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第四十七話 女神です。(3)<ほぼオルリス視点>/後語<アイシア視点>


 ええと、女神のオルリス=クランナです。


 ”天界警察”による長い取り調べを終え、一週間ほどの近親を経て私は職場に復帰しました。

 いわゆる不祥事がこの第三神庁で行われていたことが発覚したのです。


「……オルリスくん、災難だったね」

「……はい」

「あまり気を落とすことはないと思うんだ。今回の件に関して君が無実なことは証明されているんだから」


 私を気にかけてくれたのは同期にして同僚、かなりの美人な上にボーイッシュで両性からも人気の高いエミリさんでした。

 私が取り調べを受け、残されていた証拠や告発・自供などによって不祥事を起こした人物は特定され、私が関わっていないことが証明されたのです。


「まさかアイシアくん先輩がね……」


 本来は地上世界に貢献・世界を維持すべく死者の中から適当な転生者を選定し、適切な場所に”勇者”として送り出すのが”第三神庁 下界部 転生課 勇者派遣係”の女神の仕事でした

 しかし女神権限の悪用によって転生者を人間である勇者ではなく、その世界における人類と敵対している魔王軍の魔族に転生させていたというのです。

 一方で通常の勇者転生業務も行っていたということで、人類と魔族を戦わせるような対立を煽るような自作自演、もといマッチポンプのような行為がこれまでまかり通っていたというのでした。

 その悪しき慣習は代々引き継がれ、希望者仕事を引き継ぐ形で前担当者は全く別の軽い不祥事などをでっちあげて退職していったとのことです。

、その水面下で行われてきた”魔族転生”を現時点で最後に行ったのがアイシア先輩であり――


「それでも私は気づくことが出来ませんでした……止めることができませんでした」


 人間が魔王軍を打ち倒そうとしていた#$%世界、それはアイシア先輩の送りだした転生者によって――



「私は……世界が滅ぶのを止められませんでした」



 魔王の攻撃によって地上のすべてものがチリ一つ残すことなく消滅し、その破壊規模は周囲の恒星や惑星をも破壊するほどでした。

 生活圏であった惑星は粉々に破壊されて宇宙空間の漂流物となったほか、恒星の破壊によって人類が住める環境さえ失いました。

 転生した勇者の蘇生も不可能なまでの世界の完全消滅であり、皮肉にも”魔族転生”の事実は一つの世界を滅ぼされたことで明るみになったのです。


「……アイシアくん先輩が新魔王候補を送り出した時点でどうしようもなかったんじゃないかな」

「その……ありがとうございます」

 

 エミリさんが励ましてくれるのは嬉しかったですが、それでも自分の担当世界が自分が消滅した事実は割り切れませんでした。

 世界が滅んだ原因は、アイシア先輩が送り出した転生魔族の一人が膨大な魔力を用いた破壊魔法を行ったことによるものだという。

 転生者には特典だったり、各種能力を底上げして送り出すことが多いそうですが、今回の場合はイレギュラーだったと本人は語っていたようで――


「あまり気負いすぎないでね」

「はい……」


 そう言って去っていくエミリさん、いい人だ……。


「…………」

 

 取り調べが行われた結果私が関わっていないことの証明がされた一方で、今回の事件の真相についても触れることが出来ました。


 実は魔族転生と勇者転生はセットだったということ。

 普通そこそこの規模の世界ならば、強力な転生者を一人送り込むぐらいで障害である人類に敵に位置する魔族などを滅ぼすことが可能だとのこと。

 しかし世界が平和維持されることなく勇者を送り出し続けた原因は――簡単に魔族などが倒されないようにする為でした。

 人類間の戦争などにはあまりタッチしない天界は、あくまで異種族や異星人や異世界人などの人類と敵対関係になった場合のみ転生者などの力を借りて干渉するというもの。

 人類の敵存在が消えた時点で、天界は下界において干渉出来なくなるのです。

 それは転生者を用いた形で行っていた”異文化侵略”が止められてしまうことと同義でした。


 ここで出てくるのが”天下り”という存在、罪を犯した天界人が罰を受けて地上に落とされるというもの。

 逆を言えば”天下り”をしないと地上に住むことはできなかったのです。

 天界とは異なる地上の異文化体系、天界において生活に不自由はなくともどこか保守的な社会ゆえに一部の天界人は憧れたと言います。

 文化の進んだ地上に天下りできる分にはいいですが、それもまた露骨にならないように人数の面で限界がありました。

 そこで転生者が特典と称して要求してくるであろうものをリストアップし、その地上世界において天界人が求める地上の文化・アイテムなどを優先して転生者を選び、勇者として送り出したのです。

