001.プロローグ:勇者→魔王→勇者→魔王→?
「いい加減にしてください」
始まり―――否、五回目の始まりの中で、俺はこう言った。
目の前には不機嫌そうな女性。
(一触即発のこの状況を作ったのは、俺か―――いいや……)
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軽く自己紹介からはじめよう。俺の名前は冬紙 咲斗。元、普通の男子高校生だ。基本的に名前でしか呼ばれないので、よろしく。
さて、唐突に昔話をする。
冴えない普通の男子高校生、冬紙 咲斗は学校からの帰り道、前方不注意の自動車に撥ねられ、絶命した。
これからやりたいこと、やらなければいけないことがいっぱいあったのに、とか、家族や友人のこととか、そんなことを思っているうちに視界はブラックアウト。意識も落ちた。
のだが。
次に目を開けると、目の前には女性が座っていた。なんか立派な椅子にだ。
それが女神、オーディアだ。
この女神、話を聞いてみると、魔王を討伐する勇者が必要な世界があって人材を探しているところに、ちょうど俺が死んであの世に行くところを横から引っこ抜いたらしい。
つまりはこれ、勇者召喚とか異世界転生のソレだ。
こちとら普通の日本男児。魔王とかそんなのと戦う術など持たないし、無理無理とお断りしたら、四つだけスキルとか色々付与するから大丈夫、と言われたのだ。なんだその中途半端な数、なんか詐欺臭くない? と思ったのは覚えている。
まあ、しかし。
大体この手のお話で付与してくれるのは一つとかだし、四つもかなえてくれるなら……と、安易にこの話に乗った俺も悪かった。仕方が無いよ、見た目美人の女性の人に言われたらね。
と、そんなこんなで四つの力を付与してもらったわけだが。
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まず一つ目が、身体強化。せっかく能力付与して転生しても、簡単に物理でグシャァとかされたらお話にならないですよ。でも、俺ってば絶賛帰宅部で強そうな体型ではなかったために、これを願った。
跳躍力とか腕力とか、一括して向上したので、妥当な具合。ちなみにマッチョにはならなかった。
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次に俺は武器を考えた。
(……まー、オーソドックスに『剣』じゃね? 剣とか握ったこと無いけど)
この適当な思考が後に俺を苦しめるのだが、それは後にする。
もらった剣は『神剣』。
「銘は?」
と聞いたら、
「ただの『神剣』」
と言ってきたので、こっちで名前を改めて『神剣アルノード』にした。今は若干異なっているが、それも後だ。
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三つ目。ここで俺は欲望を少し出した。少しね。
勇者には女の子が必要だ、あくまで個人的な意見だけど。
普通、そのような存在とは転生した後に出会うものだが、俺はそれを省略した。
何でも言う事を聞いてくれる、とは言わないが、従順で勇者となる俺をちゃんとサポートしてくれる娘が居てほしいのである。人間、一人だと生きられないし。
という旨をオーディアに伝えると彼女は指を鳴らした。すると間もなく、一人の少女が光と共に現れた。
背に純白の翼を生やした銀髪の少女。外見年齢は俺とほぼ変わらないだろうか。陳腐ではあるが、表現するならば、まさしく天使だった。ちなみに巨乳だ。
オーディア曰く、
「名はゼルシア。天使の中でも屈指の美を誇る娘です」
とかなんとか。
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そして、最後に。これだけはかなり悩んだ。なにしろ、今の状況は、銀髪巨乳美少女天使を侍らせた筋力全振り素人剣士の出来上がりだ。
しかし、魔族との戦いでは物理ではどうにもならないこともあるだろう。
よって、最後はスキル系を、と思ったのだが、残り一つしかない枠でどうするかで困った。計画性無さ過ぎる俺。
具体的に出てこないのだが、文字通り、今後の俺の一生を左右するものだ。適当は良くない。
どうしたものか、と考えているとき、ふと思い浮かべた。システム的に有りなのかはわからないが、言うだけ言ってみる。
「―――ユニークスキル、俺に合わせて成長、変異するものが欲しい」
かなり抽象的で、最初はオーディアもよくわからないがそんなもので良いのか、と聞いてきたが、良しと答えたので、そのまま付与してもらう。
この時、オーディアは気付いていたのか知らないが、このスキルは裏を返せば、進化するスキルだということだ。
スキル:《進化する者》。これが後に俺を大いに助けになった。
