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第38話 三年生と二年生② 思考とホームラン

 三者凡退で終えた三年生チームの攻撃。その後の二年生チームは一番の川元一から打順が始まる初回の攻撃だ。


 一は俊足の選手だ。水色学園の監督である佐伯先生が一もそうだが、二番に入っている雪穂のように、今入っている打順で起用することを考えているのかもしれない。そうであれば厄介な選手という予想ができる。


 そうでなくとも俊足の選手、そして先頭打者は塁に出したくない。


 まずは初球。様子見として、左バッターの一に対して食い込むような内角低めのストレートだ。一は初球の際どいボールを見送……らずにいきなりバットに当ててきた。


 結果はボテボテの平凡なサードゴロ。それでも一塁の判定は平凡なゴロにしては惜しい。アウト判定というのはハッキリ分かるが、それでもボテボテのゴロとは思えないほど際どく、快足を飛ばして一塁付近まで到達していた。


 それにしても先頭打者が初球の難しい球に手を出してくるとは思わなかった。ピッチャーの球筋を見極めるために、球数を投げさせる役割を担うことが多い。


 ただ、一がそういう打順の役割を気にせずにバッティングしただけかもしれない。そういう方針で二年生チームはこの試合に挑んでいる可能性はある。


 そして難しい球に手を出した理由がわからない。バッティングが苦手なのか、バッティングが得意だが打ち損じただけなのか、正直考えても仕方がないが、対策を練るのに何も情報がないことがもどかしかった。


 巧の考えがまとまらないまま、二番の明石雪穂が打席に入る。


 以前の試合の際に一番の伊澄が積極的に打って、二番の白雪がボールを見るということがあった。もしかしたらそういう方式なのかもしれない。


 そう思った雪穂の打席だったが、ボールが先行してツーボールワンストライクとなっていた四球目、外角低めの逃げていくカーブに手を出した。バットの先に当たっただけなボールは、ファーストへの平凡なゴロに終わった。


 まだカウントには余裕があった。カーブという見極めができていなかったことを考えると確かにそれなりに手を出しやすいボールだ。それでもこのボールは見てもよかったのではないかと思う。


 考えすぎだな。


 巧は自分で自分を律する。考えてもわからないことを考える。これは監督を始めてからのことで、いつもと違う視点で試合を見ようとする結果、考えなくてもいいことまで考えて自分の中でモヤモヤとし、余計に考えがまとまらなくなっていた。


 切り替えて守備に気を張らなければならない。三番の七海は流し打ちが得意だ。右打者の七海としてはライト方向への当たりだ。全方向に打てるが、ライト方向にも強い当たりを打てるのが七海の持ち味だ。


 そんな七海に夜空は初球からじっくりと攻めていく。


 まずは外角低めのストレート、コースいっぱいだ。ここには七海は手を出さず、構えられたミットから微妙にずれたためボールとなる。


「ナイスボールナイスボール!」


 キャッチャーの景は積極的に声をかけて夜空を奮い立たせる。非常に惜しいコースでいいボールだった。


 二球目は今度も外角へ、そして初球とは違い高めへのチェンジアップだ。七海は緩いボールに反応するが、タイミングを外されてバットは空を切る。


「ストライク!」


 初球はボールだったが今回は空振りを奪い、カウントはワンボールワンストライクと並行カウントに持っていった。ツーボールだと一気に不利になるので好ましい状況だ。


 三球目、今度は内角低めのカーブを七海は見送り、ストライク。ボール先行からあっという間に追い込んだ。


 いい感じだ。そう思ったが、四球目の内角低めのストレートはしっかり見極められてボール球となった。


「いいよ、ナイスボール!」


 コースは悪かったが力の入ったいいストレートだった。景は少し間を取るために一拍置いて返球する。


 五球目には三振を奪いにいった外角低めのカーブに対応され、一塁線をギリギリ割る強い当たりのファウルだ。


 六球目は一旦配球を仕切り直し、内角高めを攻めたがこれもバックネットへのファウルとなる。


 七球目、内角低めへのストレートが外れて、ついにフルカウントまでもつれ込む。


 そして八球目。内角高めへのカーブだ。コースいっぱいの際どいボール。そのボールに七海のバットは反応した。


 内角高め、その難しいボールに七海のバットは空を切った。しかし、ボールは景のミットに収まらず、バックネット付近で転々としている。


「ファウル!」


 七海は三振ではなくファウルの判定。微かにバットに当たったことによって景は捕球を失敗した。


 夜空は残念がっているのか、一瞬天を仰ぐ。


 九球目、今度は外角低めへのストレート、際どいコースだ。それに七海のバットは動かない。


「ボール、フォアボール」


 審判の冷静なコールとともに七海は一塁へ歩き出す。


 今のが外れてしまったか。微妙なところだったが、それを平然と見逃す七海の選球眼を巧は素直に称賛した。


 ランナーを出してしまったがツーアウトだ。ここを抑えればなんら問題はない。


 続いては四番に入っている亜澄だ。巧としても四番候補の亜澄はパワーはあるがややミート力に欠ける。それでもクリーンナップ(三番、四番、五番の打線の主軸)筆頭の長打力を誇る選手だ。


 そんな亜澄に対しての初球。夜空の指先から放たれたボールは景のミットに到達する前に消えた。


 一瞬でレフト上方のフェンスに直撃した打球はやがて落下し、レフトを転々とする。打球を確認した三塁審判がやがて手を挙げて回す、ホームランのコールだ。


 夜空はガックリと項垂れる。打った亜澄には笑顔が溢れていた。フォアボールを出したことによってやや甘く入った外角低めのストレートをレフトまで運んだ。ボールがグラウンド外に出ないようにそびえ立つフェンスでも真ん中あたりだ。地方球場でもフェンスは超えている文句なしのホームランだ。


 打った亜澄本人はもちろん、打球を多く見て球数を増やし、安全にストライクを取ろうと夜空に意識させた七海の功績も大きい。


 同じ明鈴の選手がホームランを打ったというのに素直に喜べないし、明鈴の選手にしてやられたことで素直に悔しがれない。ただ、チームの失点という点を考えるとやはり悔しさは大きかった。


 気を引き締め直した夜空は、五番の佐野明菜を問題なく打ち取ったが、初回からの痛い失点を浴びた。しかも二点だ。


 まだ初回で反撃のチャンスは何度もある。しかし、マウンドに立ちはだかる土屋護を打ち崩すこと、そして今後の失点を最小限に抑えること。問題点は多かった。


 この試合、難しい展開になりそうだ。

いつも夜投稿が多いですが、この時間の投稿固定したいなぁ……。


さて、今回の話も三年生チームと二年生チームの対決です。どういう展開で進めていこうか、というのは悩み中ですが、大まかな流れは考えております。

個人的に「だいぶ書いたなぁ」と思っていましたが、年末からまだ物語上二週間も経っていませんでした(笑)

特にイベントがないと早いのに何かあったらゆっくりなんですよね。

そんな極端な本作ですが、お楽しみいただければ幸いです!


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