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第14話 殺し屋VS殺し屋


「ううっ!」


全身が焼けるように熱い。

頭の先から足の指の先まで。


熱い、熱い熱い。


俺が飲んだのは本当に人間に戻る薬だったのか?


馬鹿正直に薬なんて飲むもんじゃない。

思えば、そんな高価であろう薬が通路の脇に置いてあるか?


し……死ぬ……

瞼が重くなって来た。


床に倒れ、通路の脇まで這いつくばるように移動する。


息が……うまく、出来ない。


まずい……ローサも他の人間たちも助けていない。


俺が死ねば……





「……手」


目が覚め、まず視界に入って来たのは人の手だった。


手を握ったり開いたり。


右手の甲に斜めに入る傷痕。

これは、昔、殺し屋の仕事で、屋敷の人間が雇っていた手練れの剣士に負わされた傷痕。


昨日のことのように蘇る記憶だ。


そうだ。

これは俺の手だ。


立ち上がって状態を確認する。


両足は……靴を履いていない。


何処かで調達したいが。

また、良からぬことをしている人間でも撃って奪うか?

無いよりかはマシだ。


素足の裏が冷たい。


歩く工場の通路はまだ続く。


何かが固い物を蹴るような音も今は聞こえない。


急ごう。


取り戻した体を確かめるように、通路を駆けて行く。


たまに立ち止って、耳を澄ませる。


その時。


コツ、コツ、コツと誰かの足音が聞こえて来る。


隠れるか?


消火器の見える角の通路から姿を見せたのは1人の男。

長身で足元まである黒いコートを着ている。

顔は黒いフードを深く被っていて見えない。

手まで黒い手袋をして全身が黒。


まさか、同業者か?


「隠れても無駄だ。そこに居るのは分かっているぜ」


通路の出っ張ったところに身を隠していた。

だが、あっさりと見破られてしまったようだ。


「1人でよくもまあノコノコと。この先には行かせられない」


「なら、話は簡単だ」


素早く、“バレットサイレンス”を抜いた。


「ふ……ふ、ふははははははは!! 面白い! この俺とやろうというのか!? ーーいいだろう、来い!」


躊躇わず発砲した。

狙いは肩。


男は「うっ」と言ってぐらついた。


ーーだが。


確実にヒットしたはずの弾丸が、男の手によって抜き取られる。


「音が鳴ら無い銃か、珍しいな。だが、こんなものは俺には効かない」


弾丸を素手で投げつけて来て、それをサッと避ける。


何故だ? 確かに当たったはずだが。


並みの人間なら、そんな余裕でいられる筈がない。

“バレットサイレンス”は、拳銃の中でも高い威力の部類に入る。


そんな拳銃の弾を食らって、何故笑っている?


「動くな! それ以上近づいたら次は外さない!」


男は俺の方に向って歩いて来る。

そして次第に早くなる足。


躊躇わず、頭に向って発砲。


だが、男はそれを手で受け止めた。


「いいねえ!! その容赦ない感じ!! ゾクゾクする!」


手からは確かに血が噴き出している。


赤い血だ。


なのに何故、平気でいられる?

おかしい。


男は手刀を振って来た。


「……お前、まさかモンスター」


男の手刀を受け止めた。


ニッと、男はにやつく。


触れた感触は人間のようだったが、黒い手袋と袖のズレて見えた箇所はやや腐敗していた。

臭いがきつい。


「正解。そうさ、俺はゾンビ。そんなチンケな銃じゃあやられやしない。俺を倒したきゃあ、首から上を切り離すか、頭を潰せばいい」


トントンと男は頭を指差す。


「そうか」


なら、そうさせてもらおう。

馬鹿なゾンビだ。


すかさず、手刀を止めている反対側の手でもう一丁の拳銃を取り出した。


“サタンゼクス”


“バレットサイレンス”より威力の高い拳銃。

少しばかり大きい上、音も出る。


引き金を引こうとしたーー


「があっ!?」


手刀を止めていた腕に電撃が走った。


体制を崩し、その屈んだ腹部に男の蹴りが入った。


通路の壁まで吹っ飛び、激突。


「油断してるからだよ〜?」


どうやら、ただのゾンビではないらしい。

電撃を放つゾンビ。

なるほど、面倒だな。


体制を立て直しーー同時に2つの拳銃で頭を狙撃。


だが、電撃が縦にほとばしり、2つの弾丸は弾き飛ばされる。


「……」


さっきあえて俺の攻撃を受けたのは、油断を誘う為か。


さて、どうやって倒したものか。


「大したもの大したもの。殺し屋相手によくやっている」


男はパンパンと手を叩いている。

やはり、男は殺し屋だった。


「お互い様だな」


「ほおう、お前も。俺様はただ雇われただけだからな。侵入者を排除せよ、と」


全く、やりにくい事この上ない。

特に同業者となると、似たり寄ったりな武器を使うことが多く、戦闘を読まれてしまう。


この男はどうだろう。

見たところ、まだコートの内に何か持ってもいそうだ。

そうなれば、電撃を放つ拳銃の効かないゾンビ、プラスってことになる。


やりにくい相手だ。


「……何でそうする? 諦めたのか?」


二丁の拳銃をしまった。


「違う。お前に逃げる時間をくれてやる。5秒だ。それ以上は待たない。5ーー」


「はあ!? 俺様がお前から逃げる!? 圧されてるのはお前だ! ほざけ! このクソガキ!!」


男は腕に電撃を巻きつけて、走って来る。

さっき俺が食らった電撃より強そうだ。


青い電撃が通路の上の豆電球に当たる。


そのせいで、俺と男のあたりが暗くなって、電撃の青い光が色濃く見える。


「時間切れだ」


俺はベルトにかけてあった2本のナイフを取り出した。


「っ!!! お、お前!?」


男が放つ電撃が小さくなっていく。


正面と背後、合わせて2本。

ちょうど、心臓部分に当たる箇所を向かいになるように突いた。


フードが取れ、男は動かなくなった。


「ふん」


俺は殺し屋だ。

容赦なんてしない。

急いでいるっていうのに、邪魔なんてして来るからだ。


始め、あえて俺の攻撃を受け油断をさせて、次に急所である頭を潰すか、首から上を切ると言った男。

自身がゾンビならば、そう言うことでその箇所しか殺せないと思わせる誘導。


だが、元が人間なんだ。

たとえモンスターであるゾンビになったとしても、心臓を突かれてしまえばどうしようもない。

ただ、1つの賭けであったことには違いない。

ゾンビなんて言うんだ。

心臓なんて潰しても意味はないとも思っていた。


しかし、結果的に男は死んだ。


今、俺の足元で息絶える男は、まさかこんな結末を迎えるなんて思ってもみなかったことだろう。


俺は殺し屋だ。

かなわないであろう敵を目の前にした時の解決策も用意してある。


卑怯だなんて思わないでほしい。


用意周到。

殺しの手段なんて無数にあるんだ。


さあ、早くローサと他の人間たちのところに急ごう。





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