第三十九話 話しあってみた。
便利機能・マップ上には複数の女子がひと固まりになって移動しているのが見て取れる。
そんな中俺は絞り込み機能を有効にしていた、まずは最優先に家族・友人・元恋人etcにしてあり、次に人間であること。
すると最優先事項がマップ上では点滅する点で表現される。
そして二の次ともいうべきなのが人間であることで、第二希望のようなもので絶対条件ではない。
というのもスラスラもとい中原アオもといナタリーがモンスターとして転生してしまったが為で、人間のみに限定すると検索対象外となってしまう。
だからこそ今の検索において”人間でなくとも家族・友人・元恋人etc”の類いならば優先的に表示され、マップ上の点、もといマーカーが点滅するということ。
「マイ、ちょっと回線開けるか」
「はい」
この内容は不確定で、そしてミユに話せば不安にさせるかもしれない。
ミサに話すには自分がそう思う・そうしたい根拠を今はまだ説明できない、だからこそマイとだけテレパシーで会話することにした。
『ユージロー様』
『マイ、あの中に俺たちの知り合いがいるらしい』
『……本当ですね、今占い直したらわかりました』
マイの探知系占術というのも絞り込みや特定条件での探知を行なえるのだろう、そもそも知り合いがいるという前提を知らなければどうしようもない。
加えてマイは俺に対して「どうしてそれが分かったのですか」というような顔をしている、そういえば俺の便利機能を誰にも話していなかった。
ただこればっかりは俺にしか見えないものであって「こういうもの」というのを指し示すことは出来ない、言えばマイなら納得してくれそうなものだが。
『いつか話すけど、それより』
『そうですね、ユージロー様の知り合いが転生しているというのならば接触すべきでしょう』
俺も感情的な部分では知り合い、というよりも親しい間柄の人に会いたい気持ちはある。
それでも俺としては相手個人の感情を優先したい、別に当人は転生先で好きに楽しくやっているのかもしれない。
ただし奴隷商の手の内にいるかもしれない、というのだったら話は別だ。
何もないことに越したことはないが、何かあってからでは手遅れだからと気持ちは急いている。
そして俺はまずマイに話す為に後回しにしていた、その点滅するマーカーの対象の情報に触れる――
『……ホニさん、だ……!』
その名前には見覚えがあるどころじゃない。
彼女は、その人は、俺にとっては――家族も同然の存在だったのだ。
『そこまで分かるのですね。ユージロー様のお宅に住むようになった、女子中学生に神懸かった方ですよね』
『……ああ』
ホニ様。
スラスラもといナタリーもとい中原アオとの文通上にも登場した女の子にして、自称神様。
ひょんなことから出会い俺の家で住むことになった子だが、自分のことを狼由来の神様だと思っている。
現に神様かどうかは分からないにしても、気を抜けばケモ耳ケモ尻尾が出てくるあたり嘘ではないのかもしれないが……いまいちピンと来ない。
まぁそれとは関係なく超可愛い我が家のマスコットなんだが。
そしてマイが話している通りホニ様は女子中学生・時ヨーコに取り憑いている。
その女子中学生もワケアリで、別にホニ様がそのヨーコを乗っ取っているわけではなく、軒を貸してもらっているような状態らしい。
だからヨーコが前に出たければ出てくる話で、傍から見ても不思議な共生関係にあるのがホニ様とヨーコだった。
ヨーコとも何度か話したことはあるが、年相応なJCながらもホニ様のことを許容もしているし、むしろホニ様が前に出ている時も内側から見ているのだという。
『俺にとって大切な家族だ』
ホニ様はいい子だ……いい子とか俺が言えるレベルではなく超年上なんだろうけども。
神様にも色々あるのかもしれないが、少なくとも傲慢不遜なんてことはなく、「我」という一人称とたまに出てくるケモ耳ケモ尻尾以外は物腰柔らかの温厚かつ優しい女性なのだ。
ずっと家を守ってくれていて、その間の家事もこなしてくれて、料理だって和食を任せたら料理の達人と名高い俺の姉貴にも匹敵するほどの腕を持っている。
、狼さんなのにきつねうどんに載っていそうなお揚げが好きで、昼には洗濯物を畳みながら昼ドラを見るような、そんな人で――俺にとって大切な家族。
『ならば妻として挨拶に行かないといけないですね』
『そうだな――いやそうじゃないそうじゃない妻じゃない』
さりげなく既成事実というか言質を取りに来るのがマイ流。
『……私がユージロー様の妻か嫁かはあとで話すとして、接触はしてみましょう』
『ああ、もちろんだ』
この異世界においての俺の周辺人物の転生は四人目、もはや偶然で片付けられないだろう――俺には分からない何かの意図があるかもしれない。
そしてナタリーがスライムに転生したように、便利機能の最優先フィルタを外し”人間”に限定するとマーカー点滅が消える。
少なくともホニ様は人間に転生したわけではないらしい、加えてフィルタをかけなおしてから情報を見ると”獣人族”と表示された。
……ということは好意的に捉えるならばケモ耳ケモ尻尾なホニさんそのままで転生しているのだろうか、この世界においてそれが人間には該当しないだけで。
場合によってはもふ度が上がって狼さん寄りになっているとか……?
