第八話 色々まとめてみた。(1)
短編集的なアレです
結果的に言えば、週休二日制的なバイトのシフトの入れ方のほかロングに関しては減らしてもらった。
それでも若い故の活力と体力と時間を費やしていることもあって、レベルは地道にして、お金に関しては飛躍的に溜まっていった。
そして――
「ミユ様、これがお借りしたお金の返済分です」
「……うむ」
ミユは厳密に数えているように見えてざっと金貨の数を数えたのち――
「ミユローンをぜーんぶ払ってくれてありがとうございました!」
だなも、とか語尾に聞こえたのは幻聴である。
その後に「ちょっとお部屋狭くない、どうせなら増築しない?」とか聞かれそうなのも幻想である。
そう、俺はこの町で宿を借り・ご飯を食べ・装備を買うお金をミユから借りたままなのだった。
もっとも借りた一〇〇〇万Gすべてに手を付けたわけではなく、あくまで使うお金だけを借りさせてもらう気持ちだった。
そんな俺はバイトを始めたことでいくらか収入が入ることになった、現実のバイトと違って”冒険の合間にスーパーのレジ”などという感覚も珍しくないことから給料日の間隔は一週間に一度されていた。
ということから一時期はフルで働いていたこともあって、バイト代は着実に溜まっていき……ついに、ミユから借りた上で使った分を返せるまでになったのだった。
これで俺も妹のお金を借りているという、クズのような毎日からオサラバなのだ!
と気持ちも軽くなっていたところ――
「ただユウ兄……実は利子が、こんなに」
どん底に突き落とす、妹ミユの無慈悲な言葉であった。
異世界キャンデゥゼクシズ支店で一〇〇G均一で売っている電卓の数字を俺に見せて――
「私のとこの金貸し、実はトイチなんだよねえ」
「性質悪ぃ!」
トイチとは十日に一割の借りた分の利子が発生するという、天使のようだと思っていた妹は悪徳業者なのだった。
「ふふ、だからまだ借金生活は終わっていないんだよ……ユウ兄……!」
「ああああああああああああああーっ!」
なんてこと、なんてことだ!
馬車馬のように働いて……スキップも多用はしたけど。
自分の自由な時間を削って働いてきたのに……この町だとそんな娯楽もないし正直暇なだけだけど。
死ぬ思いで稼いだお金だけで飽き足らないと……まぁ実際死んだんだけど。
こんな……こんな妹……!
「これからもよろしくねっ」
ちょっとサド気味な妹のミユも……イイ。
なんだかイケナイことに目覚めそうで興奮してきた。
「ふふ、これでユウ兄は私から一生離れられないよ――私への借金という手枷・足枷によってね!」
「うわああああああああああああああ!」
実はミユがその冗談を半分本気で言っていることには気づかない俺なのだった。
ちなみにその後数日して利子分含めて完全に返済し終わり、なんだか不満そうなミユがいるのに疑問を抱いたり抱かなかったり。
そういえば、俺が貧弱な上に金欠だったこともあってバイトで経験値とお金を稼いだことで――やたら時間が経ってしまっていた。
既に異世界に来て一か月以上が経過しており、それでいて始まりの町から出ていないというあまりにもスロウスタートすぎる兄妹パーティであった。
「はい、じゃあ今週も更新でいいかい」
「はい、よろしくお願いします」
と、お値段据え置きで宿の一室を貸してくれる上に、俺を二度も蘇生してくれた聖者のような”おっふすていくおふ”の宿屋店主ミサさんであった。
……そういえば俺この人と二度も、緊急処置的とはいえキスしてるんだよな。
そう考えると目の前のだいぶ年上であろう彼女が魅力的に…………?
あれ? 気のせいか、ミサさん痩せてない?
