ザイド
やる気のイルミにコーデリアは不思議に思う。
「どうしたの、イルミ?」
「ルリさんとお爺ちゃんに言われたんだ。理不尽に女を殴るような奴はブッ飛ばせって」
「……ふむ、理不尽……ですか? 躾だと言ったのを聞いていませんでしたか? まあ、1対1で相手してくれると言うのなら私としては大歓迎ですが」
イルミは短刀を取り出すと無言で構える。
「ですか……では、始めましょうか。効果が切れたらリーズへの負担も大きくなりますしね」
「本当にいいの? 多分、彼は強い。強化魔法関係なく」
「これからの事を考えたら、このくらい乗り越えないとね」
「これから?」
それに何も答えずにイルミは一歩前に出る。
「『レベル1』のイルミですか。イルミ・シンドレア。大戦の英雄である【勇者】の孫。突然、サスフィール嬢のパートナーになった事も含めて明らかに只者ではない――私はレベル1だからと言って、アナタを侮ったりしませんよ?」
「…………」
そんな事を言われるとは思っていなかったイルミは少し面食らう。レベル1だと知っていて蔑視されないのはかなり新鮮な事あった、
「じゃあ――いきますよ」
地面を蹴り上げたザイドは間合いを一瞬で詰める。イルミは短剣では大剣を払うのは難しいと考えて詰められた距離をバックで離れる。
しかし、リーズによって強化された「敏捷」はイルミが離れる事を許さない。
「くっ」
――弾くのは――無理ッ!
ギリギリの所でザイドの斬撃をかわして、大剣を使う上で弱点となる大降りの隙に短剣で叩き込もうとするが、
「――ッ!?」
イルミの想像以上の速さで大剣が返ってくる。
――く、そッ!
短剣の刃で受け止め、勢いを殺すように太刀筋に合わせた方向に飛ぶ。
――思ったより早い……。
詠唱なしの強化魔法をイルミは見誤っていた。大した強化はないだろうと踏んでいたが、リーズの支援職としての素質はかなりのものであった。
イルミは心のギアを一つ上げる。
「ふっ!」
今度はイルミからザイドに突っ込んでいく。ザイドの大剣を全て掻い潜る事を決意して、懐に入っていく。
――大丈夫、当たらない
剣速に慣れ始めたイルミは少しずつザイドに攻撃を当たり始める。どうやら、全ての基礎ステータスが上げられているようで、ダメージも僅かにしか入らない。
しかし、当たらない攻撃を見て、ザイドは一度イルミから距離をとる。
「……なるほど、とてもレベル1の強さではありませんね。リーズの強化が加わって、ここまで渡り合いますか……正直、侮っているつもりはなかったのですが――予想以上ですね」
イルミと手合わせをしてみた本音をザイドは零すと、大剣の構えを解く。
「?」
急に戦闘態勢を解いたザイドにイルミは怪訝な顔をする。
「リタイアします。私達の負けです」
「え」
急なザイドの敗北宣言にイルミは戸惑う。
「よもや『レベル1』のアナタがこれ程の実力とは思いませんでした。この後にサスフィール嬢が控えていると考えれば、勝つのは絶望的ですから。模擬戦程度で無理する訳にもいきませんしね。水を差すようで悪いのですが、勝負はここで終わりです」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
一方的に勝負を終わらせようとする、ザイドをイルミは引き止める。元々、ザイドがリーズに暴力を振るった事に腹を立てたイルミは、手に持った短刀の納めどころを見失う。
「い、イルミ君! 私は大丈夫ですから……」
「リーズさん……?」
「当の本人もそう言っているのでアナタがもう戦う理由はないのでは?」
リーズの言葉に便乗して、ザイドはイルミの矛を下ろさせようとする。
「それと、リーズとクラスメイトらしいので言いたくは無かったのですが――」
掛けた眼鏡を左手の中指でクイッと上げると
「あんま他人の関係に口出すんじゃねえよ、何様なんだよテメエは?」
口調が崩れたザイドの眼鏡の奥は鬼のような形相でイルミを睨みつけていた。
「それでは失礼いたします」
しかし、一瞬で表情は元の無表情に戻り、リーズを連れてイルミ達の元から去って行き、気迫に押されたイルミは見過ごす事しか出来なかった。