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というわけで、勇者として転生、というよりは勇者召喚と言う形で異世界に行ったのだが、その後が大変だった。
先程も言ったと思うが、元々日本の未成年だった俺だ。
戦う術や庇護から外れて生きていく術など、知っているわけが無い。おまけに伝説の剣を持っているが、剣の使い方などもわからない。
ステータス全振りのLV1勇者の誕生だった。
かなり苦労した。自分を鍛えながら、他人との交流を図り、生活していくのは。
最初は事務的だったゼルシアとも徐々に打ち解け、徐々に強くなりながら魔族を追い詰めていき、最後はめでたく魔王討伐。
その後の余暇はゆっくりゼルシアと二人で生活していこう、と思っていた。
ここまでは良かった。よくある話だ。
とある日。ふと、光に飲まれたと思ったら、目の前にオーディアが座っていた。ここは俺が最初に彼女と会った場所だ。
「何の御用ですか?」
と聞いてみると、彼女はとんでもないことを言い出した。
「今度はさらに別の世界で魔王になって世界を支配して欲しいのです」
「――――は?」
魔王討伐を為した勇者に今度は魔王をやれとか正気か、と思ったが、相手は女神。こちらに拒否権はほぼ無い。
だから、言われるがままに魔王になった。
ゼルシアは俺の魂に紐付けされているらしく、魔王となった俺とともに異世界に召喚された。だが、純白の翼を漆黒となり、まるで堕天使だな、とかそんな話をしたものだ。
さて、魔王となって世界を支配する過程はここでは省略する。
なにせ、そっちでもかなり苦労したからだ。
自分で言うのもなんだが、俺は自分の根は善人というかお人好しと言うか、あまり悪いことができない性質だ。
魔王となれば、人を殺すことになるだろう。まあ、最終的には相手が人間だろうと魔族だろうと、命は一緒だし、そこで区別するのは単なる意識の差だ、という感じになってしまい、仕事は果たした。つまりは世界征服。
その後は部下に後任し、今度こそはと、辺境でゼルシアと暮らそうかと思っていた。
しかし、オーディアはそれを許さなかった。
またまた呼び出された俺とゼルシアに言い渡されたのは、また勇者をして欲しいという要請。
本当に断りたかったのだが、彼我の力の差はまだまだ有り、言うことを聞いた。
だが、ここからが信じられない、というよりは昔よりも呻くような事実を突きつけられる転生だった。
再度勇者となった俺は最初の頃とは異なり、戦い方をはじめとして、様々な力をつけていた。
なにしろ、スキル:《進化する者》の進化変異スキル、《記憶する者》のおかげで、前回の勇者人生と魔王人生で得たものが全て備わっていたからだ。それは良かった。
だが、勇者となり、話を聞いていくうちにとある事実を知ることになる。
それは、『この世界の魔王は、魔王人生時代の俺の後任』ということ。つまり、過去にこの世界を支配した魔王こそ、俺だった。
あまりに残酷ではないか。オーディアは俺に、前回の仲間を、部下を相手にし、世界を救えと言っているのだ。魔王にして世界を支配させておきながら、だ。
この時から、俺はかなりオーディアに対して不信感を強めた。
故に。
俺はそのままでも魔王である元部下を討伐できる力を持ちながら、できるだけ魔王討伐を遅らせた。
目的は一つ。女神に対抗しうる力の育成。
それができるのは、おそらく、神剣アルノードだけでは無理だ。《進化する者》の更なる進化が必要だろう。
とは言え、この世界に俺より強い者はまず存在しない。魔王である元部下とて、例外ではない。傲慢ではなく、事実は事実として捉えねばならない。
だから、《進化する者》の進化の基礎だけを醸成し、俺は魔王を討伐した。
というのも、次にオーディアが言ってくる事を予想していたからだ。そして、その予想は大当たりだった。
「今度は、また魔王をしてほしいのです」
ここで俺は注文をつけた。二度も勇者を経験した身だ。生半可な勇者相手では役不足だと。
つまり、わざと強者がいる世界に転生した。
それを倒すことで、俺の《進化する者》はさらに進化する。
送られた世界は、様々な魔王が存在し、派閥を強める世界。勇者はそれを倒していくという世界だ。
そこで、俺はある行動に出た。魔王ながらにして、他の魔王を討伐、吸収していったのだ。強い勇者の育成のことも考えると根こそぎ刈り取る事はできないが、それでも勇者を待つだけとはだいぶ異なる。
俺自身、オーディアの力を知らなかったが、そこはゼルシアの知識が俺を助けた。そうして、魔王が俺一人となった時、勇者と相対した。多数の魔王を倒していった俺でも苦戦する相手だったが、その分倒したときの経験値は良い。
結果、俺は神と対峙する力を手に入れていた。
そうして、俺は、勇者→魔王→勇者→魔王と転生して、今またオーディアに呼び出されたのである。
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