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19. シャルルとアンリ

 落ち込んだ様子のシャルルが劇場から帰った日、寮で待っていたアンリは心配して事情を尋ねた。

 学園の生徒だからという理由で失格になったのだ、と説明するシャルルに、アンリは納得がいかない顔をしながらも肩をさすって慰めてくれる。


「気を落とすことはないよ。またいくらでもチャンスはある」

「……」


 シャルルはアンリに心配をかけたくなかった。

 だから笑って返事をした。


「――ありがとう。そうよね、私、初めてのことだから大げさに考えてしまってたみたい。学園には、このままいていいっておっしゃってくださったし、これから……また頑張るわ」


 シャルルが落ち込んでいたのは確かだったけれど、舞台に出られなくなったことや、エルバルドのレッスンを受けられなくなったことが問題ではない。

 失格の理由はシャルルが学園の生徒だったということなのだ。シャルルにもエルバルドにも、何か手を講じていれば防げたと言うことはできない。当然、ジルエ卿があの場にいなければよかったというものでもない。


 誰にも止められなかった。

 つまりそれは、シャルルの存在自体がいけないのだ。

 いつもそうだった。シャルルがいるといつも、人為を超えた何かを理由として注目を集めてしまう。その注目は、周りの人にとって良い結果に進むこともあれば、悪い方向に転がることもある。

 シャルルには防ぐことができない。どこに理由があるのかが判然としない上に、シャルルは多くのものに働きかける力など持っていないから。


 シャルルは憂いを口にせず、アンリにただ笑ってみせた。


***


 アンリにはとうてい納得ができなかった。


 ルームメイトのシャルル・クロイツはきわめて好人物だ。穏やかで礼儀正しく謙虚、おまけに器量もいい。

 庶民だというラベル付きで現れたせいで、当初こそ受け入れられがたい印象はあったかもしれない。だが学園で過ごすうちに人柄が伝わり、シャルルの友人はどんどん増えていくことだろうと思っていた。


 数日前までは、その予想は当たっていたかに見えた。

 王太子が編入してきて一時は嫉妬を集めていたシャルルだったが、黒蜘蛛(くろくも)(きみ)が彼に首輪をつけるようなってからは収まっていたのだ。黒蜘蛛の君自身、シャルルの悪評を広めるような真似に飽きていたのかもしれない。

 そこに加えて、エルバルドが公の舞台に彼女を推薦することが知られると、シャルルに声をかける学生が増えてきていた。誰それと初めておしゃべりしたのだ、と嬉しそうに教えてくれるシャルルを見ていると、アンリは手塩にかけてきた子供が独り立ちしたような微笑ましさを覚えていた。


 だが今になって、シャルルはまた孤立に追いやられている。


 週が明けて最初の日はまだ何事もなかったものの、二日目になるとシャルルに対する当たりが突然厳しいものになっていた。なんでも、シャルルが例の劇団から失格の烙印を押されたために学園の名誉が失墜したのだ、という話が学園内に広まっているらしい。

 アンリには理解ができない。何とかいう舞台に出ることは名誉なのかもしれないが、それがかなわなかったからといって他人から責められる謂れなどあるはずがない。シャルルを励ましこそすれ、勝手に失望して糾弾するなど、よくもできたものだ。


