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第五話 死んでみた。



 事後、じゃなくて翌日。

 俺とミユは町を巡って、目星を付けていた店に向かう……つもりだったが、宿屋の店主のミサさんに「冒険者なら冒険者登録をしてきた方がいいよ」というアドバイスを受けて”冒険者センター”までやってきた。

 ここでは冒険者登録のほか、冒険者向けクエストの掲示などを見ることが出来る。


「それではこちらの石に触れてくださいね」


 冒険者登録窓口で、女性職員から指示された見た目には水晶に見えるその石に触れてみると――


「ふふ……いえ、なんでもないです」


 笑ったよね?


「レベル5と、適正役職は……なんでしょう」

「俺に聞かれましても」

「ま、まぁレベルを上げると適した役職が見つかるかもしれませんから!」

「はぁ」


 そうして俺はレベル5と役職:無しと書かれた冒険者カードを受け取った。

 なんだろうか、自分を無能だと思っていたつもりなのだが……実は秘めたる力があったりしないかなとか、思ってしまったのは確かで。

 現実は非情である、やっぱりこの町でミユと幸せに過ごすのが適している気がしてきた。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」


 少しションボリとする俺の後ろが騒がしくなっていた、その騒ぎの中心には――


「レ、レベル300に魔術師スキルはS級で総カンスト!? どういうことですか!?」


 窓口の女性職員が思わず声を荒げてミユに詰め寄っていた……レベルやっぱり高いんだなこの世界でも。


「こいつあすげえええええええええええええええええええええええええええ」

「とんだルーキーがいやがったぜえええええええええええええええええええ」

「今夜は祭りだあああああああああああああああああああああああああああ」


 と、大盛り上がり。

 中心のミユは照れているような困ったような表情をしている、これはいけない。


「ちょーっとすみませんね」

「あっ」


 そうしてミユをどうにか騒ぎの中心から連れ出すと――


「あのお嬢ちゃんには連れがいるのか!」

「きっと高レベルなんだろうなあ!」

「レベル500はあるぜきっと!」


 いや、ごめんなさい……その100分の1なんですよ。

 というか一部の冒険者は分かってて言ってるよね? 女子なら攻略すっぞオラ、男しかいないけど。

 しかし誇らしいなぁ、俺の妹がそんなに強いなんて……兄失格では、兄辞めた方がいいのでは。


「あ、あのね! 連れ出してくれてありがとユウ兄!」

「なあに、無能は兄はそれぐらいしか出来んさ」

「だ、大丈夫だよ! ……ユウ兄は私が護るから」


 ああああああああああ、嬉しいいいいいいいいいい!

 ミユがそう言ってくれるなんて、無能な俺を捨てないでくれるなんて!

 女神さまよりよっぽど女神だぜ!

 

 妹のヒモな上に守られる対象とか、考えちゃいけない……考えちゃいけない。





 それから冒険にあたっての装備を揃えに行く。

 二人ともラフな格好なままだったので、ミユが手に入れた各種アイテムなどを用いて武器や防具などを作ってもらっていた。


「あのおもちゃのステッキがこんなに立派に……」

「プラスチック製だから壊れちゃうとやだし」


 どういう技術なのか、あの量産品の見た目のおもちゃっぽい魔法のステッキが樹齢数千年の木を用いて、琥珀色の輝く水晶を付けたそれはもう立派な魔法のステッキが出来上がっていた。


