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レベル0のポーションマスター ~どん底に落ちた没落貴族、レアスキルに目覚めたので自分の領地を手に入れる~  作者: 雉子鳥幸太郎


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鉱脈の使い道

 宿に帰った俺達は、そのままベッドに飛び込んだ。


「ふわぁ~、疲れた~」

「ほんと疲れたなぁ……」


 クロネが俺の方に寝返りを打ち、

「ひとまず成功?」と訊いてくる。

「ああ、大成功だよ。これで後はレグルス皇国でお墨付きを貰って――」

 ばふっと、クロネが抱きついてきた。


「ちょ、クロネ?」

「疲れた……」

 クロネは俺の胸に顔を埋めた。

 あまりにも自然で、不思議と照れくさくなかった。


「ねぇ、クライン……どうやってドレイクを倒したの?」

「……あいつの血を、ポーションに変えた」


 クロネが起き上がり、真剣な顔で訊いてきた。

「ちょっと待って、水以外も変えられるってこと?」

「多分、触れた液体ならポーションに変えられる」

「……」

 クロネの表情が読めない。

 怖がっているのだろうか……?


 確かに、誰だって気味が悪いよな。

 俺に触れられたら死ぬかも知れないんだから。


 あぁ……、もしかすると、また、一人になるのかも知れないな……。


「やったじゃん」

「へ?」


「だってさ、正直クライン弱すぎだもん。良かったぁ~、これで十分戦力になるわ。そうね、これは秘密にしておいた方がいいわね、不意打ちでしか効果がないもの」

「こ、怖くないのか?」

「冒険者を舐めてるでしょ? あのね、そう簡単に私レベル相手に触れるなんて思わない方がいいわよ? そもそも、常に気を張ってて、誰かが近づけばすぐにわかるし……。まず、クラインの場合は、面と向かって敵対する相手に触れることの難しさを知らなきゃ」


「そ、そうなのか?」

 そう言われると、何だか難しく思えてきた。


「ええ、もし、私がクラインの力を知っていたとしたら、触れずにクラインを瞬殺できるわよ? あははは!」

「しゅ、瞬殺……」

 楽しそうに笑っているけど、本当に出来るんだろうな……。


「そ、だから、その力は本当の切り札ね。多分、リターナも誰にも話してないはずだし」

「そうかな?」

「そりゃそうよ、これだけの力、黙っておけば一発逆転のカードだもの。今回みたいにね?」

 クロネは、まるで儲け話でもするように笑った。


「そ、そっか……。実はちょっとだけ怖かったんだよ。自分が少し念じただけで人を殺せるだなんて……」

「ははは、今更何を言ってんの? そんなの、方法が違うだけじゃない。私だって念じて殴れば、大抵の人間なら瞬殺できるわよ?」

「……確かに」


「だから、そんなに悩まなくていいんだって」

 クロネは俺の頬を小さな手で包んだ。


「また、危なくなったら……私を守ってね、クライン」

「お、おぅ……」


 俺はちょっと気恥ずかしくなって目を逸らした。


 クロネは俺の胸に顔を埋め、静かに寝息を立て始める。

 その寝息に耳を澄ませながら、いつの間にか俺も眠りに落ちていた。


 *


 朝早くに、宿の主人が手紙を持って来た。

 目を擦りながら受け取ると、手紙はリスロン商会から届いたものだった。


「なんだろう……」


 手紙には、今日からでも屋敷に住んで良いということと、屋敷で打ち合わせをしたいということが書かれていた。


「やった! クロネ、起きろって! 今日からあの屋敷に住めるぞ!」


 クロネの身体を揺すると、完全に力が抜けているのかゼリーみたいに軟らかかった。


「や~……もうちょっとだけ……」

「ほら、駄目だって! おーきーろー!」


 散々耳元で騒ぎ立てると、ようやく頭を掻きながらクロネが起き上がった。


「これ見ろよ、屋敷に住めるんだぞ?」

「……マジで?」


 一瞬のタイムラグの後、

「ひゃっほーーーーっ!!! さぁグズグズしてないで、さっさと出発するわよ!!」

 クロネは素早く外套を羽織ると部屋を出て行く。


「ちょ……⁉ お、おい、待てって!」


 慌てて荷物を手に取り、俺はクロネの後を追った。


 *


 森の湿った冷たい空気が、寝起きの身体をシャキッとさせてくれた。

 足下は枯れ葉が積もって、ふかふかしている。

 

 本当にこの下にミスリル鉱脈が広がっているのだろうか?