 エルバルドもエルバルドだ。舞台に出されるという話自体がシャルルには寝耳に水だったのに、それがご破算になったからといってレッスンまでやめるとのたまっているらしい。


「いいのよ。一度情けを与えていただいたからと言って、いつまでも与え続けろなんて言ってはいけないもの」


 けなげなシャルルはこんな口を利いていたが、アンリにはやはり納得がいかない。

 エルバルドは自分のことばかり考えていて、シャルルの指導者であるという役目をおろそかにしているとしか思えなかった。


 自分にできることはないだろうか、とアンリは思いめぐらせた。

 ただそばにいるだけでは、シャルルにむしろ気を遣わせてしまうだけかもしれない。慣れない環境で一所懸命頑張っているシャルルに、何か力を貸してやりたかった。

 シャルルの不遇は自分が何もしてやらないせいだと、そんな気がしてならなかった。


 アンリがエルバルドのもとを訪れたのは、一言物申してやりたかったから――そればかりではない。

 シャルルはエルバルドを悪く言わなかったが、そもそも彼女は誰のことも責めないのだ。明らかに相手が悪くても、自分の方に落ち度があったと言ってのける。


 誰かが――どうせ黒蜘蛛の侍女だろうが――広めた噂によると、シャルルは『庶民でありながらエルバルドに媚びを売って、たいした実力もないくせに公の場にしゃしゃり出たことを劇団主宰に断罪された』ということになっている。だがアンリには真実だと思えない。

 むしろシャルルはいわれのない非難を受け、自分ではどうすることもできなかったのだろう。その方がありえるように思えた。それはこの学園でシャルルが受けた仕打ちと同じだから。


 シャルルがアンリに話していない事情があるのでは、という直感を覚えていたからこそ、エルバルドの口から真実が知りたかった。

 エルバルドは本心の読めない人物だが、どこか浮世離れした態度は、安易な偽りを口にしないだろうと思わせた。他人に興味がないそぶりをする分、黒蜘蛛や侍女たちのような悪意を持つこともまたないのだろう、と。


「――先生、失礼します」


 開けっ放しの音楽教室の扉から、一つの机いっぱいに何かの書類を広げているエルバルドに声をかける。

 生返事をよこしたエルバルドは、歩み寄るアンリをふと見やっておもしろそうに笑った。


「私に用? 君の授業は受け持ってないけど」


 確かに、会話すること自体初めてだったかもしれない。とはいえアンリはシャルルと一緒にいることが多いから、エルバルドも認識はしているのだろう。


 アンリは単刀直入に述べた。


「シャルルが失格になった件、何があったのか教えてください」

「起きたことは、シャルルが失格になったというだけだよ」

「理由はなんなのですか?」

「学校に通ってるからさ」

「……どういうことです?」


 楽譜か何か分からないが、机に並べた紙に目を落としながらも、エルバルドは平然とした口ぶりで教えてくれる。

 役者の選考基準に照らし、学校に通っていることが違反とみなされたのだと。もっともな理屈だから受け入れたし、そういうわけでエルバルドは新しい候補者を探さなくてはいけない。よってシャルルに手をかける暇がない――と。


 アンリは一瞬絶句し、それから思わず「よくもそんなことが!」と声を荒げた。

 エルバルドのおもしろそうな目に再び見つめられ、アンリは我に返って咳払いする。


 アンリは決して大人しい気性ではないものの、人前で激昂して見せることは控えていた。むしろ人一倍、慎み深い態度を心掛けなくてはならない。そうでなくては、武術など学んでいるから言動まで下品になるのだ、などという不合理な非難に反駁できなくなってしまう。


 深呼吸をして気を落ち着け、静かな調子で言い直した。


「……先生はシャルルの編入を推薦なさったのでしょう? ならば、卒業まできちんと支援をするのが責任というものではないのですか?」

「私は学園の教師だが、それ以前に音楽家でもある。教師として授業はきちんと行ってるんだから、音楽家として校外で何をしようがとやかく言われる筋合いはないよ。人生のすべてを学園に捧げるなんて契約はしちゃいない」


 エルバルドはさらりと言ってのけ、それから愉快そうに笑った。


「学長にも同じことを言われて、同じことを言い返した。君も将来出世するかもね」


 アンリは深く息をついて、頭に上ってくる血を鎮めようとつとめる。

 エルバルドの理屈は間違ってはいないのだろう。だが道理などは関係ない。アンリはただ、シャルルが傷ついているというのにエルバルドが何一つ気にしていない、その無神経さが頭に来ていた。


「――事実と異なる噂が広まっているのをご存じでしょう? シャルルの身分と態度が原因で失格にされた、だからシャルルがすべて悪いのだと……何も知らずに勝手に思い込み、彼女を指さす生徒が大勢います。本当はシャルルに落ち度などないのでしょう? ならば先生の口から真実を明らかにしてください」

