リア
「えっと、コーデリアさん?」
シンドレア学院を後にした二人は、学院がある王都西側の町を歩いていた。
「リアでいい。知人は皆そう呼ぶ」
「じゃあ、リアさん?」
「『さん』もいらない。それに敬語も。私達はパートナーなんだから」
教室にいる時からずっと気になっていた事にイルミは突っ込む。
「あの、パートナーって言うの辞めない?」
「どうして?」
「いや、それは……」
どうしてと言われれば、教室にいた他の生徒達のように誤解を受けるからだが、パートナーである事は間違ってはいない、どうも自分からそれを訂正するのは自意識が過剰なような気がしてイルミは言えなかった。
「じゃあ、えっと、リア」
「なに?」
「一緒に帰るって言ってたけど、多分、君、寮生だよね?」
シンドレア学院には学院の敷地内に生徒のための寮があり、ほとんどの生徒達は寮で日々を過ごしている。イルミやシャミアのような自分の家から通う生徒というのは稀であった。またコーデリアの実家、つまりサスフィール家の領地は王都から少し離れた所にあり、家から通うというのは現実的ではなく、イルミは彼女を寮生だと予想した。
「そう。だから休寮届けを出してきた」
「え、なんで?」
「イルミの家に住むから?」
「どういう理屈!?」
何を言ってるのと言うような顔で、何を言っているのか分からない事を言う。
「パートナーだからお互いをよく知る事が大切。これからは一緒に行動する」
大真面目な顔でコーデリアは言う。
「課外授業まで一ヶ月しかない。出来る事はやらないといけない」
流石にこれから一ヶ月の間、寝食を共にするというのは、年頃の男女として、許されるものじゃないだろうと思いイルミは反対しようとする。
「いや、でも――」
「失敗は出来ないの」
その一言で全てを黙殺される。
失敗が出来ない。
世界の命運が託された課外授業。英雄である祖父達がサポートしてくれるとは言え、自分達に任された任務。それに、彼女も自分と同じで、憧れる人物がいる。
その憧れに近付くために、絶対に失敗出来ない任務。準備し過ぎる事はなんてない。
――しかし
「で、でも僕の家の中、散らかってて汚いよ?」
どうしても一緒に住むというのが許容出来ず、イルミの口からは同居しないでいいように言い訳が出てくる。
「大丈夫、野宿よりはマシ」
討伐任務は外で夜を過ごす事も多い。実家の任務に動向しているコーデリアも当然、野宿の経験があった。
「僕は男だよ?」
「私は女よ」
意味が通じていない。
「でも、お婆様にはアナタに女にして貰ってこいって言われた……もしかしたら、私はまだ女じゃないのかもしれない」
「大丈夫、リアは女性だよ……」
イルミは自分の祖父に似た事を言われた事を思い出していた。
コーデリアにはその意味が伝わっていないようであった。もし、伝わっていれば軽々に一緒に住むとは言い出さなかっただろうが。
「イルミは私と一緒にいるのは嫌?」
「嫌ってというより……」
問題があると言っているのだが、コーデリアにはそれが伝わらない。
ただ、イルミも一緒に居るべきなのは正しいと感じていた。
連携で一番大切なのは互いの信頼関係であり、理解力である。歴戦の猛者なら、その場で組んだ即席チームでも長年組んでいたかのような連携が取れるというが、生憎、イルミもコーデリアも若く学生の身分であり、そこまでの実戦経験は二人ともなかった。
「と、とりあえず、僕の家に住むかどうかは置いといて――僕のバイト先に行かない?」
一旦、答えを保留にして、イルミが逃げ場所に選んだの彼のバイト先である酒場『双児宮』であった。