第28話 対策と答え
試合後のストレッチが終わり、グラウンドに戻るとそろそろ試合も始まりそうだというタイミングだ。
昼食も今のうちに摂らないといけないため、用意されていたおにぎりを今のうちに取りに行き、二人分持ってくる。
「先生もどうぞ」
「わ、ありがとう」
美雪先生は監督も審判もできないため、今日はずっと試合のスコアをつけながら何かメモを取っている。
「それ、なんですか?」
巧はメモを指して尋ねる。
「これね、選手の特徴とかを自分なりにまとめてるんだ。何か気付いたことがあったら教えてほしいって神代先生と佐伯先生に言われてるし、今後甲子園で当たった時にも対策方法として使えるかなって」
「それはまた、気が早いですね」
甲子園は目標ではあるが、今年行けるのかというのは危うい。三年生の夜空は全国レベルなのは間違いなく、仮に珠姫が復活したとしてもどのレベルかはわからない。二年生も現時点の巧の構想では一年生にレギュラーを奪われている選手が多く、一年生も伊澄や陽依などの高レベル選手が揃っているがあくまでも一年生レベルでの話だ。
強豪校ともなると、夜空レベルとはいかないまでも、強豪校でレギュラーを張れるような選手たちだ。逆に明鈴の選手が強豪校にいたとして、夜空はレギュラーだとしても、他の選手はどうだろう。伊澄は将来性も込みでベンチ入りできる可能性は高いが、陽依や七海辺りが運良ければベンチ入りできるかどうかだ。
正直言って、巧としては二年後が本命だ。もちろん今年も全力で挑むことには違いないが。
「まあ、考えておくに越したことはないよ」
確かにそうだ。先を見過ぎでも足元を掬われるが、チャンスがあるなら先のことまで考えても悪いことではないだろう。
「美雪先生ー。これどうぞ」
この試合途中まで主審を務める夜空がメンバー表を持ってくる。
そのメンバー表を書き写す美雪先生の手元を覗きながら巧はスタメンを確認した。
先攻の二年生チームのオーダーは、
一番センター松永春海(光陵)
二番セカンド宮本友梨奈(水色)
三番サード藤峰七海(明鈴)
四番レフト森本恭子(光陵)
五番ファースト羽津流(光陵)
六番キャッチャー三船魁(光陵)
七番ショート北条梓(水色)
八番ライト月島光(明鈴)
九番ピッチャー結城棗(明鈴)
というオーダーだ。
対して後攻の一年生チームは、
一番ショート立花琥珀
二番セカンド乙倉奏
三番ピッチャー瀬川伊澄
四番ファースト鈴鹿明日香
五番レフト君塚雫
六番センター三好夜狐
七番キャッチャー姉崎陽依
八番ライト冴島琴乃
九番サード近藤明音
というオーダーとなっている。
二年生チームのオーダーとしては人数が多く昨年の甲子園出場したメンバーである光陵の選手を多くオーダーに組み込んでいる。
一年生チームは先ほどの試合と違い、今度はほとんどがメインのポジションに就いている。そして各校でも主力となり得る選手が多くオーダーに入っていた。
そして、伊澄と陽依のバッテリー。何回までかはわからないが、司は代打の出場だと言っていたため、このバッテリーでいくのかもしれない。
この二人のバッテリーは巧も考えなかったわけではない。基本的なキャッチャーとしての能力は、陽依よりも司の方が高い。しかし、守備能力としては陽依のが高く、なによりも伊澄と古くから付き合いのある陽依であれば、彼女の投球を最大限に活かせる可能性が高いと思っている。
「ただ、そうすると外野がなぁ……」
以前にも陽依をピッチャーにするということを考えた際にも、堅実な守備ができる陽依が外野から抜ければあとは煌くらいだ。その煌もバッティングは微妙なので、チャンスで回ると代打を考えたり、そもそも守備固めとして登場させることも考えている。
また、光であれば足はあるが、守備がやや乱雑なこととバッティング能力も煌より少し得意くらいなため、これもチャンスで回れば代打を考えたり、そもそも代走起用ということを考えている。
「何考えてるの?」
一人で考え込んでいると、美雪先生に声をかけられた。
「いや、陽依キャッチャーもいいなって思うんですけど、外野が手薄になるので」
今の段階での構想としては陽依を中心に煌か光をライトに置き、レフトは梨々香、棗、黒絵辺りだ。もっとも、伊澄がセンターに入れば陽依をレフトに回して最も強固な外野陣になるが、逆に言うとエース級の伊澄が不在、もしくは登板前や降板後ということになる。
「夜空ちゃんか、司ちゃんは?」
「夜空だとセカンドが鈴里になるんで、煌を起用した時とあんまり変わらないんですよね。司はまだありかなぁ……」
司、もしくは司をサードに回して七海をレフトに持っていくのはアリかもしれない。ただ、司をキャッチャーから外すとなると、キャッチャーでほぼフル出場を強いている状態のため休ませたいところだ。
「試してみたいところですけど、下手なことしてチーム全体の調子を崩すのも怖いんですよね」
練習試合の一試合で調子を崩すこともないかもしれないが、もし負けた場合それを引きずって公式戦を迎える、なんてことはあってはならない。
「みんなそんなに弱くないから大丈夫だと思うよ? 技術もメンタルも」
「おっしゃる通りです」
監督としてそれが正しいのかということばかり考えてしまい、消極的になりすぎているかもしれない。「野球初心者だから」と美雪先生は自分を卑下することもあるが、技術面以外では助けられていることも多いため、美雪先生の存在に感謝しながらも自分はまだまだ未熟だと思い直す。
「まあ、夜空が抜けてからが一番危ういので、この辺りは秋以降に考えます」
「うん、それでいいと思う」
夜空が抜ければ必然的にセカンドが鈴里、もしくはサードに誰かを回して七海ということになるため、打撃力が一気に下がる。そして司を休ませるタイミングに陽依をキャッチャーにすると考えると、その時はまた対応策を考えなくてはならない。
試合進めようと思ったら進まなかった!
思ったよりも話が長くなったので一旦区切ります。
次以降試合パートとなるのでお楽しみください!