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第15話 変化球とこだわり

 合宿二日目に予定されていた試合は終わり、しばし休憩に入る。時刻はすでに三時だが、その間試合を見たり審判をしていた監督陣は遅めの昼食を摂る。選手たちは試合の出番がないうちに各々摂っていた。


「さて、まず反省的を生かしてこの後の練習を決めたいけど、バッテリーチーム、打撃チーム、守備チームに分けたいけどどうですか?」


「異論はありません」


「大丈夫です」


 佐伯先生も巧も口を揃えて同意する。


「じゃあ、誰がどの練習に入るかっていうのは各校決めてもらって、巧がバッテリーチーム、佐伯先生は守備チーム、私が打撃チームを見る形でいいですか?」


 神代先生の提案に佐伯先生と巧は同意する。


「珠姫だけは美雪先生についてもらっていいですか?」


「と言うと?」


「珠姫のバッティングは練習でどうにかなるものじゃなくてメンタル的な部分だと思うので、復調のために色々試したいです」


「なるほどね」


 神代先生は納得しており、佐伯先生も頷いている。二人も、珠姫のバッティングに関して思ったところがあるのだろう。実際怪我の影響というよりも精神的な影響の方が強いのは巧自身も気付いているため、どのようにケアをしていけばいいのかは悩んでいる。


「そのあたりはデリケートな問題だから他校の私と佐伯先生が勝手に何かしていい問題じゃないから巧の思うようにやればいいと思うよ。私たちが何かしてグラウンドにすら立てなくなる……なんてことになったら責任は負えないし。できることがあれば力にはなるよ」


「ありがとうございます」


 神代先生の方針はありがたい。巧自身も珠姫の復調を望んではいるが、最悪の事態は彼女が野球を嫌いになることだ。そこも含めて慎重に進めていきたい。


「じゃあ、各校部員をどの練習に振り分けるか担当に報告。どういうところを練習させたいかっていうのも報告ね。あと巧は、ピッチャー陣は今日もある程度投げてるから無理させないように」


「わかりました」


 巧自身投げ過ぎて怪我をした身だ。神代先生はそれを理解しているとは思うが、念には念をということだろう。


 今回は回数を限定しているので多少の練習には支障はないが、投げ過ぎは禁物だ。


 しばらく談笑した後に練習に戻っていった。




 バッテリー組はそこまで多くない。と言うのも、ピッチャーの練習にキャッチャーも付き合わないといけないため、各校一人ずつのピッチャーとキャッチャーがこの練習に参加している。


 明鈴は黒絵とキャッチャーの司、水色は一年生の久遠恋とキャッチャーは志水柚葉、光陵は速水輝花とキャッチャーで二年生の三船魁、あとは鳳凰の夜狐と楓だ。巧としても大人数を見るのは難しいため少数なのはありがたいことだ。


 黒絵はストレートだけでは一試合完投させるのは難しいと考えているため、タイミングをずらせる緩めの変化球を一つ覚えさせたいところだ。


 恋は全体的にレベルアップとしたいというのが佐伯先生の要望で、輝花はストレートが物足りないと神代先生から聞いている。


 巧は投球を色々な視点で見たり、実際に受けたりして可能な限りのアドバイスを行った。


 巧は元々ピッチャー用、内野用、外野用のグローブはシニア時代に使用していたものを持っているが、キャッチャーミットとファーストミットは所持していなかった。そのため監督をすることが決まった週末には貯めてあったお小遣いやお年玉を利用して購入していた。使用する頻度は高くないかもしれないが買っておいて良かったと思っている。


 恋と輝花の練習は一朝一夕でどうにかなる問題ではないため、手応えとして一番感じたのは黒絵だ。以前対決した際にスローボールにしてやられ、その際にタイミングをずらすのは有効だと考えていたため、チェンジアップの練習を行った。コントロールや投球モーションを考えると実用するにはまだ足りないが、教えたばかりにしては形になっていた。


 順番にアドバイスしていき、最後には夜狐だ。まずは球筋を見ていく。ストレートとフォークの二種類だが、それだけでも十分に組み立てられそうだ。ただ、やはりもう少し変化球があれば幅も広がるし、フォーク自体もまだ甘いところがある。巧が見た感想はそんな感じだ。


