第四十五話 理解してみた。
案の定というか、ある意味想定通りというか。
「…………」
スポットライトが一つ、二つ。
一つが木の椅子の座る俺と、もう一つは――
「お久しぶりですね」
もう一つのスポットライトは金髪碧眼に白いワンピースをベースに天使の羽根をデザインしたような装いの俺と同い年か年下ほどの女性を照らしていた。
暗い世界に純白の容姿は眩しささえ感じる、彼女の肌もまた装いに負けないほど、それでいて健康的な程度の肌の白さをしていた。
かつて思い浮かべた女神様、その実際の女神様はそのものズバリなイメージ通りで目の前に現れたと言っても過言じゃなかった。
そんな俺のいる世界担当らしい女神オルリス様が目の前には立っている。
今更ながら彼女の美しさ可愛らしさには目を見張るものがあり、正直俺が出会った女性のみんながみんな女神様級に美しく・可愛くなかったら、耐性のない俺ならば即恋に落ちてもおかしくないほどだった。
とかぶっちゃけてしまったが、あくまで俺はミユ一筋であって――そう! 俺と釣り合わないレベルの美少女に恵まれただけだから!
何を言っても嫌みにしか聞こえないのでここまでにしておこう……うん、ともかく俺の妹は女神様級かそれ以上に可愛い事実を再確認した、バリ負けてない。
「む、今不本意な比較をされた気がします」
「そんなことないデスヨ」
俺のどうでもいい女性評はおいておくとして、確かに彼女の言う通りここに来るのは久々な気分だった。
自慢ではないが複数の死亡・蘇生経験を自分は経ているのだ。
「えー、記録通りだと過労死以来ですね」
「あー」
女神様も知らない可能性のあるギャルゲー機能の一つ”スキップ”を用いた結果過労死してしまった思い出。
あの日からスキップには有用性を見いだせず、危険な気もして使っていない。
死ぬことが怖いかと聞かれれば怖い。
実際死ぬ瞬間はとても痛いことが殆どなのだ……過労死した時は、いつの間にか死んでいたのが余計に怖かったのだが
今回だって――
俺の考えとして今回の戦闘において、蘇生確率が低いと考えていいミサを徹底守護することが”裏”の作戦となっていた。
このことを知らせたのはマイとミユのみで、他の”俺がやり直した”ことを知らないメンバーには知らせたところで根拠を示すことも難しく、省いた形だ。
メンバー全体へのありったけの簡易結界と、ちょびっと高めな回復術式が溶け込んでいるという回復ドリンク、防御魔法の重ね掛けもミサとマイにはしてもらった。
そして迎えたモンスターが襲撃するであろう時間――
空気が淀み、魔力が乱れ、何もない虚空に魔法陣が展開されると、そこから途方もない数のモンスターが姿を現した。
ホニさんの「出来る限り町を守りたいです」という意見も聞いて努力はするが、自分の命を第一にが前提である。
やはり不意打ちと、それなりの準備をして向かい打つのとでは戦闘効率がまるで違った。
どうにか全員がかすり傷程度で済んでいる、不思議と後衛の僧侶職のミサや力を発現出来ていない友人を守りつつも回復を続けてもらう恰好となる。
前衛はソードに変化したスラスラを扱う俺と、自然などを扱って空気をかき乱し・植物などでの妨害を行うホニさん。
中衛に極大魔法から連続魔法を行うミユ、補佐的な魔法とともに呪術を用いて敵を確実に仕留めるマイ。
最近の戦闘におけるパーティ構成で、今回もそれが有用だった。
正確な時間は覚えていないが、一定時間が経つとモンスターは一斉に動きを止めて息絶える。
それをマイやミユ以外に知らせてはいなかったが、どうにか耐久し続けることが出来ていた。
そしてモンスターが息絶える瞬間がやってきて周囲は困惑する、が俺は理由を知っているだけに内心ほっとしていた。
しかしそれが命取りとなり、前回の襲撃時には存在しない死亡時に体内に秘めた火炎弾を放出する”ファイボ”の火炎弾が俺たち方向へやってきた。
炎系魔法や炎に弱いスラスラへの直撃を避けなければとソードとなったスラスラを手放した途端運悪く直撃を受け、幹部クラスまで強力となった攻撃で俺は炎に焼かれて即死した――はずである。
「ユウ兄っ!」
……相変わらず死ぬ前に見る人の顔というか、その驚きようというか、実際に俺が死んでからの彼女らの反応を想像すると申し訳なくなってしまうのだが。
別に惜しまなくても悲しまなくてもいいが、出来ればミユには人の死に慣れてほしくないなぁとは思う……率先して死ににいった俺が言うのも難だが。
そして裏の作戦があるならば、そのまた裏の”裏の裏”な作戦。
それはこれまで蘇生歴があり、限りなく生き返る確率が高いであろう者が優先して”死ぬ”こと。
装備となって共に戦っていたスラスラを手放したのもそうだ。
スラスラは前回のやり直し前の戦いにおいて、通常回復魔法で回復できるほどの損傷で済んでいたからこそなんとかなかった。
