候補地
ギルモアさんの後に続き、俺達は新たな採掘所建設候補地に向かっていた。
手際よく草を払いながら、森の中を進んで行くと、少し開けた場所に出た。
「この辺り一帯を候補地としています、地形的にも良いと思うのですが、いかがでしょうか?」
地図を広げたギルモアさんが言った。
腕組みをしながら、辺りを見回した後、リスロンさんが小さく頷く。
「ふむ、悪くなさそうだ。どうだい、クライン?」
「ええ、村とも丁度良い距離にありますし、良いと思います」
「よし、ではここに決めよう」
「え、あ、はい!」
リスロンさんは驚くほど決断が早い。
端から見る限り、悩んでいる様子など全くないように思える。
事前にギルモアさんが調査をしていたとは言え、中々できることではない。
昔、良く父も言っていた……。
上に立つ者が一分悩めば、100人が死ぬ。
こと戦争においては、あながちこの言葉が大袈裟ではないのが恐ろしい。
「これで残り、あと四カ所だな、よし、少し休もう」
「やったー!」
横でぐったりしていたクロネが、急に元気になった。
「ははは、悪かったね、ギルモア、急いで昼食の準備を頼む」
「は、畏まりました」
胸に手を当て会釈をすると、ギルモアさんは、恐ろしいほどの手際の良さで簡易テーブルを組み立てた。
そこに、真っ白なテーブルクロスを敷き、人数分のナイフとフォークを定規で計ったように真っ直ぐに並べる。
「うほーっ! ギルモアすごいっ!」
クロネは目を輝かせ、食い入るように見つめている。
「おいおい、さんをつけろ、さんを……」
「いえいえ、構いませんよ。むしろ呼び捨てにして頂いた方が気が楽ですので」
「ほらー、クラインは頭が固いのよ」
そう言って笑うと、クロネは真っ先にテーブル席に座った。
「ったく……」
「まぁまぁ、いいじゃないか。さ、私達も座ろう」
リスロンさんが席に着いた後、俺もクロネの隣に腰を下ろした。
森の中でテーブルを囲むなんて、何だか不思議な感じがするなぁ。
鳥の鳴き声、風に揺れる葉音……、すごく優雅な気分だ。
どこからか、とても良い香りが漂ってきた。
「さ、どうぞ。冷めないうちにお召し上がりください」
ギルモアさんが、皿に乗ったステーキを、優雅な所作で皆の前に置いていく。
「うわー! 美味しそー!」
「さ、遠慮なく食べてくれ」
「いっただきまーす!」
「いただきます!」
おおっ! ナイフがスッと入って行く感じ、とても上質な肉だ。
肉を口に入れた瞬間、旨味でほっぺがぎゅーっと痛くなった。
「く~~~っ! ギルタブ最高っ!」
クロネが涙目で親指を向ける。
「ふふっ、どうもありがとうございます」
お、ギルタブさんが笑ったのって、初めて見たな……。
「しかし……、一気に稼働するのは良いのですが、エイワス側の動きが気になりますね」
「ああ、そういえば、ネルリンガーから来た客がいたそうだな? 大丈夫なのか?」
「はい、あえて解放して、誰の指示かリターナが調べています」
「そうか、なら心配はなさそうだな、となると……、やはり問題はリンデルハイムか」
リスロンさんが深くため息を吐いた。
「ええ、色々と考えてみましたが、恐らく手を出してくるとすれば、ボリス兄さんだと思います」
「竜騎士か……、まともにやり合う気にはなれんな」
リスロンさんがやれやれと小さく首を振った。
「もう少しすれば雨期が来ますが……」
竜騎士が操る飛竜は、雨期になると飛ぶのを嫌がる習性がある。
もちろん、竜騎士の固有スキルである『竜従令』で命令すれば、どんな状況でも飛ばす事が可能だ。
だが、竜はプライドの高い生き物であり、そんな無茶をすれば、長い時間を掛けて築いた信頼関係は、あっという間に崩れてしまう。
「雨期か……ということは、どうせ雨期が来る前に動くんだろうな?」
リスロンさんが、うんざりだと笑った。
「煙だせばいいのに」
「ん?」
「え?」
クロネがぼそっと呟いた一言に、皆が注目した。
「クロネ、いま、何て言った?」
「だからー、煙だせばいいのにって」
「煙?」
「そう、煙よ。空から来るんでしょ? 煙出しとけば見えないわよ」
そう言って、口いっぱいにステーキを頬張るクロネ。
「そうか、それ良いな! ははは! やるじゃないかクロネ!」
「そ、そぉ?」と、クロネが照れくさそうに頬を掻いた。
「しかし、そのような煙をどうやって……」とギルモアさん。
「ああ、それなら、私のポーションもありますし、ベルカに頼めば大丈夫だと思います」
「おお、それなら早速準備をしておいてくれ」
「はい、各採掘所で使えるようにしておきます」
「よし、それじゃ、急いで残りの候補地を回るとしよう」
「ええ」
俺達は支度を済ませると、次の候補地へ向かった。
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