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第四十三話 やり直してみた。 


 

「っ!」


 日は昇っている時間故に明るいはずの空もどんよりとした空気の流れていた悲壮感満ちていた場所から一転、すっかり日の落ちた周囲と尻に感じるのは野営で慣れた簡易ベッドの感触。

 そして俺が現状を理解すべく改めて確認したデジタルな数字にて――


「戻ってこれた……のか?」


 この世界において暦は存在しない、一日の中で朝昼夜があるだけだった。

 さすがの転生人も遡って暦もといカレンダー作りとはいかなかったのだろう、一年間という定義をするにも四季など無ければ365日という数字を強引に当てはめるのも厳しかったに違いない。

 それでも一日の時間というのは日時計や転生特典などを用いて把握できており、この世界もまた一日が二十四時間ほどで完結することはなんとなく理解していた。

 その事実はこの世界が俺たちのいた現世の世界とひどく類似した生活環境にあることを示唆しており、どういった位置づけや仕組みか分からないにしても、ある程度の不自由なく生活できる面において惑星レベル・太陽系レベルかで変わらないと考えてもいいのかもしれない。

 

 話は戻って便利機能に記されたデジタル数字は、その深夜の時間と”百五十日目”という経過した日数だった

 それが示す時間というのは、パーティがほぼ全滅する前夜になる。


「…………」


 既にみんなが寝静まる頃、俺はベッドを降りて寝息を立てるミサを視認した。

 死んでいない、今も多少ボリュームを残した体躯のミサの胸が呼吸で上下している。

 彼女が死んでいない世界に俺は、俺たちは戻ってこれたようだった。


「よしっ」


 これでひとまずは考える時間が出来た。

 今日は徹夜してでも明日への対策を考えるとしよう。

 なあに徹夜に効く好きな”えなじいドリンク”は道中の店で揃えてある、この世界においてもその類の飲み物は好まれるようで、転生人の国民性故なのかテイストも俺好みのものも多い、ともかく夜更かしの準備は万端だ。





 地図を確認すると、強力なモンスターの群生する地点よりも手前。

 野営地点から群生地点のおおよそ五倍ほどの距離にあるのが次の町”アクトス”。

 前情報はわからないがおそらくは美麗な教会が、豊かに整備された公園が地獄絵図となる場所。

 はたしてモンスターの群生地点からしてもそこそこ距離の離れている”アクトス”があの惨状になったことからして、幹部クラスのモンスターが襲撃したのはあの群生地点だけとは限らないだろう。

