第18話 三年生と一年生①
「な、なんじゃこりゃ」
巧はスタメン表を見て絶句した。自分だったら有り得ないスタメンの組み方に、巧は驚かざるを得なかった。
合宿五日目は試合だ。と言っても普通に試合をするわけではない。これも神代先生の提案で、各学年をチームにして試合をするというものだ。
三年生に限っては珠姫を含めても八人しかいないため、巧が選手兼任監督としてチームに入ることとなった。昨日のバッティング練習に参加させられたのはこれもあってのことだろう。
三年生チームのスタメンはこうだ。
一番センター峰夏海(水色学園)
二番ショート天野晴(水色学園)
三番セカンド大星夜空(明鈴高校)
四番ライト仲村智佳(水色学園)
五番ピッチャー平河秀(水色学園)
六番サード柳瀬実里(光陵高校)
七番キャッチャー瑞原景(水色学園)
八番ファースト本田珠姫(明鈴高校)
九番レフト藤崎巧(明鈴高校)
無難ではあるが、全員を得意とするポジションに極力配置しただけだ。ライトの智佳はファースト、キャッチャーの景はセカンドが本職ではあるが、ポジションが被っているため、空いたポジションであるキャッチャーと外野の一枠に入れる選手としてこのような起用をした。
その三年生チームと試合をする一年生チームは、神代先生が指揮を取る。そしてスタメンが以下の通りだ。
一番ショート白夜楓(鳳凰寺院学園)
二番レフト近藤明音(水色学園)
三番サード神崎司(明鈴高校)
四番キャッチャー立花琥珀(光陵高校)
五番ファースト六道咲良(光陵高校)
六番ピッチャー豊川黒絵(明鈴高校)
七番センター黒瀬白雪(明鈴高校)
八番セカンド志水柚葉(水色学園)
九番ライト成瀬未紗(水色学園)
琥珀はその身体能力からどのポジションでも守れるだろう。しかし、キャッチャーに就いているところを見たことがない。そしてピッチャーの黒絵以外、メインで守っているポジションを守る選手が一人もいない。
神代先生のことだ、何か考えはあるのだろう。しかし、元々能力の高い三年生が打撃力は優勢で、さらに守備力でもほとんどがメインのポジションを守ることで圧倒的に優勢だ。
「どういうつもりですか?」
「色々な可能性を見たいからね」
練習とはいえ試合だ。負けて得るものもあるが、初めから負けるつもりでは得られるものはない。そして神代先生は負けるつもりではないというのはわかるが、単純な能力だけで見てもこの一年生チームが勝てるわけがない。
「まあ、試合が始まってからのお楽しみってことで」
これ以上は何も言わない。試合で確かめてみろと言っている。攻守は三年生チームが後攻、一年生チームの先攻から始まることとなった。
一回表。まずは楓の打席だ。巧はレフトの守備位置に就きながら軽く体を動かす。先ほどのキャッチボールでは問題なくボールは投げられた。故障した右腕の痛みはないが、以前程の送球は出来なさそうだ。普通に送球する分には内野の中継にも余裕で届くがノーバウンドでバックホームは無理そうだ。元々肩の強さには自信があったが、今は黒絵より弱く、伊澄や陽依と同じくらいだろうか。
初球はストレート。二球目がカーブ。三球目はフォークと、いずれも楓は見逃した。カウントは二球目が外れたのでワンボールツーストライクと追い込んでいる。
四球目はストライクゾーンからボールゾーンに向かう内角に抉るようなカーブだ。追い込まれており、つい手が出てしまってもおかしくないというのに、楓はそれを平然と見送る。
「ボール」
微妙な判断ではあるが、審判をしている佐伯先生の目は的確だ。
ピッチャーの秀は水色学園のエースだ。ボールのコントロールもストレートの威力もある。バランスの取れたピッチャーだ。
五球目、今度も内角に抉るようなボールだ。右投の秀のボールは左打の楓に対して内角を抉る球を投げやすい。一歩間違えればデッドボールになりかねないが、それでもコントロールの良い秀は左打者が打ちづらいコースに投げられる。
そして、内角を抉るようなボールは途中で軌道を変え、カクンと落ちる。フォークボールだ。しかし、楓は右足を外に踏み込み、内角の難しい球をレフト方向に弾き返した。
巧はその打球を処理するとすぐにセカンドに送球し、楓は一塁で止まった。初回でまだ球は走っていない。それでも秀には二年生チームとの対戦のために早めの降板の予定というのを伝えている。そのため、先発だがリリーフのつもりで投げて欲しいということも伝えてある。
初回でまだ本調子ではないとはいえ、短いイニングを考えた投球。これは打った楓を褒めるしかないだろう。
秀も打たれたことで逆に気合が入ったのか、続く明音、司、琥珀を打ち取り初回を零点で抑えた。
久しぶりの野球描写のある試合です!
しばらくは一、二、三年生の学年別の試合が続きます!
正直、普通に合宿とかあってもこんな練習しないだろうなぁ……と思いながらも色々と理由があって描写を入れたり、今回は「普通に試合だけしても面白みに欠けるし、フィクションだからいいや!」という勢いで書きました。学年別の試合は元々書くつもりだったので、「有り得ないだろ」という感想は置いておいて、楽しんでいただけたら嬉しいです!