なんというかダイナマイトォ! な感じからむっちり具合まで落とし込んでいるというか、ストライクゾーン寸前というか――
「あ、次死ぬ時は言ってくれよ」
もはや俺の死ってそういう扱いなのか……いやまあ二度も死んだ上に二度も蘇生しちゃ、気持ちは分かるしなんだか申し訳ないけども。
「すみません、当分死ぬ予定はないです」
「そうかい……?」
……なんで残念そうなんだろう、そして入念に唇にリップクリームを塗っているミサさんのそれはどういう意図なのか。
気のせいか肌ツヤも良い気がするし、全体的に細くなった割には胸はダイナマイト! な、ままなので……まぁなんというか……。
「実は私さ、子供が出来る前に夫を早くに失くしてね……」
…………あっ。
この親密になったタイミングで起こるこの、自分語りは――
「それは……お気の毒に」
「突然こんなこと言って悪いね……今でもまだ手遅れじゃない気がするんだよ」
「そ、そうですか」
何の話だろ~? ……と惚けていいものだろうか、元ギャルゲー主人公のせいなのかだいぶ察してしまったのだが。
「あんたが良ければいつでも待っているからね」
そうして手渡されたのは”管理人室”とサンライズ語で書かれた部屋の鍵らしいものだった。
「あ、あの」
「あっ悪いね! ちょっとお客さん来ちまったみたいでね! ああ、いらっしゃいませー――」
……確かに好感度はマックスなのを知ってはいるが、まさかこれは……。
いや、でも……元王国軍のS級僧侶のミサさんは、魔王を倒すには必要な人材かもしれない。
いや、でも……確かに、ちょっと行けそうだけど……うーん。
そういえば気になっていたことがあったのだ。
「そういえばミユ……その、例のMP回復って大丈夫か?」
「えっ」
ミユは最強魔術師であり、既にレベル300をおそらくは超えている。
しかし魔法・魔術を使う上でのMPに関しての回復方法がどうにも特殊であり――
どういうわけか俺がミユにエッチなことをすることでMPの回復速度がグンと上がるのだった。
かといってミユと毎晩そんな事を致しているわけではなく、むしろ最初の一度きりなのが気になっていた。
いや……別にやましいことは無いんだよ、マジックポイントが底を尽きかけることで体調不良を引き起こすらしいことからの、兄としての心配なのだ、うん!
だが俺が記憶している限りミユは俺が一度死んだ際にバーニングドラゴンを滅殺する為にMPを消費するであろう強力魔法を使ったに違いないのだ。
かといえばその日以降の例のMP回復儀式は行っていない、だからこそ体調的に問題ないか気になったのだ。
「……教えない」
……そんな言いにくいことなのだろうか?
俺が”そういうこと”をしていない以上、別にそんな不健全なことは無いはずなのだが……。
「あ……でも、ユウ兄寝相悪いから……なんか結果的には”そういうこと”されてるかも」
「ええっ!?」
なに俺、一緒のベッドで寝ているとはいえ寝相の悪さで妹にセクハラしてんの……?
「ハハハ、そんなまさか」
「……どこ行くの?」
「ちょっとお花を摘みに」
そうして宿の共有トイレまでやってきた。
ちなみにトイレには一家言あるらしいミサさんのこだわりで、誰かあ転生者特典で持ち出してきたウォシュレットに類似したもの異世界で量産したのがだいぶ普及したらしく、それを取り付けた上で常に清潔に保たれている。
さながら共有トイレと言うとあまりいい印象を抱かないかもしれないが、むしろ内装も客室よりもこだわった結果現実の小奇麗な一軒家のトイレ並の作りになっていた。
……しかしこの異世界、俺は関係ないけど痔持ちに優しい。
そんなトイレに籠って通称”ギャルゲースキル”を発動した。
そしてバッグログを開き、適当にスクロールさせて寝ている間の文章を表示させると――
[ユージローが寝息を立てるの背に、妹のミユの艶やかな息遣いが聞こえてくる。彼女はそれでも片手で口を押えているのだが、とめどなく息や声が漏れ出ているのが現状で、もう片方の手は]
「エロゲーかよ!」
……いや、マジでこれ俺が寝ている間にミユがやってんの。
うわー……なんというか妹のその――しているのを知るこの罪悪感が凄い――興奮する!
「って、そうじゃないそうじゃない。寝相寝相」
それからまた違う日の夜のバックログを見てみると――
[ユージロー:すうすう]
[ミユ:ユウ兄やめ……あっ、そこは! ああっ……いつもより激しい……よ……]
あかんやつや。
いや、その……想像以上にえっちだったので言及は避けようと思う。
まぁともかく、暇つぶしに見つけたCG鑑賞モードとやらでいつか一人の時に見ようと思う。
いや特に深い意味などなくてね、本当はやましい意味などなくてね、あくまで俺の寝相を再確認する為の――