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レベル0のポーションマスター ~どん底に落ちた没落貴族、レアスキルに目覚めたので自分の領地を手に入れる~  作者: 雉子鳥幸太郎


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アローナ・アンダーウッド

 大聖堂の一室にアローナを除く、アンダーウッド家の面々がテーブルを囲んでいた。


「あの、あまりアローナにばかり任せるのも……」

 おずおずと口を開いたのは、次女のスティリアだった。


 垂れ目で素朴な印象を受ける顔立ち、下がった眉は、いつも困っているように見える。


「なら、スティリア、貴方が手伝えばいいじゃない」

「それは……」

 答えあぐねるスティリアを見て、長女フラムが鼻で笑った。

 キュッと上がった目尻、ツンとした雰囲気を常に纏い、温和なスティリアとは正反対の性格だった。


「まあ、貴方の治癒じゃ、持って20人ってとこかしらね」

「フラム、それ以上はやめなさい」

 エリザベートがぴしゃりと言うと、フラムはすぐに口を閉ざした。

 勝ち気なフラムだが、唯一、母エリザベートには頭が上がらない。


「言い過ぎました、申し訳ありません……」

「わかれば良いのです」


 悔しそうに目線を落とすフラムを見て、エリザベートは、テーブルに置かれた温かい紅茶に口を付けた。


 エリザベートは頭を悩ませていた。


 フラムにスティリア、二人は無事、聖女の職能を授かったが、その力は自分の半分にも満たない。スティリアに至っては、情けないことに回復術師にさえ劣る始末……。


 本来、聖女が使う治癒とは、奇跡の体現でなくてはならないのだ。


 少なくとも自分の祖母も母も、奇跡としか言いようのない治癒を、幾度も領民達に見せてきた。その度に、自分も聖女であることに誇りを持てたし、自身でも、奇跡に近い治癒を行って来たと言う自負がある。


 だが、この二人には、残念ながら奇跡レベルの治癒は到底不可能である。

 スティリアに比べれば、少しはマシなフラムでさえ、毎日の領民達の相手が務まるかどうか……。


 アンダーウッドの正統な血脈であるはずの二人。

 腹を痛めて産んだだけに、やるせない気持ちに苛まれる。


 そして、皮肉なことに、養子であるアローナによって、アンダーウッド家の体面が保たれていようとは……。



 せめて、私の力が衰えてさえいなければ、こんなことで頭を悩まさずに済んだものを……。

 静かにカップをテーブルに置き、エリザベートは重い息を吐いた。


 * * *


 施しを終えた私は、自室のベッドに身体を投げ出した。


「あー、くそだりぃー……ったく、めんどくせぇな」


 およそ聖女とは思えぬ言葉使いだ。

 自分でも領民には聞かせられないなと思う。


「まあ、もう少しの辛抱か……」

 そう呟き、ベッドから起き上がると、鏡台の前に座った。


 ウィンプルを取り、頭を振る。

 鏡の中で黒い髪が揺れ、内側の白髪が見え隠れした。


 ――私には過去の記憶が無かった。

 アローナ・アンダーウッド。


 突然、押しつけられた名前。


 自分の顔を見つめながら思う。

 私は一体、誰なんだろう……。


 まさか、自分が大貴族の一員になるだなんて、思ってもみなかった。


 覚えているのは、黒い煙の中、私の手を引いてくれた誰かの細い手。

 漠然とした恐怖の中で、その手だけが拠り所だった。


 あれは……誰の手だったんだろう。 


 一瞬、感傷に浸りそうになる。

 だが、すぐにそんなことは忘れて、私はブラシで髪を梳かす。


 ――過去なんてどうでも良い。


 今の私はアローナ・アンダーウッド。

 必ず、このアンダーウッド家を手に入れてみせる。


 鏡の中の自分に向かって、私はにっこりと微笑んだ。

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