「”バインド”」

「なんで今したし」


 武具屋で妹に突然縛られる俺、なんだか興奮してきた。


「ちゃんと前の機能残ってるみたい」

「そうみたいだな」


 更にミユはピンクのマントなどを羽織り、頭にもピンクの長帽子を付けた……かわいい。

 そして俺はというとミユから借りっぱなしの金で安物の探検と、小手や膝当てなどを買う。

 鎧を買おうと思っていたのだが貧弱すぎて鎧の重みで死にかねなかったのだ……無能な兄ちゃんですまない……。


「これでちょっと町の周り散策したい!」

「ああ、そうだな」


 装備を揃えれば使ってみたくなるというもの、すっかりピンク魔法使いになったミユと一緒に少しだけ街を出てみることにした。

 まぁ流石にはじまりの町、ちょっとやそっとのことで俺も死にはしないだろう――



* *



「……ただいま」

「……おかえりなさい?」


 それはスポットライトが当てられた黒い空間にいた、そこには女神さまオルリスの姿もある。


「これって死んじゃったわけだよな」

「そう、なりますね」


 目を見て言って。


「異世界転生して短い人生だった……次の行先は地獄ですか? 天国ですか?」

「いえ、生き返るので……」


 ……なんか俺、本当は始まりの町なんかに来ることの無い激レア遭遇率のバーニングドラゴンが街の前を通過した時に、ちょうどそのドラゴンがあくびをした際の僅かな炎で焼き尽くされて、俺は死んだはずなんだけど。

 運も無いけど死因がしょぼすぎだろ……。


「女神さまからミユに伝えてくれ……俺の骨は海に撒いてくれって」

「あの世界で海ってとてつもなく遠いんですけど。いえ、ですから生き返るので」

「俺が生き返る……?」


 消し炭にされた俺が……?


「どんな顔で生き返れって言うんだよ!」

「知りませんよ! 大体あなたが死んだせいで怒り狂いながら泣き叫んだミユ様がドラゴンを滅殺した上に、近くに大穴を開けて大変だったんですから!」

「ミユ……俺の為にそんな!」


 ああ、なんて優しい心を持った妹なんだ! もう俺の敵討ちをしてくれた時点で死んだままでもいい気がする!


「ともかく、もう少しであなたは生き返りますから。はぁ、でもこんなところにもう来ないでくださいね……始末書が大変なんですから」


 女神さま業界にも事情はあるらしい。


「ちなみに俺って何度まで死ねるの?」

「何度でも死ねますし生き返れますけど! 一応はS級僧侶が近くにいなければ教会まで遺体を持っていかないと死んだままですからね!?」

「……なるほど女神さまはこう言いたいわけだな――俺もS級僧侶を仲間にして死にながら戦えと」

「自分が死ぬ前提での戦いはやめてください! その……もうちょっと、強くなってください」


 ハハハ、無茶を言う。


「確かにあなた様に特別な力はないかもしれませんが、私は自分の目を信じたいのです。だからがんばってください、どうか世界を救ってください」

「……前向きに検討します」

「はい……――」



 * *



 そうして生き返ると、目の前にはダイナマイトボディがあった。

 そして塞がれている俺の唇と、触れ合っている肉厚な唇――俺に覆いかぶさるようにミサさんが居た。


「んんんー!?」

「ぷふぁっ! 生き返ったかい!? 良かった! 消し炭から形を戻せたけど意識が戻らなかったから、こうして魔力を直接流し込んだのよ! 何か痛いところはないね?」

「あの……今、キスを?」

「人工呼吸みたいなものだよ、緊急事態だからおばさんだけど我慢してくれな?」

「いえ……ミサさんがキスしてくれたのが嬉しくて」

「きゅん」

「ちょっとユウ兄!」


 そうしてミユに引っ張り出された俺は――


「勝手に死ぬなバカ兄!」


 とめどなく涙を流すミユに抱きしめられた。


「ごめん」

「ばかばか! ゆるさない!」

「ごめん……」

「もう、だめかと思った……」


 とにかくミユに平謝りするしかなかった。

 ちなみに女神さまが言っていたことを思い出すが、ミサさんは元王国軍のS級僧侶だったというのだ。

 だからこそ生き返ると女神さまは自信を持って言っていたのだろう。


「もう、許さないんだからあああああああああああああああ」


 なんにせよ、こうミユを泣かせたくはない。

 ……これはやっぱり俺も自分の身は自分で守れる程度に強くならなければいけないようだ。



* *



 それは冒険者センター終業後。

 窓口の女性職員が帰路に就くべくロッカールームで着替えをしている時のこと。


「そういえばさっきのレベル300の妹のヒモお兄ちゃん」

「が、どうしたの?」

「良く分からないから言わなかったんだけど。なんか特殊アビリティに”ギャルゲーマスター”ってあったんだよね」

「なんだろそれ、良く分かんないね」

「冒険者カードに印刷できる文言じゃないから、多分この水晶のミスなんだろうね」

「だねー、この水晶も古いし替え時かもね――」

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