悪の秘密結社ジャダーク開発部洗脳課
書いてみたくなったので初投稿です
目の前には四肢を拘束されたうら若き少女が静かに眠っている。
しかし髪の色はここが現代日本であることを疑うかのような鮮やかなピンク、衣服は現代日本にまるでそぐわないピンクを主体にしたミニスカートのドレス、極めつけには宝石のようなものが嵌められた白い杖が近くに転がっている。
----彼女こそが我々秘密結社ジャダークの不倶戴天の敵と言われる、魔法少女と言われる存在であった。
「いきなりこんな大物送られてもどうすりゃいいんだよ!!」
そんな存在を前に、首を傾げ悩む男が一人。
白衣を着崩した男の胸元にはご丁寧に「秘密結社ジャダーク 開発部洗脳課 ブレイン」と書かれたタグがある。
彼、ブレインが秘密結社ジャダークのれっきとした一員としての証である。
ブレインは意識のない少女を前に頭を抱えひとり愚痴をこぼす。
「これは休日出勤かな・・・。」
開発部洗脳課は秘密結社ジャダークの中でも今年新設された部門である。
秘密結社ジャダークの総帥、ジャダークは敗戦続きの魔法少女との戦いに変化をもたらすべく、ある一つの方針を打ち出したのだ。それが、
”魔法少女の洗脳”
である。
ジャダークは「相手の戦力を削ぎつつこちらの戦力を拡大させ、敵を下したことによる精神的な効果も得られる素晴らしい計画」と評したが、ここに課題が一つあった。
秘密結社ジャダークには洗脳のノウハウがなかったのだ。
そこでジャダークは開発部洗脳課を新設、部下を異動させて研究を開始させた。のだが・・・
「調子はどうだ?ブレイン」
「あ・・・ジャダーク様。
正直なところを申しますと今現在の洗脳課にこの仕事はまだ荷が重いかと。」
繰り返すが開発部洗脳課は新設された部門である。
洗脳課に異動となったブレインをはじめとした数名が行っているのは催眠術や洗脳の理論研究と必要な装置の開発であり、誰一人としてまだ洗脳をしたことがないのだ。
そんな状況でのいわば「初仕事」として敵の主力を洗脳しろとこの上司は言っているのだ。
しかしジャダーク様は世界征服の専門家ではあっても洗脳の専門家ではないのだ。よくわからない光線を浴びせれば敵が勝手に寝返ると思ってらっしゃる。
「なぜだ?催眠術でパッとやればたちまち目がハートになって『ジャダーク様バンザイ!』となるのではないのか?」
それはさすがにご都合主義すぎる。そんなことができたらこの課はいらない。
「エロ漫画の読みすぎですよジャダーク様・・・
そんなに都合のいい力を持った怪人や幹部がいないから洗脳課なんてものを新設されたのでしょう?」
「それもそうだな・・・一瞬で洗脳が完了するほどの者がいるならとっくに魔法少女にぶつけている。
それは置いておくとしても魔法少女の洗脳が難しいのはなぜだ?洗脳自体の研究は進めているのだろう?」
確かに洗脳の基礎理論までは構築は終わっている。装置も簡易的なものは形にした。だが・・・
「催眠モノのエロ漫画をたくさん読んでらっしゃるジャダーク様ならお分かりかと思いますが、ひとことに洗脳と言っても様々な状態がありますよね?」
「偏見が過ぎる・・・。」
「自分で考えない操り人形や認識を阻害するもの、はてや完全に忠誠を誓わせるものまでありますけど、ジャダーク様は捕まえた魔法少女をどう洗脳したいのですか?」
「ふむ・・・私のことが大好きになって四六時中私にキスをせが・・・冗談だから冗談だから」
この上司思考がピンク色すぎる。
「まあ真面目な話として要点は2つだな、一つは強いこと、もう一つは洗脳が解けないことだ。
幹部級を想定してせっかく仲間にしたのに弱いのでは骨折り損だしすぐ洗脳が解けても同様だ」
