孵化業務2
高さ150㎝、横奥行き共に100㎝、この大きさの孵卵器で、約1100個の卵を孵化できる。
それがこの部屋には合計6台、一度の孵卵で6600個出来る計算だ。
これだけの設備は、この世界においてはここを含めて3箇所しかない。
これが多いか少ないかと言われたら、自分にはよくわからないが、上司曰くもの凄く少ないらしい。
なんでも、前世で勤めていた孵化場では、一日に10万羽以上孵化するのが当たり前だったとか。
それと比べると確かにこの規模の孵化場はかなり小さいのだろう。
ぐるりと周りを見渡すと、自分以外の5人がせっせと産まれたヒヨコを箱に詰めている。
孵卵器1台に付き一人が担当だ。
負けじと右手に2羽、左手に3羽、一度に5羽のヒヨコをテンポよく箱に移していく。
これは上司から教えて貰った方法で、数が数えやすく、前世でも行っていたやり方らしい。
数え終わると、羽の乾いていな雛や、まだ産まれていない卵を一つにまとめて、1台の孵卵器に戻しておく。
残念ながら孵化途中で死んでしまった卵は、すべて取り出して廃棄処分だ。
箱に入れた雛達は、このまま育雛場の従業員にバトンタッチして、後は1台を残してカラになった孵卵器を清掃消毒して、本日の業務終了である。
「あー今日も無事に終わって良かったぁ。」
そう叫んだのは、新人だ。
白い防護服の胸の部分にデカデカと《閃光の平社員》と書かれている彼は、つい2ヶ月間前にここに配属になったばかりである。
ちなみに額には《安全第一》と書かれている、これは全員共通だ。
彼が叫ぶのも無理はない。
鶏を飼育する中で、〔育雛〕→〔種鶏飼育〕→〔孵化〕の順番で危険が大きいからだ。
何故ならば
「コカトリスとか本当に死ぬから、まじ勘弁。」
雄鶏の卵からはコカトリスが産まれるからである。