第34話 二年生と一年生⑥ 王道と邪道
ノーアウト満塁から、なんとか一点のみに抑えた二年生チーム。まだ二点差、ひっくり返らない点差ではない。
そんな二年生チームの六回表の攻撃は、五番の羽津流から始まる。彼女は光陵でも主軸の選手だ。今日はまだ当たりが出ていないが機体は十分にできる。
そして、先ほどの攻撃で代打や代走を出した一年生チームは大幅な守備交代を行う。
オーダーは琥珀以外全員守備位置、もしくは選手の交代があった。
一番センター立花琥珀
二番ライト神崎司
三番ファースト石岡祐希
四番レフト六道咲良
五番キャッチャー志水柚葉
六番ピッチャー速水輝花
七番セカンド白夜楓
八番サード八重樫颯
九番ショート成瀬未紗
以上のようなオーダーに代わった。
「大きく動いたな……」
神代先生の采配は、勝つというよりも選手の特徴を掴むために試す采配に思える。しかし、そんな中でもこの二年生チームとの試合では、主軸をうまく使って得点し、勝ちにいくような姿勢も見える。
一年生チームのメインポジションがキャッチャーの選手は司、楓、柚葉と三人いるが、この三人を別ポジションに回したり、琥珀や陽依を使ったように、選手の可能性を確かめるための試合のようにどうしても思えてしまう。
考えていても仕方がない。それに何故そんな采配をしているのか、理由がわかったところで意味もないのだ。ただ、一度試してみたいと考えていた司の外野を試してもらえるのはありがたい。
六回と七回の二年生チームの攻撃でしか司の動きは見れないため、打球が飛ばないか期待するのみだ。
輝花の投球練習が終わり、バッターの流は打席に入る。
この学年別の試合での何度目かの同校対決だ。最初は他校に特徴が分析されてしまう可能性を懸念して不安な面も多いものではあったが、ピッチャーもバッターもお互いに特徴を把握している選手同士が試合上で対戦できるというメリットがある。
光陵は人数も多いため、紅白戦も十分にできるだろうが、水色は人数ギリギリ、明鈴に至っては人数が足りないため紅白戦が行えない。そのため、実戦で同校対決というのはできないのだ。
そしてお互い特徴、弱点を把握されている中、どのように抑えるか、どのように打つのかを考えるため、今後の公式戦で相手を研究し、研究されている同士で対戦する際のことを考えると、非常に役に立つ練習試合だ。
そして輝花と流の対決。輝花は左投げのサイドスロー、さらに投球フォームもトルネード投法と特徴的であまりいないタイプの選手ではあるが、主軸のパワーヒッターの流はどの高校でもいるようなタイプだ。輝花としては非常に実りのある対戦だろう。
この打席の決着はあっさりと着いた。三球目を捉えてフェンス直撃のヒットを放つが、琥珀の打球反応が素早く、流は一塁で止まった。
「当たりは良かったんだけどなぁ」
フェンス直撃であればツーベースヒットになることが多い。しかし、打球の処理の仕方はもちろん、流のパワーがある故に打球が強すぎたため、二塁まで到達できなかった。
そして続くのは六番の三船魁。二年生チームで唯一となる本職キャッチャーの選手のため、恐らく次の対三年生チームでの出場もあるだろう。巧としてはじっくりと見ておかなければならない。
この魁に対して、輝花はストライク先行で攻めていく。ボール球を投げれば粘られて徐々に不利となることを理解しているのだろう。五球目を投げてボール球は一つだけだ。
六球目には左打者の魁に対して逃げるようなスライダーを放ち、空振り三振を奪い取った。
今のピッチングは上手い。内角ばかりを投げて内角を意識させて外角を狙った……というピッチングではない。序盤に外角を狙い、外角を意識させた上で少しだけ内角に散らし、内角で勝負をすると誤認させた上で外角で勝負を仕掛けた。
一年生のキャッチャーの内、リードであれば嫌なリードをする司が頭一つ出ていると思っていた。しかし、柚葉のリードも王道も邪道も攻める嫌なリードかもしれない。司と同じか、それ以上にも感じる。
「ワンナウト、ワンナウト!」
柚葉は積極的に声をかける。これも大事な連携の一つだ。
「志水さんは、凄さを感じないのが逆に凄いように思えるね」
「……どういうことですか?」
美雪先生の言葉がイマイチわからなかった。いつもは美雪先生が質問して巧が答えていたが、今回に限っては巧が問いかける形となった。
「プレーとかはわからないけど、さっきのは志水さんが凄かったから三船さんから三振が取れたのかなって思ったんだよね。でも志水さんはそんなに凄いことをしているようには見えなかった」
それを聞いて何が言いたいのかなんとなくわかったかもしれない。
「高度なプレーを当然のようにできるっていうのが凄いってことですか?」
「そうそう!」
なるほどな、と巧は納得する。
例えば、スライディングキャッチをすれば『凄いプレーだ!』と誰もが思うだろう。ただ、それがもし打球反応が遅れて打球の落下地点に入るのが遅れただけならばどうだろうか?
