ベルカ工房
「もごご、遅れちゃうーーー!」
パンを口に押し込みながら、わたしは村の通りを駆け抜ける。
「あらまあ、ベルカちゃん、気をつけるんだよ」
「あれ? ベルカちゃん、今からお店かい?」
すっかり顔なじみになった村人達から、優しい言葉を掛けられる。
「もごーっ! んぐっ。はい! あはは、ちょっと寝坊しちゃってー!」
慌ててパンを呑み込み、遅刻を誤魔化しながらお店に急いだ。
クロネ村の一角に、そのお店はあった。
小さいながらもしっかりとした造りで、緑色の可愛い屋根がお気に入り。
このお店は、クラインさんがわたしにやってみないかと用意してくれた魔導具店である。
お店を用意できるだけでも凄いのに、魔導具作りの材料やミスリル材、何より、あのトッテルシリーズが揃っている!
すごい! クラインさん、すごい! ワクワクがとまらない!
普通、魔導具店を開こうとすると、まずは材料を集めるのが壁になる。
その壁を越えたとしても、次に問題なのは魔導技師。
そもそも、魔導技師自体、マイナーな職能で絶対数が少ないのだ。
しかも、それに輪を掛けて、人も技術もネルリンガー領にその大半が集まってしまっていて、他領で魔導技師を育成するのは難しい。
そんなわけで、魔導具店を簡単に出せちゃうクラインさんって……、やっぱり、すごいと思う。
ちなみに、お店の名前は『ベルカ工房』にした。
クロネさんは『クロネ魔導具店』にすると最後まで反対していたけど、クラインさんとリターナ姉さんの説得で、何とか『ベルカ工房』にすることを了承してもらった。クロネさんって、ちょっと変なこだわりが強いのよね……。
お店は先日完成したばかり。
真新しい木の匂いが、わたしにやる気を与えてくれる。
「よし!」
さて、まずはお掃除しなきゃ。
窓を開けて、空気を入れ換えて……パタパタと埃を払う。
次に作業台を拭き掃除して、材料のチェック。
今日、作る予定の魔導具をメモ、表の看板には今販売している魔導具を書き出しておく。
『本日の魔導具→【高周波包丁】金貨3枚、限定5本です!』
こんなもんかなぁ?
最後に、金庫にあるお釣りの銀貨と銅貨を数えて……よし、誤差なし、OPEN!
*
開店すると、村の人達や冒険者の人達が順にやってきた。
「いらっしゃいませぇー」
「包丁もらえるかしら」
犬獣人の奥様だ。
「はい、ありがとうございます! 試し切りしますか?」
「いえ、いいわ。友達のところで使って、気に入ったから買いに来たのよ」
「そうだったんですか~」
「ここ評判よ、頑張ってね」
「は、はい! ありがとうございます!」
お客さんとの何気ないやり取りが、たまらなく嬉しい……!
あっという間に、用意しておいた高周波包丁が売り切れる。
むぅ……あっという間に金貨15枚、すごい!
これはロングセラーになりそうな予感……。
思えば、今までは自分の作った魔導具を、皆がどう思っているのか知る機会がなかった。
でも、これからは実際にお客さんとお話をしながら、皆の喜ぶ魔導具を作ることができると思うと、胸が熱くなった。
「よーし! 頑張らなきゃ!」
制作に取りかかろうとした時、店の扉が開く。
「はーい、いらっしゃいま……」
思わず手に持っていたメモ帳を落とした。
「しばらくぶりね、ベルカ」
「あ、姉弟子……」
間違いなく……そこに立っているのは、ベルクカッツェ工房でわたしを利用していた――姉弟子のマリンダだった。
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