プロローグ レベル1(ザ・ワン)
ガンドルク大聖堂にて、シンドレア学院の半年に一度のとある行事が行われていた。
大聖堂の壁には豪華な色彩硝子の窓がいくつもあり、建物を支えている柱には、金の装飾や天使の像が飾られており、絢爛で荘厳な様子を醸し出す。
中の灯りは燭台に飾られた蝋燭の火と、半球状にくり貫かれたような天窓から差し込む微かな光だけであるため、少々薄暗い。
しかし、明る過ぎない光は、大聖堂の神聖な雰囲気を作り出していた。
大聖堂というだけあって、中には大きな空間があり、そこには木製の長椅子がいくつも並べられており、200人近い若い男女が神妙な面持ちで座っている。彼らは、男子がズボン、女子がスカートという違いはあれど、男女共に黒色を基調とした袖の長い上着を着ており、皆が一様に同じ格好をしている。
生徒達は順番に一人ずつ並んだ席から立ち上がると、神父らしき男が立つ教壇の前へ行くと、両手を握り目を瞑り、祈りの姿勢をとる。
また、生徒達に祈りの姿勢を取ると、教壇にいる神父も何かを生徒に伝えているようであった。
「シーダよ、そなたのレベルは18だ。次のレベルまで――」
どうやら、神父は前に立った男女に彼らのレベルを告げ、その後、次のレベルまでの残りの経験値を告げているようであった。
「カンナよ、そなたのレベルは19だ。次のレベルまで――」
次々と生徒達のレベルを告げられていく中、一人の少女が席から立ち上がった。すると、静寂に包まれていた神殿内が急にざわめき始めた。
その少女は長く美しい白銀髪をなびかせ、周囲の囁きをものともせず、凛とした表情と姿勢で神父の前まで歩く。その姿は明らかに他の生徒達とは違う雰囲気を纏っている。
そして教壇の前に着くと彼女も同じように祈りの姿勢をとる。彼女のそんな些細な一挙一動さえも美しく見えた。
「コーデリアよ、そなたのレベルは――」
神父が発表するほんの僅かなの溜めの間、生徒達のざわめきが消え
「35だ」
告げた瞬間、ざわめきから喧騒へと変わった。
「次のレベルまで残り15840経験値じゃ」
それを聞いたコーデリアと呼ばれた少女は祈りの姿勢を解き、踵を返す。
「レベル35!? 学生のレベルじゃねえぞ」
「すでに王国騎士団の小隊長と同じくらいのレベルじゃねえか」
「15000って何よ? 私の今までの経験値よりも多いし……」
そんな声を気にも留めずに彼女は何一つ変わらぬ様子で元の席へと戻って行った。
「やっぱり、名門生まれで加護持ち天才は違うな」
「そりゃそうでしょ。女神の加護持ちはいつの時代もエリート様よ」
少女が着席した後も生徒達の喧騒は止まない。
「いやでも、もう一人いたな。加護を持った名門生まれの落ちごぼれの――」
「静かに」
大聖堂の隅にいた一人の男の低く威圧的な声が一瞬で生徒達の間に緊張を走らせ、再び神殿内に静寂が訪れる。
「怖え~」
「バカ、喋るな」
「おい、次アイツだぜ」
一人の少年が立ち上がった。小柄で黒髪のその少年はひどく弱々しく見え、コーデリアとは違い、その表情は不安に満ちている。
しかし、コーデリアの順番のように周囲がざわめく事はないが、その少年にも彼女と同じく好奇の視線が集まっていた。そして、少年も他と同じように手を握り祈りの姿勢をとる。その手は他のどの生徒達よりも力強く握っているように見えた。
「イルミよ、そなたのレベルは――」
その時、イルミと呼ばれた少年の手に更に力が加わる。
「1だ」
瞬間、イルミの手は祈りを辞めた。
「次のレベルまで……ん? 1、10――」
「あ、いえ、神父様、大丈夫ですので……」
神父に苦笑いを浮かべて、イルミは肩を落としながら自分の席へと戻った。
「――――」
ボソリと一人の男子がイルミに向かって何かを呟いた。
『レベル1』
何度も言われた続けたその言葉に、イルミは唇を噛み締め、席に座るのだった。