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第105話 強豪の窮地

 伊羽高校と伊賀皇桜学園の試合、終盤に差し掛かりついに試合が動いた。


 先制点を決めたのは……伊羽高校だ。


 六回表、伊羽高校は四番織田のツーベースヒットを皮切りに、五番の永田がフォアボールでランナー一、二塁となる。そして、続く六番、七番と連打で二点の先制に成功した。


 しかし、皇桜の奈良坂も後続の三人を抑え、二点で食い止めた。


 ノーアウトでチャンスが続き、このままでは皇桜が押される展開になるところだったが、それでもやはり強豪校の三年生は強かった。打たれても引きずらず、相手を仕留めるというところが、強豪校たる所以だろう。


 ただ、後半で二点差というのはいくら強豪の皇桜でも苦しい展開だ。しかし、流石は皇桜、四番の和氣から始まる六回裏は、和氣のホームランから始まった。そこから打ちつつ、アウトになりつつでもう一点を返し、同点になりながら攻撃を終了する。


 終盤に試合が動いたと思いきや、またも試合が振り出しに戻り、わからなくなった。


 もう最終回の七回だ。延長戦という可能性もあるが、お互いに攻撃を一度ずつ残し、一点以上を入れて両方の攻撃が終わればそれで決着となる。


 そして、伊羽高校の攻撃は、二番から始まる好打順だ。


 二番打者はあえなくアウトに打ち取られるものの、三番打者はヒットを放つ。ランナー一塁で、四番打者、織田の打席を迎えた。


「奈良坂、結構打たれてないか?」


 巧はふと疑問に思ったことを呟く。


 今まで二失点。二回戦でも一失点だが、味方のエラーにならないミスや守備範囲から生まれた一点だった。


 皇桜の背番号10を背負う奈良坂が打ち込まれることは意外すぎた。


「勝つために、研究し尽くしてるって感じかな?」


 司の意見が正しいだろう。


 柳生のように変化球を駆使する選手であれば、対策は難しい。多彩な変化球を全て網羅しなければ打てないからだ。


 しかし、奈良坂はストレートが基本で変化球はそこそこ程度。スライダー、カーブ、フォークと変化球はあるが、フォークが厄介という程度で、スライダーやカーブはあまり強力とは言えない。


 奈良坂の武器は球威のあるストレートだ。


 つまり、ストレートを基本にしながらフォークを研究していれば問題ないということだ。もちろんスライダーやカーブも研究しているだろうが、初見でもある程度の対応はできる。


 そして……、


「伊羽は奈良坂を研究し尽くした、かな」


 司の意見に巧は同調した。


 皇桜にはピッチャーが四人いて、全てを網羅することは不可能に近い。


 特に一年生の竜崎は今大会で初めてメンバー登録されているため、練習試合をわざわざ偵察しない限りはその投球を見れたのは二回戦だけだ。そして、短期間で対策を打とうとしても限界がある。


 そこで研究対象として白羽の矢が立ったのが、奈良坂だったということだ。


「奈良坂をピンポイントで対策した理由はわかるか?」


 巧としてはある程度予想を立てているが、意見をすり合わせるために司に尋ねた。


「……うーん。一番対策しやすいからかな?」


「俺の考えだと半分当たりかな」


 対策しやすいのはあるだろう。しかし、奈良坂が登板しなければ、その対策も意味はない。


「多分、伊羽は奈良坂が登板することを読んでいた、と俺は思ってる」


 実際のところは伊羽高校に直接聞かなければわからないが、その可能性は大いにあり得る。


 やや予想がズレるが、巧は理由を話し始めた。


「うちも同じだけど、エースを決勝に当てたい、と皇桜が考えていると伊羽は考えだと俺は思ってる」


 エースに投げさせれば、チームの他のピッチャーが投げるよりは勝つ確率が高いだろう。そのため、エースの登板は過多になりがちだ。


 実際、明鈴も勝ち上がった際には、伊澄を決勝戦に登板させるために準々決勝を投げさせる。連投はキツイとはいえ、多くない投手陣で勝ち抜こうとなればそう考えるチームは多い。


