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第73話 テストと団体戦

 皇桜との試合から二週間が経過した日曜日の練習。この日も選手の強化に勤しんでいた。


 司も練習を休んだ二日後には問題なく復帰していた。休んだ日は日曜日、翌日の月曜日は練習自体が休みのため、結果的には休んだのは一日だけだ。


 皇桜戦で負傷した夜空も数日後に軽めの練習から再開して、一週間経った頃には完全に復活した。


 ベストな状態だ。


 夏の大会は七月十七日から始まり、あと三週間程度となっている。


 ただ、一つだけ大きな問題を抱えていた。


「練習お疲れ様。明日からテスト期間に入るけど、大会が近いってことで、練習は許可してもらえたので行います。ただ、リフレッシュも兼ねて、いつもの休みの月曜日に加えて、木曜日も休みにします」


 基本的に土日の練習は、試合を行う場合と、そうでない場合も一日練習できる分キツめの練習を行うことが多いため、疲れを取るために月曜日を休みにしている。そこでテストとの兼ね合いも考え、六日間ある練習日のうち、真ん中辺りを一日休暇とした。


 これだけであれば問題はない。問題はここからだ。


「テストで補習になったら、大会には出れないからもしれないからな」


 巧のその言葉に一部の部員が固まる。テストは赤点(明鈴高校は三十点未満)を取ると追試があり、そこでも赤点を取れば補習となる。


 巧自身も成績はそこまで良くはないが、現時点では赤点を取って補習にまでなるほどではない。もちろん気を抜けば可能性はあるため、しっかりと勉強するつもりだ。


 スポーツ推薦に限っては赤点でも大目に見られるが、約十年前に甲子園に行ってからはあまり良い功績を残せていない女子野球は、年々推薦枠も減少していき、スポーツ推薦で入学しているのは夜空だけだ。


 つまり、一、二年生全員と珠姫と由真は実力で赤点回避しなければならない。


「まあ、二、三年生は知ってると思うけど、赤点を取れば追試があって、それでも赤点だったら三日間を一時間の補習を受けないといけない。大会のことを考えて、特別措置で一日三時間の補習にしてもらえるけど、それも一日一教科だけ。あんまり多いと試合以外の時間の全部を補習に回しても無理だから」


 単純に五教科というわけでなく、国語は現代文と古文というように細かく分けられているため、補習の時間自体はさほど長くない。しかし、五教科が細かく二個ずつに分かれているため、計十教科だ。


 そして補習は夏休みに入ってから行われるため、特別措置で一日三時間受けたとしても、恐らく五教科も赤点になれば出られない試合は存在する。そして……。


「練習時間も無くなるから、出来るだけ赤点は取るなよ」


 ここが一番問題だ。


 一、二教科程度ならまだ試合間のリフレッシュとなるためマシだが、それ以上となれば影響は計り知れない。


 そもそも通常のテストに加えて追試も赤点という二回の試験でも成績不振という人が補習対象者なので、どちらかを突破できれば問題ない。


 この場はそのことを伝えると練習を終了した。




「なあ司、みんなの成績ってどうなんだ?」


 月曜日、放課後に残って勉強をしていた。その際、気になったため司に尋ねた。


 全校生徒は三百二十人で、四十人が八クラスという形だ。司はその中でも、中間テストでギリギリ百位に入らなかったくらいだ。巧は真ん中よりもギリギリ上くらいだ。


 八クラス中六クラスが普通科で、二クラスは理数科と言って受験の際に成績上位者が入るクラスだ。女子野球部でその理数科に入っているのは白雪だけだった。


「え、どうだろ。伊澄と黒絵がヤバイっていうのは知ってるけど、陽依とか瑞歩は知らないかな。でも中間テストでヤバかったって聞かないから、普通なんじゃない? 白雪は二桁順位だったっていうのは聞いたよ」


 案の定というところだ。黒絵はなんとなく予想がついたが、伊澄は黙々となんでもこなすというイメージもあったため、少し意外なところかと思ったが、野球のことしか考えてないという点を考えると、成績が悪くても納得はできる。