「悪いけど、私は真実なんか知らないよ」

「先ほどの話が真実ではないのですか」

「それを言ってどうなる。私がかわいいシャルルをかばってるだけだと思われるさ。――それより、真に責めを負うべき犯人を見つければいいじゃないか」


 エルバルドがまた書面に目を落としながら言うのに、アンリは眉を上げる。


「犯人?」

「誰も悪くなかった、なんて主張より、こいつが元凶だって示した方が説得力があるよ。失格の裁定を下したのはマダム・ハンソだが、彼女の一存で決めたわけじゃないからね。ま、私は悔しがってると思われたくないから、別に誰だっていいけど」


 “マダム・ハンソ”とは、アンリには聞き覚えのない名前である。

 だが、本当にどこかにいる黒幕がエルバルドやシャルルを陥れようとしたのなら、その事実を暴くことでシャルルに罪のないことが証明されるかもしれない。


「マダム・ハンソとは、どういうかたですか?」

「劇団の主宰だよ。業界では一番の権力者だ。――さて、話はこれくらいでいいかな? 私も色々やることがある」


 どうやらエルバルドはシャルルの件には興味を持っていないらしい。本当に気にしていないのか、本人が口走ったように「気にしていると思われたくない」だけかは分からないが、どちらでもいいことだ。


 アンリは会釈をして音楽教室を後にした。


 エルバルドの言うように犯人がいたとして、別に槍玉にあげようとは思っていない。

 ただ、なんとなくの印象で噂を否定することと、事実を知っていることということは大きな違いがある。事実――たとえ噂が真実だという結論に至ったとしても――を知っていればこそ、シャルルのつらさに本当の意味で寄り添うことができるのだから。


***


 休日、シャルルは廊下の向かいに、本を読みながら歩いてくるヒロの姿を見かけた。そうして、声をかけようかためらっている自分に気が付く。


 以前ならば気にせずあいさつをしただろう。だがこの一週間、シャルルは仲良くなったと思っていた同級生に声をかけるたびに、不審げな視線を返されていたのだ。なおざりな返事しかよこさない者や、無視して立ち去ってしまう者がほとんどだった。

 例の舞台の出演を失格になったのが原因なのは分かっている。学園の名前を背負って失格になってしまったのだから、他の学生たちが責めたくなるのも無理はない。


 ヒロもそうかもしれない、と思った。だとしたらシャルルから近づくのは迷惑なはず。ただでさえヒロは、周りに見られそうな場所でシャルルと話すのを嫌がっているようだったから。

 このまま気づかないふりをした方がいいだろう、とシャルルが心に決めた瞬間、ヒロがふと本から顔を上げた。


 シャルルを見るや、いつものように眉を八の字にした困り顔を浮かべる。シャルルはこのまま通り過ぎてしまった方がいいだろうと顔を伏せたが、ヒロの方から声をかけてきてくれた。


「元気出しなよ」


 おずおずとした励ましの言葉に、シャルルは思わず口元を緩めながら顔を上げる。

 ヒロは廊下の斜め前、五、六歩離れた微妙な位置で足を止めていた。


「ありがとう」

「僕は別に、歌劇とか興味ないから」


 微笑み返すシャルルに、ヒロは肩をすくめた。興味ないと言いながらも、ヒロはシャルルが落ち込んでいる理由を分かっているらしい。

 彼の平常通りのふるまいは、シャルルにはひどく安心できるものだった。やっぱり彼のことは友達と思っていても許されるのかもしれない、と感じていた。


「――なにを! なさって! ますの!」


 と、突然投げかけられた金切り声に、シャルルもヒロもびくりと肩を震わせる。

 シャルルの前方、廊下の曲がり角からやってきたらしいアリヤ・マキヴェリエが、肩を怒らせて駆け寄ってきた。後ろには連れ立ってきたらしい数人の女性徒もいる。

 振り向かなかったヒロは声の主を確認しないまま、顔を青くしたと思うとアリヤと逆方向へ走り去って行った。きっとシャルルと話しているところを他人に見られたくなかったのだろう。