 教会に集まってい死傷し民の数や、既に安置や埋葬の行われていた公園を見るからにしても襲撃から多少時間を要したことになる。

 そういえば俺はひたすら全員の亡骸を抱えて歩いたのだ、何の意識もしていなかったがその間に数日が経っていた気すらする。

 今思えば教会を訪れた時点でセーブをすれば”時間と経過日数”の情報付きのセーブデータが残っただけに、あの時はそれどころでなく気づかなかったとはいえ失敗したものだ。



 仮にロードしたタイミングを今日から三日後としよう。

 つまるところ今日はパーティの全滅の前夜であって、教会にたどり着く前夜ではないということを仮定しておく。

 更に仮定レベルでしかないが、モンスターの凶暴化が局地的なものではなく、さらに同時多発的だとすれば。

 教会の混乱ぶりと、公園の未だ死体の安置ですら手一杯の状況から察するにありえなくない話だろう。


 ということから、たとえ今の野営地点に残ったとしても安全は保障されないことが考えられる。

 たまたまモンスターの群生地帯だったのか? いや、本当にあの場所は群生地帯だったのだろうか――

 最悪の想定をすれば、人間や亜人などを狙って攻撃できるようモンスターが出現(テイム)するとするならば。

 少なくともやり過ごそうだとか、逃げればなんとかなるだとかの甘い考えは捨てた方がいいのだろう。


「……」


 分かっている未来、どしてどんな場所でも出くわすかもしれない出来事、そして最終的に向かう先は蘇生出来る環境のある教会とするならば――

 俺は一つの方法を考える。

 もっとも焼け石に水程度のことかもしれないが、まだ生存の可能性をあげられるならばと。



 加えてセーブ&ロード画面や勇者の自分に関するデータに目を通しておく。

 ロードを使ったところでの回数制限や、一度使ったロードが使えなくなるということは見ている限りなさそうだった。

 自分のプロフィールデータにも大きな減少は無さそうに(・・・・・・・・)思えた、もっとも最近はあまり見ていないので”こんな感じ”程度でしかないのだが。


 ということはセーブ&ロード機能が現状ではデメリット無しのノーリスクということになる。

 ……都合が良すぎる、ような気がしないでもないが。

 逆に考えて”こまめにセーブ&ロード”を必要とするゲーム、もとい世界と想像するとどうだろう。

 むしろそれぐらいしないとプレイヤーが立ち行かなくなるようなゲームバランスだとするならば――


「……考えすぎか」


 というかそうであってほしくない、かんべんしてくれ。


 とにかくモンスターの出現時間は、おおよそ朝の十時頃。

 起床から朝食や各準備などで、それまでに野営拠点の撤収などを行って旅を再開してから数時間ほどのこと。

 今は同日深夜の二時頃……気が引けるが、早めに行動するに越したことはなさそうだ。



 俺がまず出向いたのはミユの寝床だった。

 そう、今回の俺の考えた作戦上ミユの力が必要になる。

 ああ、てか何度見てもミユの寝顔は天使だなコンチクショウ! 起こしたくないぜ、眺めていたいぜ。


「……よし」

『なにが”よし”でしょうか』

「ひいっ」


 脳内に直接……! 大分年上な元彼女様の声が……!


『お邪魔しました、次の夜這いをお待ちしています』

『夜這いじゃない……といえば嘘になるけども!』


 まぁやろうとしているのはそれだった。

 

『お許しを』

『次私のとこに来れば問題ないです』


 本当に大人になったマイは寛容になったものだ、同い年の頃は絶対許さなかったもの。

 マイが今偶然にも起きているというのなら都合がいい、この面子の中でも状況の理解と飲み込みが早いであろう彼女にまず打ち明けるべきだろう。


『じゃあ先にマイの方へ……』

『え――』

「ん?」


 何故かテレパシーにノイズのようなものが混じる、何か混線でもしたかな? ……いや、無いけども。


『し、少々お待ちください』 


 テレパシー越しに少し焦っている様子の彼女の声、なんだか珍しい。

 実際に数分ほどテレパシーが無音な状態が続いていると――


『ど、どうぞ』

『う、うむ?』


 テレパシー越しにでも息をのむような緊張感が伝わってくる。

 まさかマイは俺の実質的なセーブ&ロードの行使によるタイムスリップに見当が……!?

 さ、さすがすぎる。


 そしてマイの寝床を訪れると――なんとも扇情的なネグリジェ姿でお出迎え。

 身体をセーブしているとはいえ年齢ゆえ仕方ない程度に、ほどよく引き締めつつも柔らかそうな肢体が肌着一枚で透け気味。

 正直理性によくなくなくなくなくてしょうがない!

 いえゆるマイのお待ちくださいってわざわざこれに着替えたってことかよ!?


「生存本能、というものなのでしょうね。危機に面した・面することを理解していると、こう将来に託したくなるというのは」

「……ってことは半分察して半分間違ってる感じだな」


 占いに長けた彼女は俺の行動で察したのだろう――将来を占った結果が出たのかもしれない。

 俺が経験した未来通りならば、将来は決していいことが起きないのだった。


「とりあえず目に毒すぎる」

「残念です、またの機会をお待ちしております」


 半分冗談、といったところだろうか。

 俺の話すことについてある程度察してくれたのだろう、この世界においても割と流通している綿生地のパジャマに改めて身を包んだ。

 ……とはいっても中にあの扇情的なネグリジェを着ていると思うと……思わない、今は思わない!

 

「それにしても驚きました。まさかユージロー様以外全員が死に絶える未来を占うなんて」

「……ああ」


 俺はそんな占いの精度を保証するように、マイにこの前夜から明日凶暴化したモンスターの襲撃によるパーティがほぼ全滅、数日後に訪れる町でミサのみ生き返ることが出来ず絶望する俺たちの状況までを話した。


「今更ながら言っておきますが、私の占いはここぞという時に使うもので。”占いの結果が出るまで次の別の占いは出来ない”のです」


 マイの能力にそんな制限があるとは知らなかった。

 でも確かにマイは占術・呪術のみならず探知における術も扱える、さすがに盛りすぎということで条件付きなのもあるのだろう。


「ユージロー様がついにミユ様に夜這いをしかけるということで、後日のお互いの反応まで占ったところの副産物でした」


 ……そんな回数制限ある占いに使うことかな?


