祭りのあと
イルミが目を覚ますと白い天井が見えた。見覚えがあるような、ないような天井。周囲はカーテンで仕切られており、そこで、ここがどこであるのか、イルミは理解する。
独特な香りに寝ているベッドとカーテン。
「保健室……」
大会終了直後に倒れたイルミはすぐにメルの所まで連れて行かれたが、傷を治しても目を覚まさないイルミはそのまま保健室へと運ばれたのであった。
イルミは倒れる前の事を思い返す。
「勝ったんだっけ……」
スキルを使った時から意識が朦朧としていたイルミは戦闘中の出来事がうろ覚えであり、レオンよりも立っていた事だけは何となく思い出せた。
「ううん……?」
近くから誰かの声が聞こえ、ようやくイルミは自分の腹部に重みがある事に気付く。
イルミのお腹の上には柑橘色の髪の頭が突っ伏して寝ていた。
「シャミア……」
幼馴染の名前を呼ぶとモゾモゾと動きだし、イルミの方に顔を向ける。
無防備なシャミアの寝顔をよく見ると目元が腫れていた。
――悔しかったんだろうな
試合の結果、彼女達の勝負の結果、コーデリアがイルミの元に駆けつけたという事は、シャミアが負けたという事であった。
そんな中でも彼女は自分の見舞いをしてくれると言う事に嬉しく感じ、またコーデリアとの戦いで大きな怪我をしていなかった事にイルミは安堵する。
朧になった記憶を辿り、最後のレオンとの勝負について考える。
結果として勝利で終わったが、内容としては最悪だったように思う。
もし、コーデリアの助けと、剣がなければ、レオンが受けに転じていたら、負けていたのは自分であった。単純に運が良かったからレオンに勝てたとイルミは思う。
培ってきた戦闘技術も「敏捷」にも対応され、挙句、ステータスの低さを露呈させた戦いでもあった。
不甲斐ない姿を晒し続けたレオンとの戦いをどう受け止めるべきかイルミは悩む。
すると、眠っていたシャミアが急に起き上がり、「ふあー」と欠伸をしながら手を上に上げて背を伸ばす。
「おはよう、シャミア」
自分よりも後に目が覚めたシャミアにイルミは挨拶をする、
「あっ、お、起きてたんだ……いつから?」
いつの間にか目を開けていたイルミに背伸びをした姿勢のままシャミアは硬直する。
「ついさっきだよ」
「そうなんだ……あはは、ゴメンね。私が眠っちゃってさ」
伸びた背を戻し照れるように笑うシャミア。
「謝らなくていいよ。むしろシャミアも大会の後で疲れてるのに、態々(わざわざ)様子を見に来てくれてありがと」
「そ、そりゃ、幼馴染が倒れてるなら心配もするわよ。それに……アンタはもう敵じゃないから……」
敵であったのは模擬戦大会まで。敵でなければ心配だって看病だってする。
「まあ、アンタは関係なく私の心配をしてたけどね……」
シャミアが怪我をしたときいてイルミが保健室に飛び込んできた時の事を言っていた。
「……それで、どうだったの? 大会の手応えは?」
「うん、優勝出来たのは嬉しい……でも――」
ちゃんと周りの人間を見返せたのか不安であった。
結局、途中の戦いからレオンとの戦闘までコーデリアに頼りきりになってしまったようにイルミは思う。きっと自分の実力だけでは勝ち残れなかった。




