朝食の匂い
コーデリアが浴室から出ると良い匂いが家中に広がっていた。
リビングからする事に気付いたコーデリアは様子を見にいくと、豪華という面では自分の実家程ではないが、そんな豪華さがなくとも余り有るほど美味しそうに感じさせる朝御飯が食卓に並んでいた。
そこにある料理は昨日、『双児宮』で食べたルリのパスタに通じる何かを感じさせた。きっとルリがまた朝御飯を作ってくれているのかと、コーデリアは思う。
まさか毎朝作ってくれるつもりかと、流石にそれは悪いと思い、何か手伝った方がいいかと気を遣おうとするが昨日の店での失敗を思い出す。
彼女は料理もした事がなかった。
――また迷惑をかけるだろうか……。
昨夜、成り行きでした初めてのバイト作業。剣だけを握り、【聖騎士】に成る事以外に気を向けなかった彼女にとってかなり新鮮な事であった。
改めて自分には戦う以外に能が無いと思う一方で、やはりパートナーであるイルミの事が気になる。仕事に慣れていた彼は毎日のように、あの場所へ行っていると言っていた。
正直、自分が給仕の仕事に向いていないように、努力はしているようだが、やはり彼も冒険職に向いていないとしかコーデリアには思えなかった。
着替えの最中に彼が言った技能ボーナスでステータスを上げる方法でレベルアップをするステータスに追いつくには、想像がつかない程の時間と労力が掛かる。きっと、それだけの時間を掛ければ、どんな職でも一流の職人になれる。
それなのに彼はそれだけの努力と時間をかけても届かないかもしれない冒険職を目指そうとしている。しかも時間がどれだけあっても足りないというのに彼の放課後は店でバイトをしているというので訳が分からない。
でも、彼が本気である事は昨日、会話した時に伝わった。
それなのに何故、彼がバイトに明け暮れているのかが理解が出来なかった。
「ん? どうしたのリア? そんな所で突っ立って」
居間の扉の前で考えこんでいたコーデリアはイルミの言葉によって引き戻される。
イルミは手に料理が乗った皿を持っており、机の上に運んでいた。
「い、イルミ、私も……手伝う?」
少しだけ勇気を出してコーデリアはイルミに言う。
「ありがとリア――でも大丈夫だよ」
「えっ……」
コーデリアは手伝いを断られてショックを受ける。
――やっぱり……。
「これで最後だから、もし、よかったら明日から手伝ってよ」
「……うん」
断られた訳ではない事に安心するも疑問があった。
「二人分?」
机の上に用意された料理の組み合わせは明らかに二人分しかなかった。
「ルリさんはこの時間はまだ寝てるんだ。ルディ兄とリディ姉は今日の仕入れに行ったから、僕達だけの分を作ったんだ」
「じゃあこれ、イルミが?」
少し信じられないという顔をするコーデリア。
「ん? そうだけど? さ、学校に遅れるから早く食べよ」
リアが住む寮とは違い、学校からはそれなりに遠い場所にあるため、いつもより早く家を出なければいけない。
椅子に座って手を合わせてから一口食べると、リアは本当に信じられないと言った顔で
「美味しい……」
と言った。
「よかった」
その反応にハニカムようにイルミは笑う。
「イルミ、【料理】の熟練度は?」
【料理】は名前通りの技能であり、料理に関するスキルが得られ、ステータスは「器用」が上がる。
「んーまぁ、結構溜まっているとは思うけど」
そうだろうとコーデリアは思う。ルリや実家に抱える料理人達に勝らずとも劣らない程の美味しさをそこに感じた。
イルミの料理の腕に本気で彼は技能の熟練度でステータスを上げているのだという実感と、そこまでの腕があるのならば、料理人を目指せば無理なく成功出来るだろうに、という思いが沸き上がってくるのだった。