 伊羽高校に関して言えば、準々決勝で当たる相手よりも三回戦の伊賀皇桜学園の方が強力なため、エースの永田を起用したのだろう。明鈴の戦った中峰高校も、最終的にはエースの依田は登板したとはいえ、三回戦では温存する体勢だった。


 つまり伊羽高校は、三回戦は柳生を温存して二番手の奈良坂を先発させると踏んでいたと巧は考えていた。


 もちろん、先発ではなかったためアテは外れたとは言えるが、巧が伊羽高校の監督であればそのように考える。


 そして、試合に動きが出てきた。


 ランナー一塁から四番の織田という状況は、織田が球数を投げさせて動かない場面が続いていたが、織田はついにヒットを放ち、ファーストランナーはその間に三塁まで進塁し、ワンアウトランナー一、三塁で五番の永田を迎えていた。


「……これはいよいよわからなくなってきたぞ」


 今までロースコアが続いてきたことでわかるように、この試合は投手戦だった。


 打って打ち返してというその均衡が今破れようとしていた。


 永田が打席に入る。


 初球、奈良坂の放ったボールは真ん中高めから低めへとストンと落ちるフォークボールだ。その球に永田のバットは回る。


「ストライク!」


 空振りした永田は苦い表情だ。フォークのキレは良い。気が付いた時にはもうバットが止まらないのだろう。


 二球目、今度は緩いカーブに永田は手を出さない。カーブとなると遅いため、球の見極めができそうだ。ボール球だと判断してスルーしたのだろう。


 三球目、今度はストレートだ。外角への球に反応するものの、カーブとの球速差にバットは振り遅れてファウルとなる。


 カーブやスライダーは正直大したことはない。しかし、奈良坂の真骨頂であるストレートと交えれば、ストレートは更に強力な武器へと変化する。


 それに加えて切れ味の鋭いフォークを交える投球術で、奈良坂は皇桜の二番手ピッチャーの立ち位置を確立したと言えよう。


 そして、永田の打席は三球目。奈良坂の指先から放たれたボールは永田の内角を抉るように向かってくる。


 勝負球だ。


 内角を抉るストレート。その球は、キャッチャーのミットに収まる直前に消えた。


 軽快な金属音が鳴り響く。左中間を真っ二つに破る長打だ。


 センターの早瀬は足を生かして打球を追いかけるものの、左中間を点々とする打球はフェンスまで到達し、跳ね返ったところを捕球するのがやっとだ。


 その間に当然サードランナーは生還し、ファーストランナーは三塁手前だ。


 早瀬は捕球をするとすぐさま中継へとボールを送る。


 しかし……、


「三塁蹴った!」


 中継へとボールが渡ろうとしているところ、三塁まで到達したランナーはそのまま三塁を回る。それを見て中継に入ったショート鳩羽も、ボールを受け取るとすぐさま本塁へと送球した。


 タイミングは際どい。本塁で待つキャッチャー吉高と、ランナー織田のどちらが先かというギリギリのタイミングだ。


 ルール上、キャッチャーは塁上には立てない。


 本塁の手前で送球を受け取る吉高はそのままの勢いにランナーをタッチしようと試みる。


 ランナーの織田は、そのタッチを掻い潜ろうと回り込みながら滑り込む。


 吉高と織田が交錯する。どちらが早かったか……、


「セーフ! セーフ!」


 僅かにランナーの織田が早かった。吉高はタッチできず、織田がタッチを掻い潜った形となった。


 ピッチャーの奈良坂はマウンド上で項垂れる。


 それもそうだ。緊迫した状況で先制を許し、それに追いついた打線の援護もあったにも関わらず一点どころか二点も勝ち越されたのだ。


 最終回、劇的な展開となってしまった。


 まだ七回表で試合の決着は着いていない。しかし、大きな大きな二点のリードを奪われた伊賀皇桜学園にとって苦しい展開というという状況は変わらない。


 三回戦。毎年優勝を争う強豪が、この試合で窮地に立たされていた。

お久しぶりの更新です!

これから不定期(二、三日おきくらい)で更新していこうと思います!


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