 シャルルの前で足を止めたアリヤは、ヒロの去った方へどこかさみしそうな視線を送る。かと思うと突然鋭い目つきになって、シャルルに人差し指を突きつけた。


「あなた、いったい、どういう了見なの! この期に及んでヒロの気を惹こうだなんて、あなたほど図々しい下品な女は見たことがありませんわ!」


 アリヤの異様な剣幕に、シャルルは畏まるよりもただ驚いてしまっていた。今までにもアリヤに声高に責められたことはあったものの、今ほど眉を吊り上げ肩で息をしてまで怒っている様子は初めて見る。

 なぜここまで怒らせてしまったのかと言葉を詰まらせるシャルルに、アリヤの連れていた友人たちも冷たい視線を向けてきた。


「まだ学園にいたなんて、呆れたわね」

「あなたはお払い箱だって、エルバルド先生がお認めになっているのでしょう?」

「それなのに奨学生の立場に居座ろうだなんて、なんて子かしら」


 彼女らの言葉を聞いたアリヤは我に返ったように小さく咳払いすると、さきほどよりも声色を落ち着けた。


「そ、その通りですわ。先生方はお優しいからあなたを追い出さないとおっしゃっていますけれど、そのお慈悲にあぐらをかこうだなんて不届き千万! 立場をわきまえて自ら去るのが正しい態度じゃありませんこと? あなたがいるだけで学園の品位は落ちる一方ですのよ! 皆に迷惑をかけているのだといいかげん自覚なさい! そもそも最初からあなたは――」


 アリヤが言葉を続ける最中、廊下の曲がり角から見慣れた人物が姿を現したことにシャルルは気づいていた。彼女はシャルルたちの状況をすぐに見て取ったようで、凛々しい面持ちになると足早に近づいてきた。


「――何の話をなさってるんです?」


 アンリがそう口を挟んできたのに、振り向いたアリヤたちは不意を突かれた表情を浮かべる。

 シャルルもまた少し驚いていた。こうして同級生に責められているときにアンリが助けてくれたことは前にもあった。だがアンリが声をかける対象はいつもシャルルの方で、相手に言葉を向けることはめったになかったのだ。


「あなたには関係ないことですわ」


 アンリの一番近くにいた女生徒が撥ねつけるように答えたが、アンリは怯んだ顔を見せなかった。


「シャルルに学園を出ていけと詰め寄っているように聞こえましたが」

「だとしたらなんですの? あなたには関係ないと申し上げたでしょう?」


 アリヤがずいと前に出て、アンリを睨み返す。

 アンリもまた、相手の目をまっすぐ見据えていた。


「聞き捨てなりません。学園の品位について主張なさっていたのならば、学生である私にも充分に関係がある。無辜の人間を侮辱し嘲ることが、まことに品位のあるふるまいでしょうか? 人の価値を下げることで自尊心を保たなければいられぬような愚か者こそ、学園の品位を落としているのではありませんか」

「な……」


 怯まされたのはアリヤの方だった。


「わ、わ、わたしが愚か者ですって!? だ、誰に口をきいているか分かってますの!?」

「もちろんです」

「わたしはミス・マキヴェリエよ! 市長の娘なんですのよ! あなたのような成金とは身分が違うんですからね!」

「名前を掲げた以上、それに値するふるまいをすべきとおっしゃっていましたね。私も同感です。市長のご令嬢であるあなたには、ぜひとも公平無私の態度を保っていただきたいものですが――」


 アンリは言いながら、目の前の女生徒たちの間を縫ってシャルルの前にやってくる。シャルルを背にかばうようにして相手に向き直った。


「――今のあなたがたは、ただご自分の気を満足させるためにシャルルを攻撃しているだけではありませんか!」

「言いがかりだわ! 学園にふさわしくないという自覚のないその女に、立場を教えているだけだもの! 悪いのはその女よ!」

「相手が罪人ならば石を投げることも許されるとおっしゃるのか! ご自身が攻撃を与える立場でしかありえないとでもお思いならば、誤った考えは自らを滅ぼすと警告申し上げる。自分に正義があると主張なさるなら、私も正義はこちらにあると主張します。正義の名のもとに私刑が許されるとおっしゃるなら、私も、正義の名のもとに実力行使を――」