「なるほど、その通りです。ですが、その二つはトレードオフになりがちなんですよ。」
「どういうことだ・・・?」
「洗脳を強めに施すと本人の意識は希薄となり、ほとんど洗脳が解けないかわり命令されないとなにもできないゴーレムと大差ありません。
洗脳を弱めに施すと本人に思考能力が十分残っている状態になりますが、ちょっとした違和感が洗脳を解くきっかけになりかねません。
今回の場合はこの2つのうまいバランスを探っていくしかないんです。」
「なるほどな、いかに力を持てども操り人形は所詮は人形といったところか」
上手い例えをなさる。異世界のことわざにありそうだ。
「はい。もう一つ、思考能力と洗脳強度が高いバランスでまとまっているパターンとして完全に忠誠を誓わせて洗脳を掛ける手段もあるにはありますが、あれは一度心を完膚なきまでにへし折って絶望させる必要があるので今回は考えません。」
「魔法少女どもを絶望させるには負け過ぎだからな、我々は」
ジャダーク様、反応しづらいことおっしゃるのやめてほしい。
「・・・ひとまず洗脳が解けなければそれでいい。ブレイン、急ぎで頼めるか」
「わかりました、ジャダーク様。
しかしそれですと総合戦闘能力が雑魚戦闘員よりちょっと上程度にまで落ちますが」
「構わん。
わざわざ魔法少女を捕まえてきたのは他の魔法少女どもに対する精神的な打撃が目的だからな。
それにお高くとまった魔法少女が雑魚戦闘員に落とされるのもそそる・・・」
「ジャダーク様?」
「で、ではなブレイン、そこのメス犬の調教よろしく頼んだぞ」
この人マジでエロ漫画の読みすぎじゃないだろうか?
数日後、私は洗脳したピンク髪の魔法少女を連れてジャダーク様のもとに向かった。
彼女は夢を見ているような状態に近く、命令されないと何もできない状態に仕上げてある。
あくまで洗脳しただけであり、外見に変化はない。
「ジャダーク様、ご注文の洗脳魔法少女をお届けにあがりました。」
「ああ、ブレインか。入ってくれ」
ジャダーク様はなにやら薄っぺらい漫画を読んでいたようだ。魔法少女らしき絵が表紙に描かれている。
「ジャダーク様、何をお読みに?」
「あ、ああ、これか?これは・・・戦闘指南書だ」
絶対エロ漫画だろ。
「そ、それより魔法少女の洗脳はどうだ?」
「露骨に話題をそらしましたね。
とりあえず操り人形に近い状態に仕上げてあります。お仲間の魔法少女どもの声も届きませんが、万が一強い刺激を受けると洗脳が解ける可能性がありますのでご注意ください。」
「戦闘に耐えうるほどではない、と。
まあよい。目的は十分に果たせる。
ところで・・・・・・ぴちぴちタイツの一般戦闘員服を着せていきたいのだが」
私はジャダーク様に軽蔑の視線を送った。
「ジャダーク様が捕まえてきたのですからどう扱っても構いませんが、一般論として意識のない女性を脱がせるの人として最低だと思いますよ。」
「うぐっ・・・」
ほどほどにしてくださいね、と言い残して私はジャダーク様の部屋を後にした。
久しぶりの休暇だ、何をしようか。
翌日、魔法少女の洗脳という初の大仕事を終え久しぶりの休暇を満喫しようとした私の前には四肢を拘束され意識を失った青髪の魔法少女の姿が。
「どうだブレイン!間抜けな魔法少女を捕まえてきたぞ!さあ、洗脳よろしくな!」
「どうして・・・どうして・・・。」
その問いに答えてくれる人はジャダーク様の後ろに控えるぴちぴちタイツを着たピンク髪の洗脳済み魔法少女を含め、この場には誰もいなかった。
ジャダーク様は頭の回転が速く、前線に出れて作戦を立てれば魔法少女を捕獲できるほど優秀なので、きっとこの人総帥やるより参謀とか指揮官とか幹部やったほうが向いてると思う。