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「片手剣にそんなスキルがあるなんて聞いた事ねえぞ!?」


 武器に風の力を纏わせた上に、炎まで纏わせた見たことのない謎のスキルにレオンは驚きを隠せないでいた。


「拳も……燃えてる……」


 コーデリアの呟きが聞こえたレオンは刀身から目を逸らし急いでイルミの拳に注目する。


「……まさか、そのスキル――」


 レオンは何度もそのスキルを見ていた。模擬戦で数え切れない程の苦渋を舐めさせられたそのスキルの名前


「『リアリス・フレイズ』……!」


 シャミアの十八番である素手スキル『リアリス・フレイズ』。


 使用者の攻撃力を上げる事が出来るそのスキルは本来ならば、シャミアのように素手のみの時にしか発動しないはずなのだが、イルミは武器を持ち、尚且つ、その拳の炎を剣に纏わせている。


「どういう理屈だ? いったい何が起こってやがる?」


 普通は二種類武器系スキルの同時発動は不可能であり、まして、素手スキルを剣スキルに応用して使うなんて事はまずあり得なかった。


「はぁ……はぁ……僕にも原理はよく分からない。ただ……剣を扱う時だけは、僕は他の武器スキルを平行して使えるんだ」


 息を切らせながらもイルミが説明をすると


「なんだよ、それ……?」


 レオンは意味が分からないといった表情をする。それはコーデリアも同じであり、知らない事実であった。


「はっ、大体、二つ使えるからって何だっていうんだ。もう瀕死状態でフラフラのお前に今更何が出来るんだよ!?」


 コーデリアの助けを借りないと威勢を張ったイルミだが、その実、息は絶えだえで、足元は覚束ず、目の前も霞んで見え、剣を握る力さえほとんど残っていなかった。


 目を閉じれば眠ってしまいそうな程の疲労感。もし次、倒れれば今度こそ立ち上がる事が出来ない状態であるにも関わらず、イルミはレオンの問いに――



「君を――倒せる」



「……っ!! そこまで言うなら、やってみろよ『レベル1(ザ・ワン)』ッ!?」


 激情したレオンはスキルをその身に纏い風の弾丸となって突撃し、イルミにぶち当たり、その衝撃波で砂埃が舞う。


「イルミッ!?」


 思わず叫ぶコーデリア。


 舞い上がった砂埃で中の様子がよく見えない。


 イルミはどうなった。やっぱり瀕死の彼を戦わせるべきじゃなかったか。もし、彼になにかあったら自分は。と色々な思いが頭の中を巡っている間に


「――!」


 徐々に晴れていく砂埃の奥で立っている二人の人影を見た。


 受け止めていた。


 瀕死の状態のイルミは正々堂々と真正面から剣で受け止めていたのだった。


「チッ! まだだ!」


 今度こそ終わらせるはずだった攻撃を受け止められ、鍔迫(つばぜ)り合(あ)いとなったレオンはイルミの剣を押し返して仕切り直し、再び仕掛ける。


「おい、倒すってのは口だけか!?」


 あれだけの威勢を通したイルミは防戦一方であった。


 レオンの剣撃を受けるのが精一杯といった感じであり、このままでは、いつか体力が切れ負ける、そんな未来しか見えなかった。


「テメエのスキルは見掛け倒しかッ!?」


 スキルを使った後も特に何も変わった様子がないイルミにレオンは叱責(しっせき)する。


――その刹那。


 イルミの剣が目の前に現れた、いや、あまりに速い剣速のせいで現れたかのようにレオンは錯覚したのだった。


「ぐおッ!?」


 すんでの所で受け止めるが。


――お、重めえ!


 その攻撃にイメージしたのは馬鹿力の素手女――シャミアの攻撃であった。


 急な攻撃で十分に受け切れなかったレオンはそのまま吹き飛ばされる。


 何とか上手く着地を決めるが、動揺は抑えきれない。


――今の剣速と力は何だ……?