 こうして時間をかけ天界のルールの隙をついた”異文化侵略”を各世界で行っていくこととなります。

 転生者が持つ特典を地上世界に展開することで、あとあと”天下り”予定の天界人が住みやすい環境を作っていったのです。

 そして天界人が干渉不可能にならないように転生魔族もほどほどに送り込み、これまでは大きく下界のパワーバランスを崩さないような範囲での転生魔族を事実上黙認されてきたと言います。


 私が担当していた#$%世界においても”天下り”の環境が整えられていきました。 

 すでに少なくない天界人が地上に降りたとのことでしたが、それもまたアイシア先輩の送り出した転生魔族一人の手によって世界ごと消え去ってしまったとのことです。

 今回の不祥事は「一つの世界の消滅」「コストをかけた転生者の喪失」というものが天界においてとにかく重大でした。

 もっともこれまでの世界が滅ぶことは何度もあったことで、いわゆる転生者を送りだしても手遅れだったケースや、人類間の戦争により滅んでしまったケースなどもあったと言います。

 ただ今回の場合はこれまで良くも悪くもパワーバランスがある程度一定だった世界を、天界人の関与によって一人の転生者が一瞬で滅ぼしたことが問題でした。

 今のところは地上から天界へのルートは原則存在していませんが、もし地上人が天界人に牙を剝き脅威となる――そんなことはあってはならないのです。

 力を与え過ぎたことを恐れた天界人及び神庁上層部は、これにより転生特典の見直しや能力値の調整などが厳しくなるようです。


 そして今回の不祥事の中心にいたアイシア先輩はというと――



== ==



 私、アイシアは地上に落とされた。

 もっとも地上とは言えない、宇宙の漂流物の中の一つに送られたようなものだけど。


「あーあ、やらかしちゃった」


 上手いことやってたつもりだったのになあ。

 これまでもごく自然に世界を滅ぼしたことはあった、スリルがあって本当に楽しかった。

 でも今回私は失敗した。

 魔族への転生者として送り出した”彼女”があそこまで魔力を秘め、そして強力な魔法を扱えることを予想できなかった。

 

 嘘だけどね。


 本当のところはかなりポテンシャルがあることが分かって送り出して、ちょっとどうなるか見てみたかった。

 前任者には色々それっぽいことを言ったけど、私にとって天下りに魅力なんてものはなくて、その過程で一人駆け引きをするのが楽しかったのだ。

 

「はー、つまんない」


 さっきまであんなに楽しかったのに。

 私から芋づる式にこれまでの”歴代天下り”が明るみになるところまでは最高だった、でもここからは何もない。

 この世界には何もない。


「イカサマしすぎて、ズルしすぎてゲームから降ろされるってこんな気分なんだなー」


 それにしても――


「暇だなあ」


 天界人は長生きで、そして病気もしなければ、そもそも空腹になることもない、呼吸だって実は必要ない。

 ものを食べたり、生理現象があるのは自分で望んで”模倣”しているだけのこと。

 そういう意味では普通に死ねて、お腹が空いたら美味しいものを食べれるような地上人に憧れる気持ちも理解はできる。

 

「これからどうしよう」


 私は今、元・天界人だ。

 正確には天下りによって天界人における権利ははく奪され、ちょっと身体能力が良い不老不死の無能だけが残る。

 こんな滅んだ世界でも生きれてしまうのだから、死ぬ手段はなく、この世界に一人生き続けなければならない。

 暇なので私は破壊された惑星の破片を飛び移りながら、世界を見て回る。

 空を見上げれば粉々になった恒星や惑星だったもの、足元を見下ろせば地上だったものが散らばっていた。


「……ん?」


 そんな地上の破片の一辺に、なんと人が座り込んでいるのを見つけた。

 それも――私の知る人物だ。


「やぁ」

 

 滅んだ世界にただ一人、世界を滅ぼした魔王の娘にして新魔王となった彼女―― 



「新魔王の篠文由紀さん」

 


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