もっとも姿かたちが変わってもホニさんに会いに行かないわけがないのだが。
と、俺とマイはテレパシーで会話してこそいるものの。
もちろん両者無言な上に、たまに意識して目と目で通じ合っちゃったりしてしまうこともあり――
「さっきから何かナイショの話してるの?」
「え」
案の定ミユに怪しまれた。
「聞こえてたか?」
「ううん、でもアイコンタクトで会話してたような気がした」
それで会話出来たら以心伝心すぎるだろう、じゃなくてもモールス信号的でも俺には分からない。
「ミユ様、実は私テレパシー的なものが使えるのでちょくちょくユージロー様とイチャイチャしていました」
「ちょ」
それ言っちゃうのかよ!
「え!? ちょっとユウ兄どういうこと聞いてないんだけど」
「そりゃテレパシーだから聞こえないだろう」
「そーゆーことじゃない! で、イチャイチャしてたの? どんな風に? こ、言葉責めとか」
「イチャイチャも言葉責めもしてない」
お兄ちゃんとしてはミユの口から”言葉責め”なんて単語出てくる方が残念無念でござるよ。
「マジな話、マイの占術結果――近くにホニ様がいる」
「……マジなやつ?」
ミユにホニ様の名前を出すと表情が真剣になる。
ミユとホニ様の関係というものも悪くはない、常に家にいる同士で会っているのだった。
「大マジ」
「そっか、ホニ様こっちに来てたんだ……」
ミユが懐かしむような表情をする。
ふと見たミユとホニ様は仲が良さそうだった、|俺が高校に行っていた間も一緒に過ごしていたのだろう。
「そんなホニ様がもしかしたら転生のせいで奴隷商に捕まってるかもしれない」
「っ……! い、今すぐ助けにいかないと!」
「奴隷商というのは俺とマイが考えただけで違うかもしれない、だから今ホニ様がいるであろう方向に歩いてる」
奴隷商(仮)が次の町を目指しているのは俺たちと同じにしても、<シルバーリング>を大きく迂回するような道程にしているが為か縦軸的には大きく離れている。
だから次の町を直線距離で目指さず、自然に奴隷商と”偶然”出くわせるように歩みをすすめていた。
「急ごう!」
「いや、このままのペースで歩こう」
「そんな! ひ、ひどいことされてるかもしれないのに!?」
「あちらの奴隷商が周囲を警戒していないとは限らない、変な動きをして探知されるのは避けたい」
この世界において”テレポーテーション”のいわゆる瞬間移動魔法が存在することはミユの実践において身をもって知り得ている。
そんな中で俺たちを危険な存在だと認識して”テレポーテーション”で俺とマイの探知範囲外に行かれるのが一番困る。
しかしそれを基本使わず輸送しているのはMP消費量の多さ故か、それとも高価なアイテムの使用かは分からないものの、そんな切り札を持っていると想定もしておく。
加えて護衛をする傭兵の存在の有無で状況は更に変わる、今のところ俺もマイも、そしてもちろんミユも焦る気持ちはあるが警戒して臨まなければならない。
あとはマイの魔法や俺の便利機能のような優秀な探知機能が、この世界において幅広く使われていないこと、かつ奴隷商が持っていないことを祈るばかりだ。
「ミサも聞いてくれてるかもしれないけど……そういうことだからちょっと寄り道させてほしい」
「もちろん、知り合いが捕まってるかもしれないなら助けにいかないとね……ただ、奴隷商というと――」
後ろで黙って聞いてくれたミサにも聞くと分かってくれた、加えてミサが何か言いかけた瞬間――
「――直線上に奴隷商と思しき集団が、周囲に馬に騎乗しているらしい傭兵五人」
「……挨拶に、いかないとな」
そしてついに多くの女性を輸送しているとされる荷馬車をこの目で捉えた。




