第6話 スライムに負ける黒魔道士
「いったーい!! セフ婆様ったら乱暴!」
豪快に地面に落ちたローサは尻をさする。
俺はというと、体勢を整えて着地。
殺し屋だ。造作もない。
「……マメルの町か」
セフ婆の言うことだと、マメルの町はそう遠くはない。
ローサが金髪の女等と騒ぎを起こしていた場所からは反対側の方角にある。
この大陸一の大魔導士セフがいた森を抜けて、ひたすら歩いて行った先にある。
そうなれば、とっととルアードを見つけて人間の姿に戻してもらおうじゃないか。
俺は身震いした。
久しぶりに得た感情。
この落とし前はきっちりとってもらう。
「待ってよ!」
地面を蹴って走り出そうとするローサだったが、つまづきそうになる。
どんくささが滲み出ている。
俺がローサを一人前の魔導士に?
冗談じゃない。
そもそも、俺は魔導の”ま”の字も噛んだことがない。
だが、本当に大陸一の魔導士セフなら、断れば何をされるか分かったものじゃない。
俺がモンスターにされたように、今度は食器にでも変えられかねない。
ローサを一人前の魔導士にする件はひとまず横に置いておこう。
まずは、俺が人間の姿に戻ることが先決。
森を抜けると長い砂利道が現れた。
太陽が照りつけ、地面が熱そうだ。
幸いだったのは、モンスターの姿になっていたおかげで全く熱くない。爬虫類凄いな。
ただ、歩幅は致命的だった。
これでは一体いつになったらマメルの町に着くことやら。
ローサは……既にしんどそう。
「ローサ」
良いことを思い付いた。
俺が人間の姿になれば、とっととマメルの町に着くではないか。
ローサに短い手を差し出した。
「え? 手を繋げって?」
俺はこくりと頷く。
「いやよ」
ローサはプイッとそっぽを向いてしまった。
「お前、よく見てみろこの長い砂利道。こんなスピードで歩いていたらいつ着くんだ?」
砂利道は長い。
人っ子一人見えない道。
それは、モンスターが度々出現するからだ。
好き好んでこの砂利道を進む人間は少ないだろう。
だから、この道ではない道からマメルの町へ行く手段もあるが、それでは時間が数倍もかかってしまう。
安全にマメルの町に行くのなら、そうしたいところも山々だ。
だが、安全な方は人が多い。
こんなモンスターの姿では悪目立ちする。
まあ、比較的危険なモンスターは出ないのが唯一の救いだろう。
「……そうだけど……嫌なものは嫌〜!!」
いきなりローサが走りだした。
こういう時に限って変にムキになる。
まるで子供。
けっこう本気で走っているつもりなんだが、ローサとの距離は開いて行くばかり。
そしてとうとう、ローサは見えなくなってしまった。
「はぁはぁ……なんだあいつ!?」
わけがわからない。
その一言しか出てこない。
走り疲れ、速度を落として歩いて行く。
「きゃああああああ!! 誰か〜!!」
あれはローサの声だ。
一体今度はなんだ?
また、走り出して見えて来たのは、青く透明な物体に捕まっているローサだった。
「……こいつはスライム」
モンスターの中でも最弱の部類に入るスライム。
そしてそんな最弱のモンスターに四肢を触手に拘束されているローサ。
弱い、弱すぎる。
見るに耐えず思わず額に手を当てる。
スライムなんて、魔導士でなくても倒せる。
適当な木の棒でも持ってボコボコ叩いていたらそのうち倒せる。
俺は呆れた溜息を吐いてスライムの触手を切断する。
「ピギャ!?」
そう声を上げたスライムにさらに一撃。
モンスターの俺ーー子竜の爪はあっさりとスライムを葬った。
「ありがとう!」
スライムはぱシュッと蒸発した。
「スライムなんかに負けるなよ」
「少し油断しちゃっただけ! うわっ! 服ベットベト!」
ローサはスライムの粘液がついた服を手で払う。
しかし取れない。
仕方なく、俺は着ている黒服の袖の一部を破いて渡す。
ローサは受け取り拭くのだが、まだ取れない。
「ま、そのうち乾くでしょ! 行きましょ!」
率先して行こうとするローサは、果たして今自分の身に起こったことを理解していないのだろうか。
もしかして俺は、とんでもない馬鹿な黒魔導士を大陸一の魔導士に押し付けられたのではないか?
だが、それを考えるのは後だ。
今は早くマメルの町だ。