引っ越してくる前
それは、とある少女が引っ越してくる前の話。
とある少女とは、健太の妹である美咲のことを指す。
よってこの話は、健太の住んでいるアパートにやって来る前の、美咲の話なのである
引っ越してくる前
主演・語り手:木村美咲
それは私が引っ越してくる前の話。
今となっては、もう懐かしい。
あまりにも急すぎた、知らせだった。
「はぁ~お兄ちゃんに会いたいな~」
私とお兄ちゃんは、元々は同じ家に住んでいた。
けど、お兄ちゃんが高校に上がった際、今の家からだと遠いということで、アパートで一人暮らしをすることになったのだ。
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃん。
私のことを救ってくれた、ヒーローみたいな存在。
一人ぼっちだった私に、家族にならないかと言ってくれたお兄ちゃん。
だから私は、お兄ちゃんのことが大好きなのだ。
お兄ちゃん以外の人を男として見ることも、ないかもしれない。
「美咲、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
その時。
お母さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
なので私は。
「うん、大丈夫だよ」
そう言って、居間にあるソファに座る。
お母さんは反対側の席に座り、何やら言おうとしている。
お父さんも、お母さんの隣の席についていて、お母さんが何かを言うのを待っていた。
「お母さん達ね、来週から海外に行くことになったの。てへっ♪」
「……へ?」
一瞬自分の耳を疑ってしまった。
お母さん達が海外に行く?
まさかそんなこと……。
「仕事の都合で行かなくてはいけなくなったんだ。だから美咲。来週辺りには転校になるぞ」
「それじゃあ……私も海外に!?」
そんな、いきなり過ぎだよ!
日本から離れて海外に行くなんて。
友達が……お兄ちゃんがいるのに。
「違うわよ。中学を変えるだけよ。健太のアパートから通えるような位地にある学校に」
お母さんは、さぞかし嬉しそうな表情で、私に言ってくる。
……ん?
お兄ちゃんの住むアパートの近くにある学校?
それって、まさか……。
「美咲、転校手続きとか準備が済んだら、健太の住むアパートに行きなさい」
「……え?本当に?」
その日私はとんでもないことを知らされたのだった。
そして、その日の昼休み。
私は、朝の段階でその話を先生に伝えていた。
だから、クラスのみんなはかなり驚いていて、私にいろんなことを言ってくれた。
嬉しかったなあ。
でも、何より一番驚いたのは、
「……呼び出したりして、スマン」
「いいっていいって……で、何の話?」
私は今、同じクラスの男の子に呼ばれて、屋上に来ていた。
一対一で。
互いの瞳の中が見えるくらいに。
「あ、あのよ、木村」
「?」
私は、その先の言葉を待つ。
男の子の方は、やがて言葉を選ぶことが出来たらしく、何かを言う決意をしていた。
そして、言った。
「俺はお前のことが好きなんだ!だから、俺と付き合って……」
「ごめんなさい!」
「くれ……って、え?」
男の子の告白が終わる前に、私は謝っていた。
つまり、告白に対する返事がNoということだ。
「な、なんで?」
「それはね……」
私はここで一旦言葉を切る。
そして、言った。
「私には、お兄ちゃんがいるもん!」
「……って、話があったんだよ」
「成る程ね……アハハ」
とある休日での話。
私とお兄ちゃんは、アパートの一室にて話をしていた。
理由は、雨でどこにも出掛けることが出来ないからだ。
「暇だね……」
「そうだね……」
でも、私はこの時間は嫌いじゃない。
寧ろ、好きの部類に入る。
何故なら、
「……そろそろお昼にしよっか?」
「……うん!」
隣でお兄ちゃんが笑ってくれてるから。
隣にお兄ちゃんがいるから。
ただそれだけで私の心は満たされる。
そんな簡単な、心。
時々前の中学での友達に会いたいと思う時があるけど。
今はこの幸せを享受してようと思う。
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