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第四十四話 触れ合ってみた。 


 ということでマイとの作戦会議を終えて、俺はミユの元へと向かった。

 寝静まった深夜、それも寝床に一人の男が一人の女子を訪ねるというのは一般的には夜這いである。

 ただ言い訳としてその男女というものも兄妹であり、実の兄と実の妹であり、れっきとした血のつながった家族に相違ない。

 ……もっともその兄妹がこれから及ぶことは家族の範疇から外れる可能性が高いのであって、言い訳は機能しなくどころか犯罪性を加速させるのだが。


 ココ、ファンタジー世界! 法律ナシ! 多分問題ナシ!


 ……どうなんだろうか、そういえばミサとかにそういう論理感とか聞いたことなかったな。

 ややこしいことになるかもしれないが、その問題は棚上げとしておこう!

 などと考えている間にミユの寝床にたどり着いた。


「ミユー、起きてるか?」

「っっっ! お、起きてるよ!」


 何故かバサバサとタオルケットの布が擦れる音がする。

 そしてふと見えたミユの紅潮した表情――


「……お取込み中失礼しました」

「ま、まって!」


 宿屋を借りてた頃は知っていたが……知ってしまったが、まさか野営地点でもしていた(・・・・)なんて。

 気持ちは痛いほどわかるとも、実際俺もリアルな頃女子だらけの家でそういう(・・・・)プライベートなんて許されなかったから、いつしか仮死状態になっていたようなものよ。

 ……便利機能待機モードにしてたら魔力探知、消音魔法とか人払いの魔法とか使ってたりするのが分かるんだろうか。

 と勝手に妹の内情を察していると、タオルケットで半分顔を隠しつつも恨めしい表情で俺をにらみながら――


「そこにすわって」

「ハイ」


 お説教、でしょうな。

 まぁデリカシーというのが足りなかった節はある、俺が悪い。


「せきにんとって」

「え」


 ようは中途半端に昂った状態での寸止めを食らってしまったがゆえの、一応は相手素材の来訪だったのだろう。

 順序こそ逆だが行為に違いはない、ここは大人しくミユのしたいがままを優先しておきたい。


「はい」

「ああ」


 ミユがベッドに座ったまま受け入れ態勢、そして俺を抱き寄せる。

 ミユの小さな手が俺の背中に回されて、そしてぴたりと俺とミユの真正面の身体が触れ合った。


「……もう、空気読んで」

「すまん」


 俺もミユの背中に腕を回す、やっぱり腕の中でも彼女は今でも小さく感じる。


「ごめん、うそ」

「え」

「ほんとは、来てほしかった」


 夢うつつなのか、その行為自体も夢に見ていた延長線上での寝起きなのか、どこかミユとしては珍しい露骨にデレデレとした状態で甘えてくる。


「最近はずっと一人でするしかなかったから」

「あ……」


 そう、だった。

 パーティが増えたからと、ミユとの通称”MPチャージ”はご無沙汰となっていた。

 確かに俺も考えが足りていなかったのだ、最近はそれほど大きな戦闘もなく大容量・高速チャージが必要な場面もなかった為。

 疎かになっていた、この俺がミユのことを疎かにしていたのである。

 その間ミユが仕方なく、自分を慰めることで魔力を得ていたことに気づくことも無く。


 最初にミユと転生してきて思ったこと、ミユと二人幸せに暮らせたらいい。

 それがだんだんかつての世界のヒロインが増えるにつれて、それどころじゃなくなって、この世界のことも多少は考えるようになって。

 俺の中で勝手に優先順位を下げてしまっていたのだ。

 

 力のない、たぶん頭だってそんなない、特別なことなんてない。

 そんな俺はこの世界で生きるのにいつしか精一杯になっていたのだと思う、むしろそれが俺の限界値だったか。

 限界値を知っていたからこそ、俺は一つの可能性からは逃げ続けた。

 一人を幸せに出来るかでも精一杯の俺が、それすら出来ない俺には荷が重いと心の中で思ってしまった前世。


 ……俺は卑怯にもハードルを下げ続けている、これくらいでいいやと線を引いて諦め続けている。

 そしてついに俺が一番大事だと語っていたミユのことでさえも諦めかけていた節があった。

 それはダメだ、これはよくない……このままじゃいけない!

