表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

{ショートショートを一杯} 「幼心」

作者: 圭

{受賞会見の様子}

記者  〇×新聞です。平沢先生、今年度の新人賞受賞、おめでとうございます。今回の作品につきまし て、何かコメントをお願いします。


平沢  えー。まずは、ありがとうございます。この年で小説家を始めたのにも関わらず、こんなに多くの方々に私の作品を読んで頂き、本当に嬉しく思っています。


記者  そして、今回は先生に特別インタビューという事で、退職後小説家になりわずか2年で数々の賞を受賞し、奇才としてその名を響かせた先生に、「作品を作る秘訣」についてお尋ねしたいと思います。


平沢  作品を作る秘訣、ですか。・・・いざ言われると思いつかないものですね(笑)。

    そうですね、あえて言うなら、「幼心」ですかね。


記者  おさなごころ・・・ですか?


平沢  はい、誰しも子供のころ持っていた、「幼心」。それが私の作品の秘訣です。


記者  それは、一体どういう事なのでしょうか。


平沢  そうですねぇ。例えば、あなたが子供の頃、初めて見た中で印象に残っているものはありますか?


記者  印象に残っているもの・・・昔、近くの神社で祖父と初めて雪を見たときの事は、鮮明に覚えていますね。


平沢  そうですか。では今、雪を見たとしたら、どう思いますか?


記者  それは、「雪だな」位でしょうか。


平沢  そうでしょう。つまり、子どもというのは、大人よりも何倍も何倍も、物事に対する鋭い感覚を持っているんです。私たちが日常の中に組み込んでしまっている些細なことを、子供たちはフィルターを通して見ているわけなんです。


記者  それが、先生の言う「幼心」なのですね。


平沢  その通り。そして、私はその心を未だ保ち続けているのです。誰もが持っていたこの心は、いつの間にか消えてしまうのです。

    それは突然起こるのではなく、日常の中の何気ない出来事により、ゆっくり、ゆっくりと消えていきます。なので、今、私のような小説家や、他の芸術家になろうという人は、どうかこの心を忘れないでください。それが、私に言える事です。


記者  成る程、ありがとうございました。では次に・・・・・






「はぁ、やれやれ。肩がこった。」

ネクタイを外し、自宅のソファーにどっかりと腰を掛けると、平沢はそうつぶやいた。

「全く、幼心?何を馬鹿なことを。こんな社会でそんなものを保てるわけがないだろう。」

窓を開け、横にあった灰皿に手をかけると、平沢はポケットから煙草を一本取り出した。

「ねぇ、もうタバコはやらないってやくそくじゃなかった?」

「えぇ、いいじゃあないか。煙草の一本や二本。」

「そういうこと言ってると、もう作品かいてあげないよ?」

「あぁ、分かったよ。悪い悪い。」

不必要になった煙草をからの灰皿の上に置き、平沢は洗面台に向かう。

冷たい水で顔を洗うと、いくらか、ぼやけていた意識がはっきりとしてくる。

「でも、毎回お前には助けられてるよ。ありがとう。次も頼むよ。」



近くのタオルを手に取り、顔を拭くと、平沢は

「いいんだよ、ぼくはおじちゃんの役にたてたなら」

と、「まるで」子供の様に、にこやかに微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