第12話 殺し屋、黒魔導士を救え!
「!」
時計の音で目が覚めた。
小さな扉が開いたり閉まったりして、そこからまた小さなカーバンクルが木の板に乗って出てくる。
左右に首を振って……癒される。
「時間か……」
パン屋の床で眠っていると、外はすっかり夜になっていた。
町道へ出ると誰一人としていない。
月の光が道を照らしていなければ、町の灯もない道はさながらゴーストタウン。
十分そうではあるが、まだ、希望はある。
屋根の上から見えた工場の方角へ向かって行くと声が聞こえて来るからだ。
それが、町の住人の声かは分からないが、何にしても行こう。
マントの者が来いと言った場所だ。
ルアード、俺を人間の姿に戻してもらうぞ。
3本の拳銃を防護服の上から確認して、歩いて行く。
「あいつ、大丈夫だろうな?」
ただ、ずっと心配なことがあった。
急に居なくなってしまったローサのことだ。
目を赤くしてわんわん泣きわめき、何で俺が来ないのかと言っている。
そんな想像が容易く出来る。
「いかにも、だな」
まだ、工場には着いていないが、それでも怪しい雰囲気がしてくる。
マメルの町は灯すら付いていないにも関わらず、工場には眩しいくらいの電灯。
近づいて行きますます確信する。
積み上げられた大小さまざまな木の箱には、『フェイクモンスター』と書かれている。
なるほど。
少しずつ分かって来た。
確証ではないが、恐らく、俺をモンスターにした薬で同じようなことを他の人間にも行っている。
そして、そのモンスターになった人間を売りさばく。そんな感じか。
悪趣味な。
「やることが悪魔だな」
殺し屋の俺に言えたことではないが、そう思わざるを得ない。
マメルの町の人々がいない理由。
可能性はある。
いや、そうである確率は高い。
こんな時、変に思考が冴える。
モンスターになった人間が行く場所。
それは、人間の家だ。
俺は殺し屋だ。
ターゲットの家に行った時に何回もモンスターに遭遇したことがある。
ああ……そうだ。
彼らはモンスターになってしまった人間だったんだ。
普通、野生のモンスターが人間の言うことを聞くことなんて滅多にない。
無理ではないとは思うが、時間もお金もかかる。
よほどの富豪か要人でもない限り、そんな芸当は不可能に近い。
モンスターと人間の共存、夢物語だ。
……だが。
現に俺は見た。
主人を忠実に守ろうとするモンスターを。
そして……俺は撃った。
ターゲットもろとも。
心の中のもやが見えた。
俺が感じていたこと。
セフ婆が俺に向かって言ったこと。
殺し屋なんて向いていないと。
もの言わぬ彼らモンスターを撃ってしまって湧いて来た感情だと。
石の地面に水滴が落ちた。
ーーそして。
俺の中の怒りが沸騰し始める。
ルアード。
お前はやってはいけないことをしたと。
無論、関わった連中も同じだ。
俺は殺し屋だ。
依頼があったターゲットを殺めるまで、着実かつ冷静に任務を遂行する。
人間を殺すことに何の躊躇いもないーーはずだった。
だが、俺がモンスターになったこと。
そして、ルアードがしているであろうことを理解したこと。
俺がしてしまった過ちのこと。
全て、自分が殺し屋という道を選んだから起きたこと。
怒りはルアードと同じくいる連中に対してもだったが、俺自身に対しても沸き起こっていた。
小竜の爪が内に食い込み、ポタポタと血が流れ落ちる。
「ーー冷静になろう」
起きてしまったことを悔やんでも何も出来ない。
呼吸を整える。
工場からはさっきから、何かを運んでいる連中がいる。
時間は一刻を争う。
俺に出来ることは、このマメルの町の人々とローサを救うこと。
痛む両手を感じることが出来たのは、冷静さを取り戻したからだった。
血を防護服で拭い、拳銃を取り出した。
“バレットサイレンス”
俺が使う拳銃の名だ。
高威力、それでいて無音にすることが出来る拳銃。
オーガ戦では使わなかったが、そんな芸当も出来る。
殺し屋にとってこれ以上とない拳銃。
最大弾数は10発。
これだけの弾数では足りないだろう。
もちろん、予備の弾も持っている。
さあ、行こう。