 大貴族だったリンデルハイム家でさえ、ミスリルを使った武具や道具、美術品などは数える程しかなかった。


 それがこの広大な森の下に鉱脈が眠っている。

 確かにおいそれと採掘はできない。

 少しでも噂になれば、あっという間に飢えた狼の如く、貴族達が舌舐めずりをしながらやって来るだろう。


 彼らなりの大義名分を掲げて……。


 やはり、採掘は秘密裏に進めた方が良いな。

 当面の資金作りは正攻法と俺のポーションで行くべきだ。

 まずはこの地に、確固たる領地を……。


「んーっ、気持ちいーっ!」

「癒やされるわねぇ……」


 クロネが両手を上に伸ばしながら言った。

 その後ろでリターナも深呼吸している。


「空気が澄んでいる、何か健康になりそうだ」

「ふふ、そうね」

「てか森なんだから、もうちょっと肌を隠さないと虫に刺されるわよ?」

「大丈夫、虫除けの魔法使ってるから。ふふ」

「ぐ……、卑怯な」

 リターナは得意げに長い黒髪を後ろに払った。

「まあまあ、二人とも……」


 他愛も無い話を続けながら、俺達は屋敷のところまでやって来た。

 今度は鉄の柵を乗り越えることなく、正面から堂々と敷地内へ入った。


「ふわぁ~、こうして見ると立派な屋敷ねぇ~」

「ああ、デザインも悪くない」

「いいじゃない」


 屋敷は石造りで屋根の角にはガーゴイルの石像が飾られていた。

 大きな玄関には、ギルモアさんと三人のメイドの女性が立ってこちらを見ていた。


「ようこそ、お待ちしておりました。ご案内致します」

 ギルモアさんは爽やかな笑みを浮かべ、屋敷の中へ俺達を招き入れた。


「いやぁ~、やっぱりこの屋敷は良いですねぇ、何より置かれている物のセンスが抜群です」

 俺は壁に掛けられた油絵を見ながら言った。


「すべて、リスロンさまのお選びになった物でございます」

「リスロンさんが……へぇ~」

 俺は感心して頷いた。


 二階の一室に入ると、リスロンさんが席を立ち、

「おお、よく来たな。さあ、座ってくれ」と小さな手をソファに向けた。


「ありがとうございます」

「どうもー」


 ふかふかのソファに腰を下ろすと、先ほど玄関に居たメイドが軽食と紅茶を運んで来た。


「どうせ朝はまだだろう? 遠慮せず食べてくれ」

「やったぁーっ! ありがとリスロンさん!」

「すみません、ありがとうございます! 実はペコペコで……あはは」


「おや? そちらのお嬢さんは初めましてかな……?」

 リスロンさんがリターナを見た後、俺に目を向けた。


「紹介が遅れました、僕の大切な仲間のリターナです。ドレイクとの戦いで彼女がいなければ、私もクロネもここにいなかったでしょう」

「ほほ、それはそれは、ならば私にとっても恩人というわけだな。はは、リスロン・ダイトだ。リターナ、よろしくな」

「こちらこそ、リスロンさん。よろしくお願いいたします」

 リターナが礼を取ると、リスロンさんが、

「ささ、まずは腹ごしらえだ。遠慮せず食ってくれ」と両手を広げた。


「ありがとうございます!」

「私これ!」

「じゃあ、私はこれね……」


 俺達はテーブルに置かれた肉を挟んだパンを手に取り齧りついた。


「ん⁉ こ、これ、ベヒーモス?」

「そうだよ、この味! てか、めちゃうま……」

 クロネの耳がピンと立っている。

「あら……素敵」


「そう、君たちがギルドに卸したベヒーモスの肉を、少し買わせて貰ったのさ。どうだ、旨いか?」

「うん! 最高ー!」

「このパンとも良く合ってて美味しいです!」

「いくらでも入りそうですね」


 リスロンさんは、そうかそうかと満足そうに微笑むと、ほっぺからどんぐりを取り出してポリポリと囓った。


