リアの弱点
しばらく二人が働き、店内の客が減ってきた頃
「ま、最初はこんなもんかね……」
「…………も、申し訳ありません」
『双児宮』の女性従業員用の大きな白い付け襟が垂れた黒い半袖のワンピースに着替え、邪魔にならないように長い髪を一本に束ねたコーデリアはカウンター席に座り、俯いていた。
「あ、あはは……」
同じく男性従業員用の白い長袖のブラウスに赤いベストに細く真っ黒なパンツに着替えているイルミは落ち込むコーデリアを見て苦笑いを浮かべて、彼女の仕事ぶりを振り返っていた。
結論から言えば、コーデリアは――超不器用だった。
厨房は任せられないので、イルミと一緒に給仕をする事に決まったのだが、まず皿を落とし、客に飲み物を零し、何もない所で食器を運んでいる途中に転ぶという、見事なポンコツぶりを発揮していた。
「まあまあ、落ち込まないでリアちゃん。ほら、ドジっ子は属性だから。可愛いって!」
リディアがあまりピンとこないフォローの言葉をかける。
「でも、意外だよな。貴族の娘って何でもそつなくこなすイメージがあったんだけど」
「いえ、恥ずかしながら今まで騎士としての訓練ばかりでしたので」
「そっか、リアちゃん聖騎士の家系だもんねー。じゃ、しょうがないね」
リディアが今度はまともなフォローをするが、実際に見たコーデリアの仕事ぶりは、それだけでは説明できない程には拙かった。
そんな学院内では見る事が出来ないコーデリアの姿にイルミは新鮮さを覚え、完璧超人のように思っていた彼女にも弱点はある事を知った。
「今日はもう客はほとんど来ないだろうから、お前ら二人は仕事アガんな」
「え、いいのルリ母さん?」
「マジかよ、ルリ母さん!」
「テメエらの訳ねえだろ!」
「「ですよね!!」」
コーデリアですら見慣れてきた親子のやり取りの後、イルミはルリ個人に
「僕とリアを住まわせて貰うのに、先に仕事を抜けるなんて――」
「いいから。働いて貰う話はアタシからの提案だよ。それに、お前はいいかもしれないけど、彼女はどうするんだい?」
彼女というのはコーデリアの事であり、分かり易く落ち込んでいる。
「よく分からいけど、お前のパートナーなんだろ? ちゃんと慰めてきてやりな」
「……そう、ですね」
失敗で項垂れるコーデリアの肩を叩く。
「リア、今日はもう仕事は終わりだって。裏で先に着替えてきなよ」
「ねぇイルミ――一緒でもいい?」
「ぶッ!! な、なんで? 何を言ってるの!?」
そんな面白そうな会話を聞き逃さない双子は大はしゃぎしている。
「二人で話したい。今すぐに」
「い、いやでも、ええ……」
「別に着替えを分けるための仕切りもあるだろ。女の子に話があるって言われてんだ聞いてやるのが男ってもんだろ」
確かにルミの言うように気持ち程度のカーテンはあるが、イルミにとって頼りないその一枚の隔たりだけでは、隣で着替えられるのが気恥ずかしかった。
「で、でも、仕切りがあっても男子の隣で着替えるのは恥ずかしいよね!?」
「私は構わない」
「そうですか……」
そもそもコーデリアが先に言い出した事であるため当たり前の返答だった。
コーデリアの感覚が変なのか、イルミの男らしさが足りないのかは定かではないが、これ以上反対するのは無意味と感じたイルミは諦めて更衣室代わりに使っている、店の厨房裏にある小部屋に向かった。そして、その後ろからコーデリアもついて行った。




