第六話 考えてみた。
俺が死んだあと、怒り狂ったミユによってバーニングドラゴン滅殺されていることが騒ぎになっていたのを見に来たミサさんによって、ほぼ炭化していた俺が宿まで運ばれ蘇生魔術が行われたようだった。
身体の復元には成功したものの意識が戻らなかったために、マウストゥマウスによって魔力を送り込んだことで意識を取り戻したのだという。
ちなみに後遺症の類は一切無い代わり、装備を全失したほかレベルが1に戻っているあたり”死ぬことによる”デメリットもあるようだ。
結局俺が生き返ったあと自室で怒り・泣き止まないミユにひやすら謝り倒しあやしたところで、ミユは泣き疲れ眠ってしまったのだった。
……流石に例のMP回復はしなくていいの? なんて聞けない、流石にそこまで俺も人を踏み外してない。
ともかく……俺が強くなるにあたり、どうしたらいいかと考える。
今日町を出歩いた際に町周辺を記した地図を買ったのだが、突然の爆発で森が消えたことが巷で話題になっていたこともあり”爆裂”した森の場所がある程度特定できた。
その地図を売っていた露天商の店主にこの始まりの町”ゼクシズ”からその森まで幾らかかかるかと聞いてみると――
「……徒歩で一週間ねぇ」
異世界にまともな交通手段などなく、馬も車もそうそう手に入らないことを考えれば歩くことが移動手段でしかないわけで。
徒歩で休み休み歩いておおよそ一週間かかるとの地図を売っていた店主の見立てだった。
ちなみに俺とミユの異世界転生スタートポイントである森は、「突然、どこからともなく奇妙な格好をした人間が現れる」ことで以前から有名だっただけに、おおよそ他の異世界転生者のスタートも同じと考えてよさそうだ。
ということは――
「チュートリアルを飛ばしてしまった感じか」
ゲームをやっていると、プレイヤーに各種行動の仕方や今後の方向性などを伝える・教えるチュートリアルという過程が存在することが多い。
いわゆる練習期間とも言えるもので、その間にバトルゲームなら戦い方のイロハなどを教えてもらうものだ。
もしこの一週間の時間が本来ならばチュートリアルに要される時間と過程だったのなら……。
「そりゃ俺も死ぬわけだ」
俺の誇るべき妹は転生特典で最強魔術師だからいいとしても、世界を救わないといけない転生者の俺は装備もなければ戦闘に適した能力も持たない単なる人間にして一般人。
そんな俺のような人間でもチュートリアルをこなすことである程度は強くなる……というのが当たり前の流れだったのだろう。
初めての町から次の町へ行く道程に出て来る各種モンスターはチュートリアルを抜けてレベルが上がった状態で戦う前提と考えていいのかもしれない。
だからこそ始まりの町を出た直後でも即死してしまう、そんな貧弱なままだった俺はむしろイレギュラーなのだ。
いわゆる戦闘区域での推奨レベルと自分のレベルの乖離……そこが問題と言える。
蟻を倒した程度で上がったレベルだけに焼石に水程度かもしれないが、そんなレベル5も一種のペナルティによってレベル1に戻されてしまった。
だからどうにかして敵などを倒し経験値を得て、俺のレベルをミユほどは無理でもこの町にいる冒険者の平均レベルぐらいにはならなければならないだろう。
「どうすればいいものか」
開始地点の森まで戻ることを考える、が……ここから徒歩で戻る過程でも俺は死にかねない……ああ、情けない!