「どうだね、この屋敷は?」

「ええ、とても素敵です。屋敷内の調度品などはリスロンさんがお選びになったとか?」

「そうだよ、私は昔から細々(こまごま)とした物が好きなんだ。身体に流れる血がそうさせるのかも知れないね、ははは」

「洒落てるわー」

 クロネが紅茶を片手に、室内を見回しながら言った。


「ありがとう。ところで、アレをどう使うかは考えたかね?」


 リスロンさんの言うアレとは鉱脈筋の事だろう。

 俺は少し緊張気味に、自分の考えを話した。


「アレに関しては、当面の間現状維持で行きたいと思ってます。まずは、この土地に、おいそれと手出しできないような領地を築くことが先決かと」

「ふむ、その理屈はわかるな……」

 リスロンさんは片手で顎を撫でながら、もぐもぐと口を動かしている。


「よろしいでしょうか――」

 リターナが口を挟んだ。


「どうしたんだ?」

「私もひとつ意見を述べさせていただきたいのですが?」

「もちろん、何でも言ってくれ」

「では、お言葉に甘えて。領地のことを考えるのであれば、今は何よりもレグルス皇国にて、皇帝陛下のお墨付きを頂くことが第一。次に街を機能させること。そして、冒険者を集めること」

「冒険者を?」


 どういうことだろう?

 鉱脈筋の事はリターナにも伝えてある。

 彼女も事実が公にならないよう気を付けなければと言っていた。

 冒険者なんか集めたら、それこそ誰かが気付くかも知れないのに。


「全てを自前でやるのは貴族のやり方。権力を持たない側の人間には、それなりのやり方があります」

 リターナの言葉に、リスロンさんはニヤッと笑い、

「ほぉ……面白い。聞こう」と言った。


「この森にはダンジョンもありますし、魔物も出ます。今はそれぞれの冒険者達が、思い思いの場所に探索へ向かっている状態ですが、これを纏めてしまうのです」

「ちょ、どういうこと?」

「ミスリルの鉱脈、その一つを解放します」


「え⁉」

「な、なんと⁉」

「大丈夫なの?」


 皆が驚きの声を上げる中、リターナは淡々と話を進めた。

「解放と言っても、誰でもどうぞとはなりません。きちんと採掘場を整備し、採掘に関してのルールを定めます。ライセンス式でも良いでしょう。冒険者達が掘り出したミスリルは我らで買い取るのです」

「……それで?」

 リスロンさんの顔から笑みが消えた。


「すぐにミスリルを求める冒険者や商人で森は溢れ返るでしょう。道具を貸し出す店が建ち、採掘権の売買も始まる。人夫貸しや、採掘場を乗っ取ろうとする輩も来るかも知れませんね」

「そ、そんなの俺達だけじゃ抑えられないよ……」

 俺の言葉に、リターナが「まぁ」と可笑しそうに手で口元を隠した。


「クラインはわかっていないのです、クロネちゃんの強さも、ご自分の強さも……。剣鬼ウィリアムドレイクが、たった一人でメンブラーナの民に睨みを利かせていたのですよ?」

「そ、それは……」


「はは、ウチのギルモアも相当やるぞ?」

 リスロンさんまで、楽しそうに乗ってきた。


「都市の本質とは、見知らぬ者同士の交流や交易の場がその土地に根付くこと。普通のやり方では、お爺さんになってしまいますよ?」

 リターナが微笑む。


「ミスリルという餌を置くことで、人を集めるのか……」

「でも、そんなことしたら貴族が来るんじゃないの?」

 クロネの質問に、俺もそうだと頷く。


「ですので、()()()()()()()()()と」


 リターナは優雅な所作で、紅茶に口を付けた。


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