ただそれが致命傷レベルだったり、跡形もないレベルだとスラスラは回復出来ないかもしれない、そもそも蘇生対象になるか分からない。
そういう意味ではスラスラもミサもほぼ同レベルの優先順位だとぶっちゃけておく。
手厚く守った能力発現無しの友人もまた優先順位は高め、しかし本人曰く「アタシは勇者ぞ」と自称しているのを少しは信じた。
あとは俺以外、俺以外の蘇生だとマイ以外経験がないと思われるが勇者特典というものを信じておくしかない、盾になる俺は一人しかいないわけで。
そういう意味ではうまくいったはずだ。
あとは俺のことを蘇生してくれれば、みんなに怒られつつも最善の結果を得られるであろうと思う。
……もっとも。やりなおし前と違ってモンスター群の二波目が来て俺の蘇生どころじゃないことになっていなければだが。
この天国と地獄でも無さそうな空間で、俺と女神オルリスとは二人きりになっている。
正直俺はやり直し前に、女神・神様方面への感情含めてミサを蘇生できなかった神官にぶつけているため。
「あのさ女神様」
「なんでしょう」
「もしかして死んでから蘇生出来るのって勇者だけなのか?」
この言い方は大雑把すぎるし、間違いがあることは分かっている。
それでも女神サイドにおける”蘇生のシステム”を探るにはこれぐらいでいいだろう。
「それは……か、神を信じる心があれば」
……思ったよりもイラっとくる答えが来たもんだ。
俺たちの中で唯一の僧侶にして信心深かったミサを生き返らせなかったクセに。
「…………」
そこでの俺の睨みに観念したのか、女神オルリスは少しずつネタをぶっちゃけはじめた。
「勇者様において蘇生出来るのは確実としています、それは間違いありません」
やっぱりな、と思う一方で女神サイドの言質を取れたのは今後の戦闘において大きい。
誰も死にたがらないし、原則死なないはずなので、基本的には実証不可能なはずだ。
同行者のチートでズルした結果、育ちきらなかった俺が弱すぎて死に至るなんてデバッグプレイのような真似さえしなければならない。
あとは単純興味や、発想がぶっ飛んでいる、この世界における”生”を第一としないマイが自殺で試さなければならないことではあると思う。
「もちろん現在の住人の方も蘇生は可能ですが……枠というのがありますので」
「人の生き死にに倍率みたいのがあるってことか」
「残念ですが……コストパーフォマンスを考えると勇者様最優先にしなければなりません」
……コストパフォーマンス、ねえ。
「それが魔王軍討伐に何の役も立ってなかったりした勇者様でもか?」
「……転生においてかなりのコストがかかっていますから、今後の活躍を信じるのみです」
……それは何か、こちとら女神様方が投資した手前なくなく死なせられないと。
まるで赤字で不良債権化が進んでいるのに潰せば全損になるから、今では偉くなってるかもしれないこれまでの担当者の面子が潰れるからとかいうそんな理由で生かされる事業のような。
これでよくわかったが、女神様が行うのは人を使った公共事業のようなものなのだろう。
だから優先順位はあるし、基準も決まっている、そして予算も決まっているのだろう。
……信心深い人間も会社で言うところの株主どころか会社のファン程度でしかないのかもしれない。
ここまで考えて、深く理解する。
女神様というか神様らに期待するのは間違いだと思うことにする。
正直やり直し前の前世界の神官には悪いが、あの時手をあげかけた時に怒り終えておいて良かった。
今この女神様を相手に胸倉掴むものならどんなペナルティがあったかもわからない、やり直しているのもあってある程度俺が冷静なのも大きいと思う。
――ただ不信感は強まった、そしてここまで話しても”俺のやり直しに気づいていない”とは思える。
そうなると俺のこの能力は一体何由来なのだろうと考える、神様サイドによる能力付与の外側にして感知されないカラクリ、それを何のために俺に与えたのかも気になるところだ。
今までなら神様サイドなどに不信感があろうが些細な事でしかなかったが、そのせいでミユが死んでしまうならば話は別だ――いや、正確にはミユだけでなく俺にとって大事な人たちがそんな目に合うならば。
ある程度は俺にも考える必要性が出てくる、今後もセーブ&ロードを多用しなければならないかもしれないな……。
「蘇生準備が出来たようですね。いくら生き返るといっても命は大事にしてくださいね」
「わかってますよ」
「それでは――女神オルリスは勇者上総ユージロー様の活躍をお祈りしています」
……俺になんか祈らなくていいから、本当に祈ってる人に手を差し伸べろよ。
という言葉は内に秘めて、俺は何度目かの蘇生を果たすのだった――




