第7話 ゴブリンに負ける黒魔導士
さて、改めて紹介しよう。
俺はルアードとかいう、自称殺し屋ハンターの男にモンスターになる薬を打たれた。
そして子竜の姿になってしまった。
そして前方に見えるのは、大陸一の魔導士を師匠に持つ黒魔導士。
緑の皮膚を持つゴブリンに髪を掴まれ、もう一体のゴブリンに服を破かれている。
犯される寸前だ。
俺は走って行く勢いで、2体のゴブリンの額を爪で突いた。
ゴブリンは吹っ飛び動かなくなった。
「怖かったよ〜!」
腰が抜けたようでその場でへたり込むローサ。
……俺は、こいつの面倒身係か?
「あのな、だから先先行くなって」
「……うん、そうだね」
ピクニックにでも出かけているつもりだったなのか?
ようやく、この砂利道の危険度が分かって来たようだ。
と、そうは言っても俺にとっては危険でも何でもないが。
ただ、ローサにしたら子猫がライオンの群れを横切るようなものだろう。
ローサが本当に弱いかどうかは定かではない。
だが、軽い息で消えるほどのファイヤーボール。
そして、最弱モンスターにやられる様。
しまいには2体のゴブリンに襲われて犯される寸前。
ゴブリンはスライムほどとは言わないが弱い部類のモンスター。
そんなものを立て続けに見てきた。
断言しよう。
ローサは弱い魔導士だと。
ただ、こうして横を歩いている魔導士ローサも、何か際立って得意なことがあるはず。
何か、そう……例えば、誰にも使えない魔法が使えたり……
「ローサ、聞くが、誰にも使えない魔法とか持っているのか?」
「いいえ。何故、そんなことを?」
違った。
よし、質問を変えてみよう。
「聞いてみただけだ。だったら、実はさっきのスライムやゴブリンに負けたのは演技だったりするか?」
「そんなわけないじゃない! 何言ってるの!? 本当に怖かったんだからね!」
「ああ、すまん」
何故か俺が怒られる風になってしまった。
どうやら、これも違ったらしい。
とすればなんだろう。
「ローサ、その帽子って実は強大な魔力を封じ込めるものだったりする?」
ぶんぶんと左右に首を振る。
違った。
なるほど。どうやら、認めざるを得ない。
ローサは弱すぎる黒魔導士だと。
しばらくの間、無言で歩みを進めていた。
ところどころある石が、いつもより大きく見える。
道幅も広く感じ、砂利道がどこまでも続くように見える。
長く、長く。
これでは、本当にいつマメルの町に着くことやら。
ローサは何故か手を握ってくれないし。
仕方ない。
進まないよりかはマシだ。
一歩一歩。
マメルの町へ歩みを進める。
そうして進んで行くと、木の根っこが地面から生えている。
「何? これ?」
子供のように興味津々のローサは引っこ抜こうとする。
「待て! ローサ!」
俺は気づいた。
褐色の木で道端に生える。
そして、独特な良い香りで人を引き寄せる匂い。
ローサは勢いよく引っこ抜いた。
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
俺は両耳を塞いだ。
マンドレイクだ。
その声を聞いたものは絶命するほど。
何でそんな危険なモンスターが?
根には神経毒があり、幻聴や幻覚症状を引き起こすと言われている。
……のはずなのだが
ローサはずぼんっとマンドレイクを地面に戻した。
悍ましい叫び声は止み、あたりに静けさが戻る。
「何してるの?」
恐る恐る両手を耳から離した。
大丈夫だ。
「……ローサ、何ともないのか?」
「へ? 何のこと?」
驚いた。
マンドレイクを直接触って、しかも至近距離で叫び声を聞いた。
にも関わらず、ローサは平然としている。
なるほど。
馬鹿さが際立って気づいていないだけか。
いや、これは失礼だな。
恐らくだが、それがローサなのだろう。
マンドレイクの死の叫びも神経毒も効かない。
他にもそうしたことがありそうだ。
最弱の代わりに、とんでもない能力を持っている。
「……いや、何でもない。行こう」
「?」
大陸一の魔導士を師匠に持つ黒魔導士は、実はとんでもなかった。
下手をすれば化ける。
そんな気が俺にはした。