回復薬作り
すみません。
朝の予約投稿が上手く出来ていなかったため、夜の21時に二話投稿させて頂きました。
「スゴイ量……」
約1時間で籠の中に盛り上がる程になっていた。コーデリアも手伝いはしたが、ほとんどイルミ一人で集めた結果であった。
「『素材探知』?」
『素材探知』は「採取」系の技能である【探知】熟練度を上げると最初に覚えるスキルで、一度取った素材であれば探知する事ができ、その素材を取った量に比例して探知の精度や範囲が上がっていくスキルである。
「うん。テグリス草の探知。この辺りで一番の取れる回復アイテムの素材だからね。回復薬がなくなりそうになったら野外授業の時間に取ってるんだ」
やはりコーデリアにはイルミに回復薬が必要である意味が分からなかった。
先程から、ちらほらチースタルなど弱いモンスターを見掛けるが敵意を感じない。わざわざ経験値が必要ないイルミは、『武器』系や『職業』系の熟練度を上げるつもりがない限り戦闘をしないため、回復薬を使う事もないはずであった。
「今から回復薬を作るの?」
「そうだね。近くに川原があるから行こうか」
回復薬作りの基本は素材と水分である。組み合わせる素材と水によって効果が変わり、体力の回復、身体能力の向上などの効果をもたらす一方で、魔物を麻痺状態、混乱状態にさせる毒薬にもなる。
まさに毒にも薬にもなる道具である。
「道具生成」系技能の【錬金】の熟練度によって効果値が変わるのだが、今回、イルミが作るのは錬金をする上で基本中の基本である、下位回復薬は、傷が回復する効果はなく、即効性のある疲労回復といった栄養剤のような物であった。
川原に着いたイルミは鞄から錬金に必要な道具を取り出す。ビーカー、アルコールランプ、マッチなど、学院から借りてきた実験キットを取り出していく。
川の水をビーカーに汲んだイルミはそれを沸かし、籠の中にあるテグリス草を細かく潰し始めた。その手際の良さは何度も同じ事を繰り返して来た事を思わせる。
「イルミは【錬金】の技能も持ってるんだね」
「うん、まあ」
一度だけポーションを作ったからと言って【錬金】の技能が発現する訳ではなく、何度も錬金を行うことで、技能ステータスに【錬金】が発現する。それは他の技能も同じであり、技能を持っているのは資格と同じで、一定の経験がある事が示すことが出来るのだった。
「……私にも出来る?」
最初はイルミが回復薬を作っているのを隣で見ていたコーデリアだったが、何もしない事に耐えられなかったのか、回復薬作りに興味が出たのか、自分にも可能なのかを尋ねた。
「大丈夫。簡単に作れる回復薬だから」
初心者錬金術師ようお手軽錬金。イルミはコーデリアに回復薬の作り方を教える。
「どう? 簡単でしょ?」
「うん。上手くいくかは分からないけど――やってみる」
出来上がった下位回復薬の色は綺麗な青色になるのだが、イルミの作った回復薬の中には鮮やかな緑色のポーションが混ざっていた。これは、中位回復薬の色であり、【錬金】の熟練度によって覚える『効果向上』のスキル効果であり、【錬金】の熟練度を上げるほど、そのスキルの効果や発動頻度が増す。
製造職である【錬金術師】にとっては当たり前のように持っているスキルであるが、冒険職を目指しているイルミがそのスキルを持っているのは、かなり異様であった。
「もしかして【錬金術師】の職業を?」
「……酒場で知り合った【高級錬金術師】の人の所に弟子入りした時に少しだけ」
【高級錬金術師】は【錬金術師】の上位ジョブであり、【錬金術】の熟練度を極めた者が成れる職業であった。
「酒場って『双児宮』?」
「うん、その職業の熟練者に会ったら、頼んでそこで働かせて貰ってるんだ」
技能やジョブの熟練度が高い人から指南して貰うと熟練度は上がりやすくなる。そのためイルミは酒場で上位職の人間を見つけては弟子入りしているのだった。
「あの店って実は都内でも人気な酒場だから、色んなお客さんが来るんだよね」
「じゃあ、酒場以外にも働きに行く事があるんだ」
「そうだね」
コーデリアの疑問であった、イルミが幼い頃から酒場で働いている謎が解けた。
「基本職は全部経験済み?」
「……いや、全部ではない……です」
それでも相当な数のジョブを経験しているようであった。
イルミが少し言いづらそうにしているのは、職業をいくつも持っているのは世間体があまり良くないからであった。一般的に目標を一つに決めて、その目標に添って職業や技能の熟練度を上げ、より上位の職業を目指す。
そのため、フラフラと色んな職業を発現させる人間は無能職と呼ばれる【遊び人】の予備軍だと言われているのであった。
イルミが目的も無しに職業を変えている訳ではないことを知っているため、コーデリアがそんな偏見を持ちはしなかった。ただ、やはり本当にそんな方法で強くなれるのか疑うのだった。
「ねえ、イルミ――」
「ちょっ!? リア!?」
イルミの驚きの声がコーデリアの声を遮る。
――ボンッ!
と小さな爆発音が鳴り、ビーカーから煙が立ち込める。中には黒色の液体が出来上がっていた。
「黒い……回復薬?」
そんな色の回復薬が市場に出回っているのをコーデリアは見た事がなく、その珍しい色をした回復薬が一体何なのか分からずイルミに確認をする。
「これは、何?」
これは、イルミと同じ『効果向上』のスキルによって出来た物――ではなく
「えっとね、リア……黒は、その……失敗した、証拠……」
言いづらそうにイルミはコーデリアに真実を告げる
「失敗……」
コーデリアが黒の回復薬を見た事がないのは当たり前で、失敗品が市場に出回ることなんてまず無いからであった。失敗である黒の回復薬を使うと軽度の状態異常を引き起こすが戦闘に使えるものではなく。偶に入手した人が罰ゲーム用として使う事がある程度だった。
錬金に失敗したという事実にコーデリアは肩を落とす。
「また失敗……」
昨日の酒場でのバイトと同じく失敗。
「い、いや、初めてだから失敗もするよ! ほら! もう一回やってみよう!」
まだ籠に残っている薬草をコーデリアに渡す。
「……うん」
もう一度、今度はイルミが丁寧に教えながら錬金を進めてみる――が
「…………」
「…………」
目の前に積み重なった黒い回復薬の山に二人とも無言になる。いつの間にか籠いっぱいにあった素材は全てなくなっていた。
「……ごめん」
「そ、素材はまた集めればいいから。謝るのは僕の方だよ。きっと教え方が悪かったんだ。さっき話した【高級錬金術師】を紹介――」
「いい。私には剣があるから」
「……そう、だね」
拗ねるようにコーデリアが言ったその一言はイルミの心を抉る。
『剣があるから』
それはイルミに取って望んでも届かないモノ。
レベルが上がりさえすれば自分だって言いたい台詞。
錬金が嫌いな訳ではない、しかしイルミが目指すのは【錬金術師】ではなく【勇者】。
――じゃあ、僕には何があるって言うんだ……
「…………」
弱気になるな――そうイルミは自分に言い聞かせる。
忘れてはいけない。何故、何のために彼女に宣誓布告をしたのか。
彼女がいなくとも自分は前を向いて進まなければいけないのだ。




