リーズ
――バンッ
と花火の音がルナーラの森中に響く。
「残り四チーム……」
大会が開始されて十二回目の花火が打ち上げられ、イルミは残ったチームを数える。
――シャミア達はまだ残っているだろうか?
そう考えて、すぐにイルミはそんな考えを捨てる。
どうせ残っている。シャミアとレオンの実力はイルミもよく知っている。
大会も終盤戦。
残った他のチームは一体どんなチームで誰のチームか。
「ん?」
遠くに一人でしゃがんでいる人影が見え、緊張がはしる――が、
「あれは――リーズさん?」
遠くに見えた人影は目立つ桃色の髪は癖毛が酷く毛先があちこちに飛んでいる。
「知り合い……?」
「うん、同じクラスの女の子」
基本的にイルミが学院で話す人間はシャミアくらいしかいない。それは、『レベル1』のイルミを見下し、クラスの中で浮かせているからであった。
そんな中で、リーズは偏見を抱かずイルミに接する数少ない生徒の一人であり、シャミアが保健室に運ばれた時に、その事をイルミに伝えたのもリーズであった。
「知り合いでも関係ない。今は敵同士」
リーズの頭上にはHPバーが表示されていた。そのHPは少しだけ減少していた。
「いや、そうなんだけど……様子がおかしい」
しゃがみ込んでいる事もそうだが、チーム戦だというのに、そこにはリーズ一人だけしかいない。
「彼女の職業は支援職系だし、一人じゃ何も出来ないはずなんだけど」
支援職であるリーズが一人でいる理由をイルミは考える。
「……とりあえず様子を見に行こう。何かの怪我をして動けなくなったのかもしれないし」
ずっとしゃがみ込んでいる知り合いの女の子が心配になったイルミは、リーズの様子を見に行く事を決める。
「大丈夫なの?」
「多分、彼女なら……」
今まで、少しではあるがリーズ達と接した時に感じた彼女の人柄を信じて、騙し討ちをするような人物ではないとイルミは判断する。
「――大丈夫? リーズさん?」
「ひゃ、ひゃう!?」
周囲を警戒しながら、イルミが声をかけると、その声に驚いて冷や水を掛けられたかのように取り乱す。
「だ、だれ!? あえ……い、イルミ君?」
見知った顔にリーズは安堵の表情を浮かべるが、すぐに不安そうな顔をするリーズ。
「一人で蹲って怪我でもしたの、リーズさん? 君のパートナーは?」
「わ、私のパートナー……ですか?」
不安そうな顔をより不安そうに顰める。
「えっと、その……」
リーズはモゴモゴと言い辛そうな様子を見せる。
「……じ、実は私のパートナーは失格になってしまいまして……あの……わ、私一人しか残っていなくて……」
片方が失格になっても、もう片方が残っていればチームとして失格にはならない。
「……どうする、イルミ?」
「いや、どうするって……」
支援役である彼女がこのまま残っても勝ち目は薄い。パートナーが失格になってしまったのであれば、もう諦めるべきだとイルミは思う。
「えっと、リーズさん、リタイアする気はない? 支援役の君だけじゃ、この後、勝つのは厳しいと思うんだけど」
「リタイア……」
リーズはその言葉を聞いて、下を向く。
「あ、あの、どうしてイルミ君は私の事を倒そうとはしないんですか?」
俯いたまま、リーズはイルミに聞く。
「知り合いだったのもあるけど、無闇に戦うのもよくないから、かな?」
「そう、ですか……やっぱり優しいんですねイルミ君って……」
「いや、そんな事は――」
「ご、ゴメンなさい、イルミ君! 実は私のパートナーは――」
急に謝るリーズに何事かとイルミは驚くが
「危ないッ!?」
リーズは話を途中で遮り、イルミを押し倒す。
そして、元々イルミの体があった場所に衝撃波が通り過ぎて行く。
「え、何? どうしたの、リーズさん?」
押し倒されて、何が起こったのか、状況を理解出来ないイルミは混乱していた。
「ごめん……イルミ君」
再びリーズはイルミに謝ると
「リーズ」
ビクリ――と、聞こえてきた男の声にリーズの体は反応する。
「そいつを助けた訳を説明して貰いましょうか?」
静かだがリーズを責めるような口調をした眼鏡をかけ、大剣を持った白髪の男が森の影から現れたのだった。




