野外授業
「よかったのリア? せっかくの野外授業なのに経験値の低いモンスターしか出ないこの場所で?」
シンドレア学院では週に二度、王都の外で行われる経験値集めを目的とした野外授業がある。レベルが高くなれば行く事の出来る場所が増え、自分のレベルに合った場所でレベル上げをする事が出来る。ただ重大な怪我の恐れがないよう、かなり安全なマージンを取っているためお世辞にも効率がいいとはいえない授業ではあった。
戦闘技術が認められ、教師から許しを貰った一部の生徒だけは決められたマージンの垣根を越え、更にレベルの高いモンスターが出現する地域に行く事が出来る。
しかし、それでもまだ安全だといえる程である。
「いい。今の私はアナタを守る事が役目だから」
「流石にこの草原じゃあ僕もやられないけど」
王都カンパネラ周辺に広がる草原地帯、出現するモンスターが非常に弱く、冒険職でなくともその草原のモンスターと戦える程である。冒険者はレベリングの効率の悪さから近寄らず、モンスター達もわざわざ人間の前に現れる事もない。この様な地域を「非戦闘地域」と人々は呼んでいる。
基本的に町や村など人の住む場所はそういった非戦闘地域に繁栄している。
カンパネラも同じ理由でモンスターが弱い草原地帯で発展した都であった。
そして、野外授業ではレベル1のイルミは問答無用で都周辺の草原地帯しか行く事が許されなかった。わざわざ草原地帯を選ぶ生徒はおらず、イルミしか草原地帯にはいなかった。また、普通はそれぞれの地域に教員が監視役として連れ添うにもかかわらず、怪我をする心配もないだろうと監視役の教員がいなかった。
のどかで平和なのは確かだが、戦闘を仕事とする冒険職希望の生徒達にモンスターが弱く得られる経験値が少ないこの草原はかなり退屈な場所であった。
「それに野外授業でいける場所はもう、私にはほとんど意味がないから」
「確かにそうだね」
元々、安全な地域に建国されたカンパネラの周辺地域ではそれ程強いモンスターは現れず、コーデリアのようにレベル35もあれば一日の野外授業程度では『女神の加護』があったとしても経験値稼ぎにならなかった。
「イルミはここでいつも何をしてるの?」
イルミは持ってきた籠を見せて
「モンスターを倒して経験値を貰っても意味がないから、技能の熟練度を上げてるよ。「採集」系とか「アイテム生成」系の技能。特に採集は野外じゃないと出来ないから」
「採集?」
「この辺りじゃ、あんまり大した素材はないけど。まあ、回復薬をお店で買っていたら値段が馬鹿にならないから」
「採集」系は生産職、「アイテム生成」系は製造職の人達が持っている技能であり、基本的に冒険職を目指す人物が持つ技能ではない。稀に生産職の人間が、自分の手で素材の採集をしたいと冒険職に手を出す場合があるが、ほとんどは冒険職の人間を護衛として雇うのだった。
「回復薬がいるの?」
イルミが多くの技能に手を出している事を知っているコーデリアはそれらの技能を持っている事に不思議はなかったが、その後に言った回復薬が沢山必要である事に疑問をもった。
草原に出現する弱いモンスターと戦っただけで、それほど沢山の回復薬が必要なのかとコーデリアは思う。自分がレベル1であった時はどうだったかと考えたが、あまりに短い時間だったのでよく覚えていなかった。
「まあ、ちょっとね……別に危険はないんだけど、いや、ある意味危険なんだけど……」
歯切れ悪く答えるイルミに疑念を抱くコーデリア。あれだけの大言をして、やはりレベルが上がらないハンデというのは覆しようがないほど大きいのだろうか。
「それじゃあ、始めようかな」
天気良好、気温快適、絶好の採集日和。
冒険職希望のイルミは、魔物と戦闘もせずに薬草探しに勤しむのだった。