ということはミユのテレポーテーションを借りる必要があるわけで、それもなんだか申し訳ない。
でも現状はミユの力を借りるほかないようで……なんというか、本当に俺ってヤツは無力だぜ……。
「……そういえば」
あの女神さまでさえ感知していなかった、俺にまつわる色々謎な能力について気になってはいたのだ。
正直使う機会があるのか分からない音量調節に、一応役立ちはした言語選択。
使えるとしたら人のステータスを盗み見できることぐらいで……ほかにも何かないだろうか。
いわゆる視界端の歯車マークをタッチすると色々項目が出て来る。
そこには”テキストウィンドウの表示・非表示”なる項目があったので非表示から表示に切り替えると――
[ユージロー:突然透過した枠組みのようなが俺の目の前四分の一ほど覆うように現れた]
って、なんだこれ……俺の視界に突然自分の考えている物事が文字として具現化されていた、これはどういう意味なのか。
これがテキストウィンドウってやつなのか……更にはそのテキストウィンドウとやらの端にはこれまで通りのオプションのほか――
「セーブ……ロード?」
ゲームをやっていたから分かるが、いわゆるゲームをやってきたところまでの記録などを保持することの出来る機能が”セーブ”で。
記録を保持したところから再開できるのが”ロード”だった気がする。
試しに”セーブ”を押してみると、今度は視界全体に枠組みが広がり、十個以上の更なる小枠が出現した。
「確かこうすると……ああ、出来た」
小枠に触れると色が変わり、プレイ時間とやらと場所についてが記された……これでセーブが出来たらしい。
いわゆる俺が死んでミユをあやして俺が今後どうすればいいかを考え、この謎能力について試行錯誤――している時点の情報を記録したのだろう。
もしゲームの通りのセーブ&ロードならば、ここから時が進んで”やらかした”としてもセーブした地点からやり直せるということになるが……?
「いやいや、まさかな」
それって魔王の全盛期の時を操る力に近いやつじゃん、指定した時間まで遡行できるのはとんでもない能力だろう……流石に現実的じゃない気がする。
とりあえずその件に関しては保留として、そのほかテキストウィンドウ付近に何か本のマークのようなアイコンがあるので触れてみると――
「バックログ?」
バックログという項目が表示され、そこには――俺の考えていたこと全てを文字に起こしたものと、更に遡っていけばミユやミサさんとの会話も入っていた。
これは……俺のこれまでの行動と、俺と俺以外が話したことについて後から確認することの出来る機能ってことか。
そしてカメラのアイコンがあるので触れてみると”スクリーンショット”と名前が出た上で”カシャッ”という音と共にミユの可愛らしい寝顔の時間を切り取った、写真のようになる……これは永久保存と。
もっともこの世界にこの写真データを出力できる機械というのは転生者が持ち込んだものを除けば普及していなさそうであり、はっきり言って実用面では使い物にならないだろう。
そしてここまで考えて、なんとなくではあるが俺自体ギャルゲーの元主人公であってギャルゲーをやる機会こそなかったとはいえ……もしやこれらの機能はギャルゲーに関連したものなのではないかと妄想してみる。
音量が大きすぎるな、BGMは自前で流した方がいいな、などの”音量設定”。
もし異国のゲームをやろうとして言語が対応していなかったら、その対策の為の”言語設定”。
女の子を攻略するにおいて必要な情報を得る為の、”ステータス確認”。
女の子と付き合っていいところまで行ったものの、フラれてしまったりなどしてゲームオーバーになった時に途中から始められるように”セーブ&ロード”。
女の子との会話に何か伏線が仕込まれていたかもしれない、と再確認する為の”バックログ”。
女の子の可愛い瞬間をカメラを手に持つことなく脳内フォルダに保存する”スクリーンショット”。
更には流石の自分も疑問に思っていた、ステータス画面上を横目に出会って話した女性の好感度があまりに上がってしまう件に関して。
俺としては気になる女性の性格や望むものによって口調をコロコロと変えて、ミサさんやコナにはそれぞれの素ではない喋りで対している。
ちなみにミサさんの好感度はマックス状態で、コナに関しても最後にあった時点で好感度マックスだった。
この世界の女子が惚れやすいのかと言えば、そうでは無い気がする――まるで俺に影響を受けているような。
「それは考えすぎだな……」
自分で考えていて恥ずかしくなってきた
まさか俺がカッコよすぎて女の子が惚れやすくなってるとか……無いわー。
元ギャルゲー主人公とはいっても、俺は別に女の子に惚れられやすいなんてことはなく、努力と根気と経験で女子達と付き合ってきたのだ。
この世界において俺がモテやすいビジュアルかといえばそんな気はしないし、もし強引に納得するならばそれもまた――俺が持っている能力の一つなのかもしれない。
本当なら俺って能力やたら多いな、あんまり実用的なのが少ないけども……そこでバランスを取っているんだろうか。
そして一応用途が分かった機能のほかに”オート”と”スキップ”なるものが気になっていた。
「とりあえず”スキップ”とやら押してみるか――」
そうして俺はスキップに触れると――
いつの間にか夜が明け、朝がやってきていたた。
「……え?」
俺には眠った記憶の無い、そもそもこの能力について考え始めたタイミングもまだ朝までは遠かったはずだった。
それがどうして一瞬にして朝に……?