇者ヒルブランドをも(しの)ぐほどである。


 ロウエム大陸歴五〇四年、フルオルガ王国国王の座に就いたヒルブランドは、新たに国博士という官職を設け、国政顧問として当時、アクレース教団における枢機卿の立場にあったハイラムをこの座に()えた。


 ハイラムはヒルブランドを立てて、常に一歩下がった立ち位置を演出しているが、重要な案件となると若王は必ず法王に意見を求め、往々にしてその言を(よし)とした。



 これを快く思わない臣下は数多く存在するが、その筆頭と言われているのが(よわい)六十を数えるフルオルガ国の最高行政首長、宰相エーゴンである。



 この日も、遠く南の国キュラントより登城した使者の用向きに二人の意見は対立していた。

 キュラントからの使者によると、アサラの浪人、難民の(やから)が徒党を組み、国家転覆の計を(くわだ)てているとのことであった。

 この一報に真っ先に反応したのは法王ハイラムであった。


「またアサラか……昨年も噂に上り、陛下よりアサラ伯の下へ王命が下されたと言うに、アサラ拍は賊の撲滅も満足に果たし得ませんか」


 玉座を挟んでハイラムと対称の位置に立つ宰相エーゴンも、黙っていてはハイラムに主導権を握らせてしまうと負けじに発言をする。


「陛下、キュラント公爵の耳に入るようなれば一刻の猶予もなりませぬ、直ちにアサラ伯爵の下へ使者をお出しになり、再度賊のあぶり出しを……」

「アサラ泊では手に負えぬのではないですか? 猶予が無いと言うのであれば中央(ここ)より憲兵団を送り込み、迅速に対応させるべきです」


 話の途中で割って入られた老宰相は苦々しげに舌打ちしたが、法王の提案自体には反対ではなかったので仕方なく口を閉ざした。

 二人のやりとりを黙って聞いていた八代目国王ヒルブランドは、王の間中央に敷かれた深紅の絨毯(じゅうたん)の左右に居並んだ文武官を見据え、武官の先頭に直立する騎士に向かって口を開いた。


「シュトルン元帥、先だってアサラ不穏分子の実態を突き止めたのは卿の功績であったな。どうだ、行くか?」


 全身を真っ赤な具足で備えた騎士は、半歩前に出ると国王へと向き直り胸に拳を当てた。


「先には不穏分子の調査までを任と心得てございましたので、その後の成り行きは気にするところでございました。アサラには我が『宮廷騎士団』の一個分隊を留め置いてございますので、御意を頂けますれば直ちに賊を掃討してご覧に入れます」


()しとする、行け!」


 異論の入り込む(すき)を与えぬようにヒルブランドは即決し、命を受けたシュトルンは即座に退場し任地に旅立った。

 “宮廷に居ない宮廷騎士団”の再始動であった。









 ――数日後、アサラの街貧民街に帰って来ていたマティアスがランドを呼び出し、“闇労働組合(ギルド)”の奥に(つな)がる部屋で人目を避け会っていた。

 椅子に腰掛けたランドと机を(はさ)んでマティアスとマドレーヌが座り、部屋の入り口をシジスモンドとアロイースが見張っている。



「『明けの明星』の幹部様たちが(そろ)いも(そろ)ってオレに何の用だ?」


 不穏な空気を肌で感じ、ランドは不信感を募らせていた――もしかして先日貴族を助けた礼に(もら)った大枚のことを知って、何かと言い掛かりをつけて巻き上げるつもりか?


 あらぬ事を考えていたランドにマティアスが口火を切る。


「君から預かっていた杖……。こいつの招待が(わか)ったんだ」


 机の上に杖が置かれる。人目を気にしないこの部屋の中では、袋に入れたままにして隠す必要もなかった。



 マティアスは先日までキュラントに出向いていたが、その帰りの道中でララアテの下を訪れ、この杖について聞いて来ていたのである。


「いやランド達と訪れたときはマドレーヌが杖を持っていたからね、二度手間になったけれど結果的にはキュラントに行った後にこの杖のことが判って良かったよ」


 銭の話ではなかった――と胸をなで下ろしたランドに、マティアスが続けて本題へと会話を移した。


「結果から言おう。この杖はクーメ魔法王国の国王たる者の証、つまりは王笏(リゲイリア)だ」


 突拍子もない結果に意表を突かれたランドは、口を開いたまま言葉もでず(ほう)けている。

 マティアスは構うことなく話を続けた。


「なぜ前法王エイブラハムがランドにこの王笏(リゲイリア)を授けたのか、ララアテ様は直接ランドにお話されると(おっしゃ)り、連れてくるようにと(おお)せられた」


「え、理由があるのかよ。たまたま魔力が尽きて消えそうなときにオレが目の前にいたから……とかじゃないのか」


「前法王は君のことを知っていただろう? 僕たちのことは巨像兵なんかを使って排除しようとしていた。君だからこその理由が何かあるんだよ」




 ただし、マティアスにはこの後ラージにまで行く予定があるため、ララアテの所に行くのはその後になると言う。


「オレは構わないぜ、最近ようやく“闇労働組合(ギルド)”の仕事も指名が入り始めたところなんだ、マティアスが戻るまではコツコツ稼いで待ってるさ」



 貧民街に“柄杓(ひしゃく)の剣士”の異名が浸透してきたようであった。


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