第147話 強くなる途中
選手たちのダウンが終わると、昼食を摂った後にバスに乗って学校へと戻る。
バスは学校のものだが、運良く借りられたため、今大会ではそれを使わせてもらっていた。
去年までは電車移動だけだったようだが、不便に思った美雪先生が免許を取ったらしい。巧が入学してからはバスが借りられる時はバス移動だったため、今まではそうだと思っていたのだが、それはこの大会の前に聞いて初めて知ったことだ。
そのバスの中、普段はうるさいほど騒ぐ陽依や黒絵も静かで、全員が沈黙して重い空気だった。
程なくしてバスは学校に到着する。
美雪先生は学校への報告やバスを返すために一度席を外したが、その間にミーティングの準備を整えた。
そして美雪先生が戻ってきた後、しばらく沈黙が続いたが、巧はミーティングを始めた。
「……結果は残念だったけど、良い試合だった」
良い試合だった。正直、自分が選手としての立場であれば複雑な言葉ではあるが、監督という立場になるとどうしても賛辞の言葉として送りたくなってしまう。
巧の言葉に、選手のみんなは固まっている。複雑な気持ちなのだろう。
「試合の後に夜空も言っていたけど、反省も後悔もすれば良い。ただ、負けたという事実は何があっても変わらない」
厳しい言葉をあえて投げかけた。
反省や後悔はどれだけだってできる。ただ、今をずっと引きずって立ち止まっていてはいけない。
負けたという事実を受け止めなければいけないのだ。
「試合中にも俺は色々後悔することが多かった。光の代走のタイミングはあの時ではなかったし、継投も上手くいかなくてすぐに代えて、結局みんなに負担をかける継投だ」
監督という立場で弱音を溢すのはどうなのかという迷いはあったが、それぞれが弱音を吐きやすいようにあえて言葉にした。
すると、巧の思惑通り、それぞれが吐き出すように言葉を紡いだ。
「うちは、一回も抑えられやんだ。せめてもう少し良い形で夜空さんに繋げたと思う」
「私は先頭打者だから、初回はもっと粘らないとダメだった」
「ヒットを打ってない。打撃があるから五番なのに、役割が果たせなかった」
「私も打てなかった。打てる選手じゃないけど粘ったりはできたはずだし、打撃で貢献できなかった。守備もゲッツー取れるところで取れなかった」
「代打で当たりは良かったけど、結果はアウトだから意味がない。長打が無理なら単打でも繋げれば良かった」
「チャンスでゲッツー。誰でもあることにしても、この一点があれば勝てたかもしれない」
「私もまだできたことはあったと思う。守備もバッティングも」
「せっかく任せてもらったのに、抑えられなかった」
「打ち取られた当たりがヒットになっただけで、手も足も出なかったしエラーもした」
「内野ゴロだけど、少しでセーフだった。走り出しが遅かった」
「出たのは守備だけだけど、ランナーコーチの判断も良くなかった」
「私も、ランナーコーチをもっと上手くできたと思う」
「最後のライナーは戻らないといけなかった」
「最初は調子良かったけど、結局ランナー溜めたから、最後伊澄ちゃんの負担になっちゃった」
「リードがダメ。リードのせいで打たれたのも多かった」
「……最初も、最後も、いっぱい点を取られた。最後の打席も弱気になって自分のバッティングができなかった」
口々に反省点や弱音を吐く。
各々が自分自身で理解している。
それがわかるだけでも、十分なことだ。
心の中に留めておくだけではなく、ダメなところを口にすることで改めてダメだということを自分で噛み締めることができる。
吐き出して飲み込む。それができることは一歩前進するための糧ともなる。
そして、修正すればするほど、もっと細かいところで反省点も生まれるだろう。
ただ、そうやって反省と修正を繰り返せば、完璧へと……理想へと近づいていく。
そうやって強くなっていくのだ。
ミーティングが終わり、反省を十分にした。
ただ、反省ばかりだとマイナス思考になってしまうため、巧からそれぞれ良かったところを挙げていった。
悪いところだけではなく、良いところに目を向けることも、強くなるための要因だ。
そして帰ってゆっくり休むように促そうとしたが、その前に夜空が先に口を開いた。
「練習、させてください」
夜空の言葉に他の選手たちも真っ直ぐな目線で巧を見つめる。同じ気持ちなのだろう。
しかし、その言葉に巧は頭を抱えた。
一試合とはいえ、死闘を繰り広げたのだ。
十分に体を動かしたため、体は疲れ切っているだろう。
巧は悩んだ末、美雪先生の方に目を向ける。
「いいんじゃない? ただ、明日はしっかりと休むこと」
「はーい」
夜空が返事をすると、続けて全員が返事をした。
今日はいっぱい体を疲れさせよう。そして、体を疲れさせてから、飯を食べて体を修復させる。そして睡眠を取る。
今日よりも明日、明日よりも明後日、これからずっと、強くなっていけばいいのだ。
書いてて自分も明鈴で負けた気分になってました。
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