 格段に能力が飛躍したイルミを瞠目して見る。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 もう、相手は肩で息をし立っているのもやっとという様子。


――いや、そりゃそうか。


 イルミが二つ使用している『シル・フィード』と『リアリス・フレイズ』は剣速と力の能力上昇のスキル。速いのも重いの当たり前であった。


 瀕死だからと言って油断出来る相手ではない事をレオンは思い知る。


「うっ」


 イルミは今の行動だけで、体力を消費し、ふらつき倒れそうになるが何とか踏ん張る。


――時間を稼げば確実に勝てる……


 見た所、イルミが使っている、あのスキルは相当消耗が激しい。もうとっくに限界を超えているのだろう。もう満足にスキルも使える状態でないのならば、相手が力尽きるまで防御に徹すれば間違いなく勝てるとレオンは考える。だが――


「おい、それがお前の一番の切り札でいいんだよな?」


 話し掛けたレオンにイルミは視線だけを向ける。


「次で終わらせてやる、だからテメエも次の攻撃に全力を注げ!」


 レオンに取ってそんな小賢しい勝利に価値はなかった。


 全てを否定する。


 それはイルミの全力に勝って初めて達する事が出来る。


 イルミを否定するレオンの矜持でもあった。


「……うん、分かった」


 ありがとう――と、レオンに聞こえない声でイルミは呟く。


 きっと礼を言われるのはお門違いだとレオンは言うだろう。だから、聞こえないようにイルミは小声で言ったのだった。


「死んでも恨むな」


 風がざわめき始め、レオンの剣の前に風が集まり圧縮し始める。


 集まり圧縮した超高密度の風はやがて大きな風の刃へと変貌(へんぼう)した。


「準備はいいかよ、『レベル1(ザ・ワン)』?」

「うん」


 レオンとは違いただ剣を構えるだけのイルミ。


「そうかよ、じゃあ行くぞ――」


 レオンは持った剣を上段に構え


「『暴風の覇者《エアリアル・テンペスト》』!!」


 力の限り剣を振り切り、スキル名を叫ぶ。


 全てを切り裂く一迅の風がイルミに向かって飛ぶ。


 するとイルミが構える剣の炎が激しく燃え上がり、風が渦巻きだした。


 纏う風を剣に収縮させると刀身が伸び、炎の剣を作りだす。


 その炎の剣は風によって燃える勢いが増し、高温となった炎は白く輝く光剣となる。


 イメージしたのは、かつて祖父が魔王を倒したという技。


 幼い頃に見て、今でも脳裏に焼きついて離れない、その攻撃の模造(レプリカ)。


 勇者に成りたいという心を持ったイルミの憧れが形となった本物の想いの現れ。


「『英雄の一撃《ブレイブ・オブ・ザ・ワン》』!!」


 向かってくる巨大な風の斬激に向け、正真正銘、全身全霊のスキルをぶち込む。


 白い炎の刃は風の刃を掻き消し、相手のスキルを突破したイルミはレオンに向かって疾走する。


「――うああああああああああ!!」


 喉を焼き尽くす咆哮。


 既に大技を保つだけの余力は残っておらず、イルミの剣はただ炎と風が纏わった状態に戻っていた。しかし――それだけで十分であった。


 最大の攻撃を打ち破られ、咆哮に気圧されたレオンに、イルミは渾身の一撃を食らわせる。


「――があっ!?」


 小さき勇者の斬激はレオンの脇腹にめりこみ、残っていたHPバーがじわじわと減っていき――ゼロとなる。


 そのままレオンは前のめりに倒れ、イルミはその場で立ち尽くす。


 やがて、最後の花火が鳴り大会終了の合図と共に、イルミ達の優勝が決定する。


「勝った――」


 そして勝利を理解するのと同時に全身から力が抜け崩れ落ちる。


 押し寄せる硬く冷たい地面はいつまでもやってこず、逆に柔らかく暖かなモノにイルミは包まれている気がした。


「頑張ったね、イルミ」


 優しい声音が聞こえて安心した少年は少女の胸の中で眠るのであった。


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