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第46話 後悔と意思

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 長かった試合が終わり、その後のストレッチも終わる。ストレッチは再び司に背中を押してもらったのは言うまでもない。


「さーて、ご飯ご飯」


 司が伸びをした後に歩き出す。遠くからは「肉だ肉だー!」と叫ぶ声が聞こえる。


 明日は最終日ということもあり、合宿最後の晩ご飯は豪勢にグラウンドでバーベキューだ。育ち盛りの男子高校生である巧はもちろん、動き回って疲れ切った選手たちも待ち望んでいたバーベキューだ。


 ただ、巧はその前にやることがある。


「司、悪いけど先に行っててくれ」


「どうかしたの?」


「……まあ、ちょっとした野暮用だよ」


 そう言い残すとグラウンドとは違う、学校の校門へと歩き出した。




「お待たせしました」


 一人、校門付近で壁にもたれながら暇を持て余している人物に声をかける。


 その人物は、女性。巧よりも年上だ。そして、可愛いというにはやや大人びているが、綺麗というにはどこか少女らしさを残している。どちらも兼ね備えているような美少女だ。


「初めまして、佐久間由真さん」


 佐久間由真、三年生。一年生でマネージャーの佐久間由衣の姉であり、明鈴高校女子野球部の元部員だ。


「初めまして、監督さん」


 どこか刺々しい口調の由真のことを気に留めず、巧は続けて言った。


「どうでした、今日の試合?」


 あらかじめ、由真には由衣経由で試合のことを伝えていた。そして試合が始まって最初の方に物陰から見ている姿を確認していたため、試合後に残ってもらうように由衣から由真に伝えてもらっていた。


 つまり、試合はほぼ全部見ていたということになる。


「まあ、いいんじゃない? 一年生でいい子とかも入ってるみたいだし、七海とか亜澄も成長している。今年はそこそこいけるんじゃないかな?」


「去年の結果も知ってるんですね」


 由真が部を離れたのは去年の夏前と聞いている。大会には出ていないため、結果を知る由もない。


「気にはしてるからね」


 人によるが、辞めた部の話など聞きたくない人も多いだろう。気にしているだけ多少の未練は残っている、巧はそう考えている。


 ──────だから、


「単刀直入に言います。部に戻ってきてくれませんか?」


「嫌だね」


 即答。戻ってきて欲しいと言ってすぐに戻ってくるのであれば、そもそも辞めていないか今までの間に戻ってくるであろう。その答えは予想していた。


「そもそもなんで私に戻ってきて欲しいって思うの? 今日が初対面でしょ」


 巧は部の内情で由真の存在は知っていた。そして由真も由衣経緯で巧の存在は知っていただろう。しかし、初対面というのは確かだ。


「監督として言うなら、少なくとも選手層の強化には繋がります。……そして夜空も少なからず由真さん……あ、由衣がいるので名前で呼ばせていただきますね。由真さんや辞めていった部員のことを気にしている。由真さんが戻ってくることで、少しでも夜空の気分が軽くなればと思ってます」


 これは確信に近い予想だ。夜空が由真や辞めていった部員のことを酷く気にしていた、落ち込んでいたというのは、珠姫や男子野球部で夜空の幼馴染である砂原大地から聞いていた。


 今回の話は夜空に話していない。ただ、由真をここに呼んでもらった由衣や、珠姫、大地には話してあった。


「夜空が私のことをそんなに気にしているとは思わないけどね。……それに他の子たちもいい気はしないでしょ」


 『他の子』というと、由真が直接関わりのあった珠姫や二年生たちのことだろう。確かにその辺りは考えが足りていなかったため、また確認を取る必要はあるだろう。


「最後にあと一つだけ。由真さんに戻ってきて欲しいって言った理由ですけど」


 長々と話をしていては、由真の時間を無駄に取ってしまう。そしてバーベキューをするのに待っていれば申し訳ないし、先に始められていれば少し悲しさはある。


 そのため、これで最後だ。


「由真さん、まだ野球好きですよね?」


 野球部への復帰を断った理由として真っ先に出てきたのは夜空や二年生の気持ちだ。野球をしたくないからなどとは言っていない。


 そもそも、部を辞めてから学外のクラブチームで野球を続けているという話を由衣から聞いていた。野球が嫌いであれば部を辞めた時点で野球を続けるという選択肢はないはずだ。


 そのことから、まだ由真は明鈴高校女子野球部に未練があると確信していた。


「……確かにそうだね。野球はしていたいよ」


 由真はあっさりと認め、観念したかのようにポツリと呟いた。ただ、どうしても部に戻ることに心が引っかかっているようだ。


「また、気が変わったら教えてください。あと、由衣経緯で毎回連絡するのは面倒なので、連絡先だけ教えてもらえませんか?」


「はぁ……、はいはい」


 由真は携帯を鞄から取り出し、連絡の取れるアプリを起動する。連絡先を交換すると、携帯を鞄に戻した。


 由真が帰路につくのを見送る。


「やっぱりな……」


 由真と初めて対面してからハッキリとした。以前、初めて巧が監督をした試合も由真は見にきていた。


 グラウンドで試合となれば、試合を見ている生徒はいた。他の部活だったり、補講や自主勉強など何らかの用事のついでに試合を見ていく生徒がいた。その大抵の生徒は試合の全てを見るわけではなく、長くても一時間もしないうちにいなくなってしまう。


 そんな中、巧が気付いてから最後の方まで見ていく生徒はいた。遠目ということもあり、ハッキリとはわからない。そして珍しくもない明鈴の制服を身に纏っていたため、確実とはいえない。ただ、おぼろげな記憶が正しければその生徒は由真だった。


 そして、合宿二日目の学校別試合でも由真は見に来ていた。


 夜空を気にしていたのか、他の部員を気にしていたのか、それは知る由もない。ただ、試合を見に来て何かに気をかけている。それは確実だ。


「さて、どうやって説得するかだな」


 自分自身、半ば強引に入部することとなった。もちろん後悔はしていないが、由真の意思にそぐわないことはしたくない。


 願わくば、自分から入部してくれることを願うのみだ。

長かった試合が終わったため、その後の会話パートが続きます!

野球パートもいいですが、人間関係に関わるパートでもありますので、ぜひお楽しみください!

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