「アンリ!」


 シャルルはとっさに親友の名を呼び、手を伸ばしてその袖をつかんだ。

 アンリは自分が拳を握っていたことを今自覚したというようにぴたりと口をつぐむ。一瞬の間ののち、気を鎮めんとするような深呼吸の音が聞こえてきた。


 アリヤとその友人たちは、いつしか怯えたように身を寄せ合っていた。

 シャルルの前に立ったアンリが次第に語調を激しくしていくにつれ、シャルルからは見えないその表情もきっと、威嚇をこめたものになっていたのだろう。


「……いかなる理由があれ、攻撃を目的とする言動はご令嬢にふさわしくないものです。どうか……お心がけください」


 アンリは押し殺した口調でそれだけ言うと、シャルルの手を引いて、元来た曲がり角の方に歩き始める。シャルルは黙ってついて行った。

 アリヤたちに呼び止められることはなかった。


 無言のまま廊下をしばらく歩いたところで、アンリが足を止めた。


「すまなかった。言い過ぎたのは分かってる。あれじゃ……私もマキヴェリエと同じだったな」


 アンリが自制してくれたことが、シャルルには嬉しかった。

 人ならば誰しも、過ちを自覚していながらその手を止められないことがある。とりわけ己が正義の名のもとにあると信じていれば、ささいな罪に目をつぶってしまうもの。


 アリヤたちだって、心の奥底に悪意があったわけではない。シャルルの存在が彼女たちの自尊心をおびやかし、彼女たちはそれを守りたかっただけ。アンリがシャルルを守ろうとしてくれたのと同じように、彼女たちは自身を守ろうとした。

 どちらが守られるべきでどちらが傷ついていいだなんて、誰にも裁定することはできない。


 シャルルはアンリの肩にそっと手を置き、笑いかけた。


「ありがとう」


 アンリはまだバツが悪そうに顔を伏せていて、シャルルを見返してはこない。


「私はただ……自分が正しいと思うことを言っただけだよ。言い慣れてないから、加減が分からなかったが……」

「ううん。それが……嬉しいの」


 アンリが自身の価値観に従って動いたということが、シャルルには喜ばしいのだ。

 これまで大きな声で主張することをはばかっていた彼女が、あんなふうにはっきりとした物言いをしたことも。それは彼女が、信じるものを明確に自覚し、そのために突き動く覚悟ができたからなのだろう。


 今なら――アンリにこれまで話したことのないことを口にしても、受け入れてもらえる気がしていた。


「私ね、自分が……理由なく特別扱いされてるって、よく思うの。そのせいで誰かが傷ついたら、すごく申し訳ないと思う……。だからアンリがね、私を守るためじゃなくて、アンリの正義を守るためにがばってるんだとしたら、すごく嬉しいわ」


 アンリがきょとんとした顔でシャルルを見やる。数秒後、思わずというように噴き出した。


「そう……そうだな。シャルルを守りたいって思うのは、自分の信念を守りたいからなんだ。……ありがとう、シャルル」

「お礼を言うのは私の方よ」


 アンリがようやく見せてくれた明るい笑顔に、シャルルもやっと胸を撫でおろしていた。


「――あ、しまった」


 と、アンリがきびすを返す。


「用があったのを忘れてた。ちょっと出かけてくるから」

「そうだったの、ごめんなさい。ご実家へ?」

「え? ああ、いや、まあね」


 そういえばアンリの服装がいつもよりきちんとしているように見える。何か用事があるのだろう。

 手を振って歩き去る親友の後姿を、シャルルは笑って見送った。


アンリとアリヤが一緒に登場するとまぎらわしい。

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