 

 大切だと一番だと豪語するミユでさえも放置してしまう俺が、全員生き残らせるなんて無理な話だったのだ。

 だから俺は――


「寂しい思いさせたな」

「あっ……」


 彼女の背中に回していた右の利き腕を、彼女の頭の上へと載せて抱きしめながら撫でるような仕草。

 

「ユウ兄ぃ!」


 それから俺とミユの間がぼんやりと光る、MPがどういう仕組みかわからないにしても発生してミユに注ぎ込まれている状態。

 抱きしめ合って、手を繋いで、後ろから抱きしめるようにして、そして――


「さわって……?」

「……!」


 ミユの肌に触れて、彼女のどこを触っても柔らかい部分を手で感じる。

 その間の俺の理性もなかなかになかなかなのだが、それだけにMPチャージはものすごい勢いで進行していく。

 

「――――」


 時にして半時間ほどの触れ合いで、ミユは俺から手を離す。


「もう、いいのか」

「ここまでにしとく」


 気づけばレベルも三百後半になったミユはどれほど魔力をため込めるのだろうか、本人の気持ち次第で際限なかったりするのだろうか。

 どこか肌ツヤが良くなった様子のミユは「ふー」と一息つくと。


「ねえ、ユウ兄」

「うん?」

「夜這いしにきたのも、何か理由あるんだよね」


 訪れたタイミングが事の最中で、それからのミユとの久しぶりの兄弟水いらず、からのMPチャージだったわけだが。

 冷静になりつつあり、そして賢いミユはある程度察していたのかもしれない。


「……ああ、ミユに頼みたいことがあった」

「何をすればいいの?」


 そしてミユに……話すかどうか考える。

 今の俺がやり直してきた世界の俺だと告げたらどういった反応をするだろうか。

 正直内容はショッキングなことなので、伝えたことでミユを動揺させてしまうかもしれない。


 ……いや、そうじゃないな。

 ミユは妹であっても、もう精神的には大人の女性に近しいかそれなのだ。

 彼女をみくびってはいけないし、そこの配慮をするのは彼女に対して誠意的じゃない。


「ミユ、実はな――」


 それから話すのは俺がやり直したことだけじゃなく、俺のギャルゲー機能についても白状しておく。

 そもそもやり直せる理由がそれなのだから時系列的にはいう他なかったのだった。

 ……さすがに過去ログやスクリーンショットという、今のところリアルに影響しないというか、悪影響しかない事柄は伏せておくが。


「そう……だったんだ」


 ミユからすれば不思議な俺の行動と理由、そしてミサが亡くなるということにショックを受けていた様子だった。


「でもマイに先に言ってたのは面白くないかも」

「まことにもうしわけありません」


 前世でも知的で頼りになったマイがすっかり年上のお姉さんになっているのだ、頼っちゃうよそりゃと内心で言い訳をしたい。

 が、ミユを二の次にしてカヤの外にしかけたことには違いないので反省する。


「……とにかくユウ兄が私を夜這いした理由もわかったし、私がしなきゃいけないこともわかった」

「出来そうか……?」

「うーん、パーティ全員分の瞬間移動となるとMPが不安だから……ソウダ! ユウ兄ガ手ヲ繋イデMPチャージシナガラナラ出来ルカモ!」

「アッ、ハイ」


 半分保険・半分私的といった具合なんだろうか……お兄ちゃんとしては一向に構いませんがね!


「それで出来ればこの深夜中にでも次の町に移動しておきたい」

「うん、わかった。すっかり目が覚めちゃったし丁度いいかも」


 ……色々あって二度寝出来る気がしないし、MPマンタンだしとぼそっと付け足していたのが聞こえてしまった。

 そりゃそうで、すまない。


「じゃあ総員起こして、ちゃっちゃと移動しよ!」

「ああ!」


 そして深夜、俺とマイ考案ミユ頼りの移動作戦が始まった――



 

 たぶんは深夜の三時ごろ。

 全員起床のち旅支度もさせた上で野営をしていた仮拠点を解体し、全員集合。

 さすがにマイやミユ以外にも俺のギャルゲー機能を話すのはちょっと……というのと、それを説明する理由として「過去を遡ってきた」というのが現地人のミサやほかのメンバーもピンと来ないんじゃないか、というよりも説明に時間がかかりそうなので――