 あとは陽依は悪いものだとばかり勝手に思っていた。


「うーん、ちょっと連絡してみよっか」


 そう言いながら司は携帯を操作し、何かメッセージを送っている。


「あ、もう返ってきた」


 そう言って見せてきたのは、女子野球部一年生というグループだ。一応巧ももう一つある女子野球部一年生のグループには入っているが、これは女子だけのグループだろう。


『今巧くんと二組で勉強してるんだけど、みんなの成績大丈夫か心配してる』


 と司は送っており、それに対して陽依は、


『うちも伊澄と白雪と六組おるでー』


 とだけ返ってきており、成績については触れていない。


 そしてこの後に続いて黒絵が、


『私と瑞歩ちゃんは四組いるよ。ヤバイよー』


 と返ってきていた。


 巧と司は二組、瑞歩と黒絵は四組、陽依が五組で伊澄は六組、白雪は七組だ。各々、同じクラスか近隣クラスの人と勉強をしているようだ。


「お二人さんお二人さん」


 やり取りを見ている中、陽依が二組までやってきていた。そこで巧と司に声をかける。


「六組集合!」


 唐突にそれだけ言うと、颯爽と廊下に消えていった。


「なんなんだ……」


 巧はそうぼやきながらも、荷物をまとめて司と二人で教室を移動した。


 ちょうど移動していると、黒絵と瑞歩も四組から出てくるところであり、四人で六組へと向かった。


 六組に入ると、陽依と白雪が伊澄に勉強を教えているという構図が出来上がっていた。


「これは由々しき問題や……」


 陽依が唐突に言い始める。机を動かし、六台を向かい合わせで並べ、一台はいわゆるお誕生日席状態という形となった。


 そこで陽依は「バンッ!」と机を叩くと、問題提起した。


「伊澄がやばい」


 それに対して伊澄も反論するが、かまわずに陽依が続ける。


「多分、一番やばいのが伊澄、次が黒絵や」


 名指しされた黒絵が身体を硬直させる。自覚はやはりあるのだろう。


「前回の中間テスト、伊澄は何位やった?」


「……三百位くらい」


「正確に!」


 曖昧に濁す伊澄に対し、陽依は厳しく叱咤した。


「…………三百十二位」


 下から数えると九番目だ。想像以上に悪い。


「黒絵は?」


「さ、三百三位です!」


 こちらも下から十八番目。


「他のみんなは何位やった?」


「私は百四位」


 司が真っ先に答える。それに続いて、巧、瑞歩、白雪も答えた。


「俺は百四十九位だな」


「私は二百十二位だよ」


「私は七十八位」


 この中で言えば白雪がダントツでトップだ。もちろん今後次第では順位の変動はあるだろうが、高校最初のテストは基礎になる場合も多いだろうし、入学してからまだ日は浅い。普通にやっていれば、中間テストでたまたま調子が良かったり悪かったり、期末テストで調子が良かったり悪くない限りは大きな順位の変動はないだろう。


 つまり、順当にいけば、伊澄と黒絵は最下位付近の順位で落ち着いてしまう。


「そういう陽依はどうなのさ」


 伊澄が反論する。確かに陽依は伊澄や黒絵と合わせて『煩い組』と巧が呼ぶほど自由奔放だ。普段の行動から見るに、巧としては伊澄と黒絵に加えて、陽依の成績も元々不安があった。


 しかし、その期待は良い意味で裏切られた。


「うちは三位や」


 まさかの一桁順位だ。これには全員驚いている。そして巧は一つの疑問が浮かんだ。


「成績良いのに理数科じゃないんだ」


「あぁ、元から普通科志望やったからな」


 理数科は、入試での成績上位八十人が振り分けられるクラスではあるが、元々普通科で受験した人は別だ。


 巧の場合、とりあえずで理数科を受け、受かったのは普通科というスライド式も存在するが、普通科を受けて理数科となることはない。


 成績上位で入った分、理数科は多くの課題や好成績が求められる。そして受ける授業も変わる。それを踏まえてあえて普通科を受験する人は、多くはないとはいえ、いないわけではない。


「まあ、そのことはええねん。問題は伊澄と黒絵をどうするかっちゅう話や」


 逸れていた話が本筋へと戻る。もしこの二人がいないとなれば、エースと二番手の不在となり、棗か守備の要である夜空や陽依を起用せざるを得ない。


「瑞歩も今はええけど、どっちかと言えば危うい位置にはおるから、成績を上げやんとあかん。かと言ってうちと白雪で二人を教えるのはキツい。……さっき教えてたけどこの通りや」


 そう言って陽依は一枚のプリントを広げて見せる。


 ルーズリーフに問題を解いており、それの採点をした結果のようだ。しかし、その中身はバツばかりだ。


「他人に教えるのは勉強になる。やから司と巧は伊澄と黒絵のどっちかを教えて、それでもわからんだり司と巧がわからんところあったらうちと白雪で教える。そんで瑞歩はわからんところあったらうちか白雪に聞くって形で勉強してこう」


 陽依の提案は納得のいくやり方だ。陽依と白雪に頼りきりでは二人の勉強が疎かになる。そして、巧と司はわからないところがあれば聞けるという状況であり、伊澄と黒絵に教えることで復習にもなる。


「いかに赤点を防げるか、それが今の明鈴高校女子野球部に課せられた試練や……! そんで、完璧な状態で夏の大会を挑む。この期末テストは各々が頑張る個人戦やない。チーム全体で赤点を取る人数を減らすっちゅう団対戦や!」


 成績上位を目指すというわけではなく赤点回避という点に関しては低い目標ではあるが、陽依の言う通りかもしれない。


「このバカ二人おらんだら、一回戦すら怪しいで!」


 伊澄と黒絵は『バカ二人』という点に関して文句を言っているが、その通りだ。打撃力と守備力は良いが、投手力の弱体化と控えがいないことによる不安感は拭えない。


「とりあえず、全員で赤点回避。だな」


 巧がそう締めくくり、勉強会が始まった。


 まだ一年の一学期時点ということもあり、巧は順調だ。司も瑞歩も問題ないといった様子だ。


 しかし、完全下校までの約二時間、みっちりと勉強したものの、伊澄と黒絵は大した成果を得られなかった。


「……どうするよ、マジで」


 陽依は絶望といった様子で顔を抑えながら机に伏せている。


「時間足りないよなぁ」


 二時間ではわからないところを全て網羅することができない。そもそも中間テストまでの範囲である序盤の時点でつまづいているレベルだ。そこからの復習となるともっと時間が必要だ。


「七時超えたら教室も使えないから、どこかで集まってやるしかないよね」


 場所を移動して勉強をする。白雪の案は良い手ではある。ただ、喫茶店となれば雰囲気的にもあまり声を出せないため、一人ならまだしも複数人で勉強をするには向かない。ファーストフード店は声を出してもまだ良いとは思うが、逆に周りの音で集中しきれない。


「そうやったら最適な場所あるで」


 伏せていた陽依がいつの間にか復活しており、自信満々に宣言した。


「第一回・明鈴高校女子野球部【赤点回避勉強会】IN姉崎家、開催や……!」

 

試合描写、シリアスな描写が続いていたため、コミカルな日常回を入れたいと思い、書かせていただきました。


テストって大変でしたよね……。


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