「というかミユのとはそういうのじゃないし……充電用だ」


 あくまで兄妹なのだ、この世界の行動に置いて必要なことであるから仕方ない!

 いくら俺がミユのことが大好きでも! それはエロいことしたいからとかいう不純なものじゃない!


 ……ミユ相手はともかくしたい気持ちがないわけではない、むしろパーティが増えたことで我慢してきた!

 なのにミユからは結構な頻度で”充電”しにくるわけである、俺もモンモンモンとしてしまうわけですよ。

 だが今回ばかりは充電をミユに促す、行為よりも先に必要性を求めた結果で――


「そんな言い訳しなくてもいいですのに……と占いの結果を知らなければ、そう言っていたでしょうね」

「ああ、ミユに大量の魔力消費を強いることになるからな」


 今まで諸事情から使用を禁じていた……わけではないにしても、消費量や経過飛ばしのデメリットから使わないようになっていた魔法。


「……詳しくお話いただけますか」

「そうだな。ただそれ以前に説明しておくと――そんなマイの占った未来から戻ってきたのが今の俺なんだ」


 正直に打ち明けた……ところで神様のお叱りやら、何かの妨害工作っぽいものも感じない、未来のネタバレは自分へ特にデメリットはなさそうだ。

 少なくとも現状未来のことを話すことはNG行為の類ではなさそうだった。


「そして俺以外が死んで、みんなを蘇生させていった中でミサだけが生き返らなかった」

「…………」

「それをやり直す為にどうにか戻ってきたのが今の俺になるかな」

「…………」


 マイは黙って俺の話を聞いてくれている、正直今話し始めていることは突拍子もないことだ。

 これを機会に話してもいいかもしれない。


「マイはギャルゲーってのわかるか」

「なんとなくですが。そのゲームの登場人物が私たちだったのも、そしてユージロー様が主人公だったことも」


 完璧な認識だと思う、現状を理解してくれているのは本当に頼もしい。


「今からちょっと”してみるからな”」

「?」


 俺はギャルゲー機能の内の便利機能を開く、おそらくマイには俺が虚空を指でなぞっているようにしか見えないのだろう。

 そして、マイのステータスを問い合わせた――

 

「……実は最近ホニさんが作る和食に脅威感じてたりしてない?」

「っ! そ、その通りですが……」

「あと二日に一回俺のベッドに忍び込んでるのはいいけど、ミユとかにバレないようにしてな」

「っ!? 細心の注意を払い、睡眠を促進するような効果の薬草も気づかれない程度に混ぜていましたが……!」


 年齢・スリーサイズ・身長体重だけでなく、常に更新される簡易プロフィールには本人しか知らない近況も載っている。 

 前半の情報は乙女のプライバシー駄々洩れなので出来る限り見ないようにしているけども……B・89か……。

 

 それはともかく! 

 そしてここからは一応テレパシーでの会話としておきたい。


「ところでマイ、テレパシーにおけるオフレコモードみたいなのはあるか?」

「……ちょっと待ってくださいね」


 マイもこれから話す内容を察してくれたらしい。

 これは出来れば神様にも知られたくない……知られていたとしても黙認されているのは不思議だし、なにかしらの抜け穴があるのだろうと考えたい。


『オフレコモードというと、微妙ですがどうでしょう? 同時進行で二重音声としてダミー音声テレパシー通信を織り交ぜながらしてみようと思います』

『すごいなマイ……ありがたい、それでいこう』


 そうして俺は自分の便利機能について話始める。


『さっきのマイの最近の悩みがわかる具合に”ヒロイン”のことを俺は知ることが出来るんだ』

「今なんと」


 地声! 生音声! に戻っちゃってるよ!