同じ条件下でスライディングをせずに捕球する方が断然凄い。
そして柚葉はその凄さを見せずに当然のように凄いプレーをしたということだ。
一見地味ではあるが、同じコースを攻めた後に逆のコースを攻めると、反応が遅れることとストライクゾーンの位置が把握できていないこともあって打ちづらいだろう。そしてキャッチャーの魁だからこそ、そういう打ちづらいであろうコースを狙おうとし、柚葉はその裏をかいたということだ。
流の打席でも魁の打席の五球目までに使わなかったスライダーを決め球に持ってきた。その日の調子によってやや変わる変化量すら見せずに三振を取りたいところで取ったのだ。
連打を浴びたりフォアボールで出塁を許せばノーアウトでピンチとなる。その状況を潰すために、柚葉は早めに勝負を仕掛けた。
二年生チームはまだまだ怖いバッターが続く。途中から七番に入っている馬場美鶴だ。昨年は主に二番を打っていた。そもそも光陵は昨年控えだった三年生の柳瀬実里も含めて打撃力が高い攻撃型のチームだ。その上で守備もしっかりと高いレベルを維持しているのが強さの理由だ。
そんな美鶴にも輝花は物怖じしない。
初球、二球目と外角低めへのスライダーを連投し、ストライクを奪う。何球も連投すれば狙い撃ちされるが、初球で投げたことによって連投はないと二球目の選択肢を外させた。それによって狙われることはなかった。そして三球目も外角低めへのスライダーだ。これはファウルとなったが、追い込まれてなおボールカウントはないままだ。
「嫌だなぁ……」
キャッチャーのリードにはセオリーはあるが、正解はない。セオリー通りの配球をすれば打ち取れるかもしれないが、逆にセオリーを把握しているバッターや感覚で打てるバッターであれば打たれる可能性もある。つまり結果論だ。
先ほどの魁のようにキャッチャーであればそのセオリーを把握して、セオリー通りの配球を狙い打とうとする場合もある。内角を意識させて外角、ではなく、外角を意識させて外角と、意味不明なリードが有効だったのにはそういう理由もあった。
セオリー通りの王道とセオリー外の邪道。どちらのリードも併せ持ったリードでピッチャーを操るのが柚葉の持ち味だろう。
そして四球目は内角高めのストレートだ。これに美鶴はついていき、バットに当てるものの真上に上がっただけのキャッチャーフライだ。
今度はセオリー通りに外角を意識させて内角を攻めた。しかし、外角を意識させる方法も強引かつ邪道な方法に思える。
次の打者は途中から八番に入った煌だ。打撃が得意ではない煌。攻撃があと一回とワンアウトしかないことを意識しすぎたあまり、初球から当てに行くだけとなってサードゴロに打ち取られた。
先頭打者が出塁したものの、チャンスを作ることも出来ずに回を終えることとなった。
苦しいだろうな。
二点差の状態であと一イニングしか攻撃のない二年生チームに対して、一年生チームはまだ二回も攻撃が残っている。逆転に成功してもまだ攻められ続けるのだ。
あとがなくなった二年生チーム。佐伯先生がどのような策に出るのか、そして神代先生がどのようにリードを守るのか、巧は楽しみで仕方がなかった。
以前16時と1時を目標に投稿と言いましたが、ストックができるまで24〜25時投稿を目標にさせていただきます。ご了承ください。
二年生チーム対一年生チームがようやく終わりに近づいてきました!三年生対一年生よりは短くしようと思ったのですが、同じくらいになりました……。
次に書く三年生対二年生は短めにして物語を進めていきたいと思います!(フラグ)
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