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見返してやれ

 不意の災難に見舞われた二人に対して多少の罪悪感を抱きながらもイルミはルーマスに言われたとおりに学院内の4階にある学長室まで来ていた。


――コンコンコン


「おう、入っていいぞ」


 ドアを三回ノックすると中から男の低いしゃがれた声の返事がかえって来た。


「失礼します」


 そう言ってからイルミはゆっくりと(ドア)を開ける。


 中に入ると奥には校長机があり、白髪の男性がニヤけた顔で頬杖をついて待っていた。


「よお、久しぶりだなイルミ」


「お久しぶりです。シンドレア学長」


 学長室で待っていたのは、当然ではあるが、シンドレア学院学長のレイヴァン・シンドレアであった。その学長を目の前にしてイルミが顔を強張らせる。


「なんだ、えらく他人行儀な挨拶じゃねえかよ、イルミ。せっかく久しぶりだっていうのに寂しいじゃねえか」


「いえ、一応学院内ですので、節度は守るべきかと」


「堅苦しい事を言うな。学長がいいって言ってんだからいいんだよ」


 少し逡巡した後。緊張を解き。


「……うん。久しぶり、レイお爺ちゃん」


 大戦の英雄である【勇者(ブレイバー)】の孫、イルミ・シンドレアは学院の学長に向ける顔から大好きな祖父に向ける笑顔に変わる。


「おう、どうやら頑張ってるらしいなイルミ」


「全然だよ。学院内で、僕が一番の落ちこぼれだし」


「そりゃレベルだけの話だろ。勉強は学年トップだって聞いてるぜ。ま、昔から熱心に勉強をしてるお前なら、うちの授業は簡単過ぎるだろうけどな」


「うん、でも……」


 昨日の経験値試験レベリングテストの結果。どうしようもない事実を思い出すイルミ。


「ま、冒険職専門の学校だから勉強よりレベルが重視されるのは仕方ねえけど。それに、お前のレベルじゃ模擬戦もさせて貰えねえか」


 シンドレア学院では生徒同士のレベル差が10以上離れている場合、安全性を考えて模擬戦を禁止しており、学院に入った時点で大抵の生徒はレベル10を越えているため、当然レベル1のイルミは他の生徒達と模擬戦をした事がない。


「『双児宮(ジュミニ)』にはまだ通ってるんだろ?」


「料理の腕がどんどん上がってるよ」


「はっはっ! そりゃいい! 今度俺にもお前の料理を食べさせてくれ」


「もちろん! いつでも言ってよ、お爺ちゃん」


 祖父と孫の微笑ましい会話が学長室の中で華を咲かせていた。


 しかし、話している途中にレイヴァンのニヤける顔が急に真面目な顔に変わる。


「――ところでだ、イルミ」


 そして学長室の空気も変わる。


「お前、学院の奴らを見返してやりたいと思わないのか?」


「見返してやりたいって?」


「言葉の通りだよ。お前のその体質のせいで虐められてんだろ?」


「別に……虐められては……ない」


 ただ馬鹿にされているだけ。何も出来ない無能冒険者だと言われているだけ。


「まあ、俺の教えた通り、無闇やたらに力を誇示してないって事なんだろうが」


 必要時以外に戦闘をするのは勇者じゃない、ただ自由に力を振りかざす人間は強くても、それは【勇者(ブレイバー)】ではなく【暴君(ブレイカー)】だ。というのがレイヴァンの孫への教えだった。


「お前は優しい人間だ。きっと何を言われても抑えてきたんだろ。でも――悔しくねえか? いつまでも、ただのレベル1だって馬鹿にされて、見返してやりたいと思わねえのか?」


「僕は――」


――『レベル1(ザ・ワン)』がなんでここにいる?


 入学してから、何度も同じ事を言われ続けてきた。その度に悔しい思いをし、歯噛みして拳を握り締めていた。さっき食堂で起こった事を思い出す。


――うんざりだ。


 自分に絡んで来る人達も、それに対して彼女が自分守ろうとするのも。しかし、それに対してどうする事も出来ない現状の自分自身に彼が一番うんざりしていた。


――見返す……僕が、彼らを、彼女達を。


「――見返したい」


 そう力強く言う。


「いい目じゃねえか。別に、なんて言い出したら勝手に退学届けを出してやろうかと思ってたが。じゃあ、これは必要なさそうだな」


 イルミの名前が書かれた退学書類をイルミにピラピラと見せた後、それを破り棄てた。


「ちょっと待って! そんな事を考えてたの?」


「可愛い孫が無謀な道を進むのを、嫌われてでも止めるのも俺の大切な役目だ、でもな――」


 ニヤりと笑う。


「少しでも才能があるなら、お前がそれを望むなら、伸ばしてやるのがジジイの役目、そしてこの学院の役目だ。大丈夫、お前にはちゃんと才能がある」


「レイお爺ちゃん……!」


「大切なんだよ。その反骨精神は。周りを見返したい。認めさせたいって気持ちはな。それは、お前が目指している【勇者(ブレイバー)】に必要な素質だ。勇者を決めるのは自分じゃなく、周りの人間なんだから」


 【勇者(ブレイバー)】となった本人が語る。


「俺みたいな勇者になりたいんだろ?」


「うん」


「じゃあ、見返して来い! 今まで努力して積み重ねた力を見せ付けてやれ!」


 強く頷くイルミ。誰よりも尊敬している祖父からの、勇者からの最高の応援(エール)であった。


「でも、何をする気なの? 僕をここに呼び出して」


「いや、お前をここへ呼んだのは別件の話があるからなんだが……と、丁度来たか」


 コンコンとドアを叩く音がする。


 イルミはルーマンがもう一人生徒を呼びに行っていた事を思い出していた。


「入っていいぞ」


 ノックに対して返事をすると


「失礼します」


 細く澄んだ女性の声が聞こえ、ドアノブが回る。


 そして、長く美しい銀髪をなびかせながら、少女がドアを開け入室する。


 イルミともう一人呼ばれた生徒。それは、学院内で常に話題の中心人物であり、学院一の有名人であり実力者の――コーデリア・サスフィールであった。

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