 二人には支持する監督がいないため、まずは三人で話して方針を固めていく。


「うちとしては変化球が多ければやりやすいから、できればあと一、二個くらい球種が欲しいですなぁ」


 楓の意見は巧と同じだ。それに関しては経験が浅いながら十分に投げれている夜狐を見る限り試してみる価値はある。


「三好さんはどういうピッチャーになりたいんだ?」


「うちは他の変化球よりも、それだけで三振が取れる決め球が欲しい。できれば落ちる変化球で、フォークよりもすごい変化球が覚えたい」


 同方向への違う変化球というのは確かに有効だ。伊澄がいい例だが、同じ変化球でも球速差や変化量によって相手を惑わせることができれば例えばカーブだけでも勝負できる。もっとも、伊澄に関して言えば縦方向や横に滑るカーブなどさらに多彩なのだが。


「個人的な意見だが、別の変化球を覚えながらフォークを極めてもいいと思うぞ? 白坂さんとか良い例がいるわけだし」


「それは嫌だ」


 夜狐は巧の提案を拒否する。伊奈梨にアドバイスを受けられるのであればフォークをさらに強化できる。しかし、夜狐はそれを拒絶した。


「夜狐は伊奈梨に対抗心があるんです。実際に教えてもらえるタイミングもあってんですけど、なかなか言うことを聞かなくて」


 楓はそっと事情を説明する。確かに先ほどの試合時にも内野はどうかと提案したが、それは断固拒否されたため外野で起用した。伊奈梨もピッチャーと外野を本職としているため、それは対抗している上でのことだろう。


「縦方向の変化球かぁ……」


 夜狐の要望通り決め球となるとまずチェンジアップは除外される。決め球がにもできるが、ストレートを主体に組み合わせることで有効なため、チェンジアップだけで三振を取るのは難しい。もちろん他の変化球もストレートがあってこそ生きてくるのだが。


 スプリットを提案してみるが、鋭く小さく落ちるスプリットはどちらかというと三振を奪うというよりも打ち取ることを目的に使われることが多いため、夜狐によって拒否される。


「うーん……。じゃあナックルはどうだ?」


 ナックルボールは回転をかけないことで揺れるように落ちる。落ちる方向も一定ではなく、予想ができないため下手するとナックル一本でも三振が取れる。ただ変化が一定ではないためキャッチャー泣かせの変化球でもある。


「実際俺が投げれたわけじゃないけど、握り方は知ってるしお遊びで投げたことはある。その程度だからちゃんと教えれるわけじゃないけど要望通りになるとそれくらいしかないな」


 パームもあるが、巧はわからないため全く教えることができない。ナックルであればお遊び程度とは言え投げたこともあり知っているのでまだ簡単なアドバイスはできる。


「それがいい。藤崎さん、教えて!」


 夜狐は犬が尻尾を振りながら喜んでいるように食いついてくる。先ほどまでどこかムスッとしていて距離を感じていた夜狐だが、目を輝かせたような表情にパッと変わった。


「お、おう。……楓はそれでいいか?」


 夜狐が望んでいるのだから拒否する理由はないが、相方である楓に一応確認する。


「うちもナックルを覚えるのはええです。ただその前に他の変化球も練習してほしいです」


「するする!」


 落ちる変化球以外の変化球を覚えることに難色を示していた夜狐だが、別の落ちる変化球を覚える代わりに他の変化球を練習しろという楓の言葉をすんなりと受け入れた。


 方針は固まったため、各々配置につき、巧は投げ方を教えた後に一度球筋を見るために楓の後ろに立った。


「……本当にもう。伊奈梨に対抗するの難儀やわぁ……」


 若干愚痴を零す楓に巧は苦笑いをした。


 しかし、スライダー、カーブ、シンカー、シュートの手応えは感じたものの、ナックルに関しては練習終了まであまりうまくいかなかった。

 

合宿なのに主人公校が強化されない!?

書いていて思いましたが、明鈴の強化というよりも他校との交流とか強化が中心ですね。

各々どういう強化をしていくのかは考えていますが、合宿よりも夏までやそれ以降が中心になりそうですね。

ただ、個々のレベルは合宿前と比べて上がります!

RPGのレベルで言うとこの合宿では2くらい上げたいなぁと考えています。今回中心に書いている鳳凰寺院、特に夜狐はレベル5くらい上がります(多分)

夜空はほぼカンストしてるから上げ方難しい……。

というわけでその辺も踏まえて今後もお楽しみください!

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