「そういう情報を知ることが出来るってことで――」

「少し戻ってください」

「ヒロイン」

「私、ヒロインなんですか」

「ダメか」

「まだ私をそういう女性として見てくれるなんて……母子ほども離れたような歳の差ですから」


 ……? 果たしてそれはデメリットなのだろうか。


「そう言われても十年も待ってくれた女性が、今も俺へ好意を持ってくれてるのに”俺からは無理”なんてこと……逆に考えられないんだが」


 というかむしろこの年齢にしておねショタっぽく出来ていいのでは? ……それとは違うか。


「……ほ、本当にっ! ……ユージロー様この戦いが終わったら私と浮気してください」


 変なフラグ立てるのやめて。


『本題に戻ると、俺にはそんなギャルゲー主人公的な能力があってその一つだった』

『……その能力の類に、時を遡るような能力があるということですね』

『正確には、”戻るタイミングに印を付ける”みたいなもので、それをセーブ。その戻るタイミングの印を選んで時を遡り戻ることを”ロード”と解釈してる』

『コンピューターゲームなどにおけるセーブ&ロードと同じと考えてよさそうですね』


 その通りすぎる、話の進みがマッハ。


『あとは言語設定? 的なのが弄れるからスラスラとも話せたんだ』

『……なるほど、彼女を中原さんと分かった理由はそこにあるのですね』


 使い方次第で、それに加えてもっとうまく使える人はいるのだろう。

 それでも俺としてはその便利機能が随所に役立っている。


『ということは以前私が占って見つけた亜人・獣人派遣仲介業者の集団からホニさんを見つけたのも”能力”故なのですね』

『そういうことになるな。俺はその能力というより”便利機能”というのを開くと俺と前世も含めて関わったヒロインの位置把握をすることが出来るらしい』

『…………それらがユージロー様特有の能力であってほしいですね』


 確かにこの機能は”便利”すぎてプライバシーも何もなくなってしまう。

 モンスターサイドかはたまた同種族における敵が同じような個人を特定する能力を持っていたらと思うと恐ろしい。

 加えて何度でも勝てるまでやり直してくるのだから、敵にしたら厄介どころじゃない。


『一応俺もあまり使わないようにしてる。マイにも自分の時間や話したいことはあるだろうし』

『いえ私は常にオープンなので構いませんが、むしろ私の過ごした十年について細かくお話したいほどです』

『それはそれで興味はある――』

『起床してシャワーからお花を摘むところまで』

『そこまではいらない』

『好きな人には自分のすべてを知ってほしいのですけどね……』

『ほどほどが大事だと思う』


 ……塩対応っぽく返しているが、テレパシーにバレない程度に俺は感動していた。

 彼女との現世の付き合いはじめ、本当に心を通わせるまではそんな『自分のすべてを知ってほしい』なんて言葉、マイから出るはずなんてなかったのだから。

 彼女が確かにいい方向へ変わったこと、そして成長したことが俺には嬉しかった。


『ユージロー様の能力についてはわかりました。やり直すからには万全の態勢を整えるつもりなのですね』

『ああ、だから裏技を使うつもりだ』

『裏技……ミユ様……夜這い……。そういえば以前ミユ様はテレポートの魔法が使えると食事時に言っていましたね』


 それも覚えてるか……。


『テレポート魔法を使う上でのMPチャージを行い、近くの町にワープして補給などを万全にしてからそのモンスターらを迎え撃つということですね』


 察し力がエグイ!


「ならば仕方ありませんね。私も陰ながら見学させていただきます」

「やめて」


 マイが話してくれた通りだが……そういうことである。

 問題はミユのテレポート魔法が複数人同時移動が出来るかわからない上に、MPの消費量もわからないからこそミユ次第ともいえる。

 むしろミユ頼りの荒い作戦だが、今からモンスター襲撃までの時間までにはそれぐらいしか思いつかない。 

 

「全員生き残りましょう、ユージロー様」

「……ああ」


 ただ俺はこの時マイにもテレパシーを切っていたからこそ察することの出来ない作戦を考えていた。

 ……察せられたら大反対するであろう内容、でも慣れているからこそ俺としては躊躇しない作戦、作戦と言えるものでもないが。


 今回のミッションの成功条件はあくまで「ミサを死なせず全員が生きて顔を合わせること」。

 極論を言えばミサ以外は死んでも問題ない、だが俺はそれを許さないので――単純に死ぬのは”慣れた”俺ぐらいでいいのだ。


 そうした決意をもとにミユの寝床へ向かった――

本筋は決まっていたのですが、もうちょっと前回と同じようにアッサリ目進行の予定でした

結果初稿で盛りに盛った状態に……

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