『占いの結果、今日昼に攻撃性の強いモンスターから強襲を受けること未来を見通しました』

『場所問わずモンスターが凶暴化・もとい出現し人間を狙って襲うとのことです』

『そこで私が次の町である”アクトス”に早入りして万全の態勢のもと迎え撃つ提案をしました』

『そのためにこの時間に起床はしますが、ミユ様の持つ魔法”テレポーテーション”を用いた瞬間移動によって移動時間を短縮するので、襲撃予定時刻までは休めます』

『何か質問はありますでしょうか』


 マイに一芝居というか、フェイクを交えての事実を話してもらった。

 もっともらしくマイが占ったということ以外はすべて真実になる、俺が未来を見てきたと言うよりも信じやすいだろうとの判断だ。


『占いの結果って言われたら信じるよ』とミユ。

『マイちゃんがそういうならありえるんだろうねえ』とミサ。

『プルプル』と頷いているらしいスラスラ。

『我も賛成です』とやっぱり今も他人行儀な雰囲気を纏わせたホニさん。

『アタシもそう思うぜえ!』と友人。


 俺ももちろん同意しているのであっさりと承諾。

 そしてすぐさま俺とミユは手をつなぐ。


「……離さない、でね」

「……ああ」


 俺から微弱に何かが身体を通り腕を抜けミユと繋がる手に流れていっていくのが分かる。

 ものすごい吸収されている気はしない、もともと魔法適正がなく普通の人間程度の魔力しか持たない自分だから焼け石に水程度なんじゃないかと思ったが――


「これがいいの」


 MPチャージもそうだが、ミユの中における俺からの何らかのエネルギー供与によるエネルギー変換効率は凄まじいものらしく。

 ミユに許可を取って計測しているMPゲージはMPチャージがそれ以上の速さでチャージと<レベルアップ>もしており、その度にMP限界値があがっていく。

 魔力だけでなく経験値にも変換できるとかすごいな……その力。


 最終的に全員を一斉に移動できる魔力値を確保できたということで――


「ふぅ……ごちそうさま」

「お、おそまつさま」


 たまりにたまった魔力はミユからあふれんばかりで、深夜の今では光が漏れ出てミユ自体が発光体になっている……マブシイ、


「じゃあ行くよ! ”テレポーテーション”」


 俺と手をつないだまま、そしてここにいる数人と一匹が一斉に姿を消した。


 テレポーテーション、瞬間移動。

 思えば二度目の経験だが、ふと瞬きの間に別の場所に移動しているというのだから恐ろしい。

 魔法の練度が高いのか、酔ってしまうこともなくあっという間に違う景色の、早朝前のどこかの静まりかえった町の中に移動してきたようだった。


 たどり着いたのは深夜の”アクトス”、転生者効果で二十四時間営業となった店で薬・食品・生活用品などを揃える。

 この時間空いている宿屋はが無くはなかったが、すぐ戦闘態勢に入れるようにするには不向きだと考えた。

 そこで信仰者向けに、場所を貸し出しているというその町の教会を訪れる。

 ここが俺の見た天井や外壁も崩れ、血なまぐさい異臭と呻き声・泣き声の支配する教会とは思えないが……数時間後にはああなってしまうのだろうと、各部のデザインの一致を見ては確信する。

 白黒なシスター衣装に身を包んだミサがいることで深夜の教会に押し掛けても何も言われない「深夜料はかかるけどね」とミサは深夜故の割り増しお布施料に苦笑していたが。


 ……思えばこの世界における神の信仰者として、少なくとも転生者の俺たちよりも信念深くしてきたミサの生き返りが許されなかったのは今思っても納得のいかないものだ。

 もし次に神様に会うことがあれば物申してもいいかもしれない、いや物申そう。


 ともあれ教会でメンバー全員の”神の御加護”を一応してもらった上で、備え付けベンチで俺たちは朝を迎えることになった。

 ……次は誰も死なせない、生き返れるとしても死なせない。

 たとえ死んだとしても俺ぐらいでいい――

=ミニエピソード 01=


 さすがに鍛冶屋は開いていなかったが、その店前に転生者が設置したと思われる”武具自販機”なるものがあった。

 見た目は完全に現世の飲料自販機だが取り出し口が大きめな独自のデザインで、飲み物のサンプルが置かれてるところに武具の絵が描かれている、試しに指定分のお金を入れて点灯したボタンを押すと……ガコン、ガコン、ガコンと複数の音が鳴り取り出してみると――三分割で草にくるまれたバラバラになった剣の破片のようなものが出てきた。

 とは言うものの見た目は2分の1ほどのサイズな気がするが「お湯をかけて混ぜると出来上がり」らしい、なんともふざけている気がするが――隣に熱湯のサーバー風自販機もあった。

 騙された気分で転生者が持ってきて複製したと思われる”ご自由にお使いください”青いポリバケツに剣の破片を入れてお湯を購入すると、みるみる剣が繋がっていき膨らんでいき……出来たじゃん、シルバーソード。

 なにこの謎の技術。

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