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078.竜騎士見習いⅡ

 と、そんな事が一ヶ月前にあり。


 実際に文字通りの共同生活で、結果が今だ。


(まー、思ったよりうまくいってるよなー……)


 と、考えた矢先だ。


「あのー、サキト様?」


 不意に声をかけてきたのはキリューだ。彼はおずおずと申し訳なさそうに、


「ちょうど今、竜との相性について話してたんですが……」


 聞くに、ジリオンやベリオスはそれぞれの竜と相性が良いと思えるのに対し、自分とリンドブルムはあまりそう思えないらしい。


「リンドは変に性格きつそうだもんなー」


「あわわ! サキト様、そんな事言ったらリンドブルム怒っちゃいますよ!?」


 だが、リンドブルムはちらりとサキトを見ただけでそれ以上は行動を起こさない。


「あ、あれ?」


「ふふ、サキト殿はジルニトラたちにとって親……いえ、正確に言えば祖父のようなものであると聞いた。案外、正論を言われて何も言えないんじゃないか?」


 ベリオスの言葉に、意味が解っているのかジルニトラが首を縦に振った。


 そんなベリオスとジルニトラをリンドヴルムが睨みつける。


「リンドもそんなかっかするなよ。そりゃ、お前がミドから誘われた時に聞いてた話と現状は大分違うだろうけど」


 ミドガルズオルムがどのように彼らを眷属に誘ったかは詳しく聞いていないが、少なくとも大勢の人間たちと共に暮らすという話はしていないはずだ。


「やっぱり、僕と組まされた事に納得がいってないんじゃないですか……? その、僕はジリオンやベリオスと違って、良いところないですし……」


「そんな卑屈になるなよ。キリューは亜人の中でも魔力が高いし、魔法適正も高い。そこはお前の長所だろ?」


「それは……はい……」


 それでも自信はなさそうだが、否定しないだけ良い方だ。


「竜との組み合わせだって最初に決めたのはお前とリンドヴルムだ。キリューだから、別に余った者同士を組み合わせたとかは絶対に無い」


「――え? そうなんですか?」


「ああ、魔法が得意ってことでジルニトラとキリューっていう考えもあったんだけどなー? 魔力の同調具合に関して、今の組み合わせが最適だったしさ。その他にも色々考慮したらこうなったんだ。

 ……まあ、確かにリンドは――」


 俺はスキル:《鑑定博士》でリンドヴルムのステータスを見る。


(…………リンドヴルムは他二体と明らかに違う点がいくつかあるからなー)


 この部分はジリオンたちには伝えていない事だ。言えば、変わる部分もあるかもしれないが、


(キリューの場合、逆効果になりかねないし……)


 それに、


「そのままの方が面白い事になりそうだしな!」


「えっ、どういう意味ですか!?」


「なんでもないなんでもない。

 というか、今日はお前たちにプレゼント持ってきたんだけど」


「は、はぐらかされた……」


 うな垂れるキリューの肩をポンポンと叩きつつ、俺は異空間から三つの端末を取り出した。


「サキトさん、それってもしかして……」


 サラマンダーの上から飛び降りたジリオンがこちらに駆け寄ってきた。同じく、着地したジルニトラからベリオスも降りてこちらに近づいてくる。


 彼らに手渡すのは、


「ああ、アルカナムだ。幹部連中と魔人たちのテストから取れたデータをフィードバックしたのに加えて、亜人用に調整するので時間がかかっちゃったけどな。

 それでこの周辺一帯なら、それなりに離れててもアルカナムを通した魔力通信で連絡取れるから。使い方はここをこうすれば全部見れる」


 俺はジリオンのアルカナムを横から操作し、内蔵したマニュアルを展開する方法を実演して見せる。


「すごい……」


「それと、魔法術式もいくらか組み込んである。今まで練習していた魔法もそれがあれば簡単に発動できるから慣らしという事で試しとけー」


「そうなのか!? てか、それなら俺たちが今まで魔法の練習してた意味って……」


「馬鹿。アルカナムは便利だけど、それがいざ使えないって時に本人だけで魔法発動できないんじゃ意味が無いだろ。あと鍛錬の意味でも簡単な魔法ぐらいは自分で使えよ?」


「うっ……精進します……」


 ジリオンがうな垂れて言う。


「で、アルカナムとは別に……これだこれ」


 そう言って、取り出したのは杖と銃だ。どちらも俺が作成した武装である。


「キリューはこれ、ベリオスはこっちだ」


 杖をキリューに、銃をベリオスに渡す。


 だがジリオンには渡すものが無い。


「……あれ? 俺は……?」


 ジリオンの疑問に、俺はあー、と返した。


「ジリオンに関しては今回は見送りだ」


 理由はきちんと存在する。


「お前の戦闘スタイルがまだ確定してないからな」


 以前、竜に乗ったままの行動を前提に考えた上での武装選択ということでいくつか武装を触ってもらった事がある。結果、キリューは魔法での広域支援、ベリオスは空中遠距離からの援護支援と状況把握という役割を担えると判断した。だがジリオンだけがどれもしっくりいっていないような様子だった。


「ジリオンもベリオスと同じで銃で良いかとも思ったんだけど、やっぱり向いてなさそうなんだよお前」


 ジリオンの身体の動かし方を見るに、どちらかと言えば近接寄りの方が向いていると思うのだ。だが、そうなると竜乗りとしての圧倒的なアドバンテージである機動力の一部を無駄にする事になる。


「これも竜との組み合わせと同じで、妥協すると後々ジリオン本人が苦しむ事になるだろうし、もう少し考えさせてくれるとありがたい」


「――んー、わかった。サキトさんの判断が正しいってのは俺でもわかることだからな」


 言ったジリオンの背中を軽く叩く。


「素直でよろしい。だいたい、やることはみんな多いぞ。竜との生活と魔力の扱いに加え、今後は武装とアルカナムを使った鍛錬も入ってくる。ジリオンだって武装が無い代わりに魔力での身体強化を多めにやってもらうつもりだから覚悟しろよ?」


「うへぇ……」


 俺のニヤッとした表情と言葉に対して、三人が一瞬微妙な表情をするが、


「まあ、やってやるぜ。なあ二人とも」


 ジリオンの言葉に、キリューとベリオスも力強く応えた。


 そんな様子に俺は小さく笑いながら、


「期待してる。お前たちが生きていくためにもな」

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