第三十六話 確認してみた。
マイの本音を聞いた夜、既に明日旅立つ身支度を終えてあとは寝る!
……だけなのだが、俺としてはいつもの日課をしておくとする。
「セーブっと」
今のところ俺にしか認識できていない機能、いわゆるギャルゲーな機能。
これは本来ならゲームのプレイヤーが操作するもののはずが、ゲームのキャラクターの俺が操作してしまっている。
そんな中での”セーブ&ロード”機能で、今のところ一度も”ロード”は使っていない。
一方の”セーブ”に関しては毎日欠かさずやっている、キャラクターの設定的にそういう日課的なものは忘れない性格だったのかもしれない。
――はたまたこの行為が必要なことであると、直感を覚えているのか。
そんなわけで毎日セーブをしている。
しかしセーブ枠にも限りがあるので、基本的には毎日セーブしたあと特に何もイベントがなければ直近六日間以外は週一のセーブを残して消す。
それをしばらく続けている、だから転生してから今にいたるまでの一週間間隔のセーブと直近六日間のセーブが残っている状況だ。
「どっかでメモリ増設出来ねえかな」
今のところ上書きや消去などしてやりくりしているが、この習慣を続けていればいずれデータがいっぱいになる。
その時にはどうしたらいいだろうか……それこそ月一間隔で残すなり、最悪は一年間隔で――
「っ……! そう、だよな」
一年間隔で残すような頃には、俺たちはきっとこの世界に安住の地を見つけているのだろう。
保険の為のセーブも必要なくなり、この世界で仲良く余生を過ごすのだ。
願っていることだ、望むべきことだ、そんな日が訪れてほしい。
「しかし、なぁ」
俺はこれまで”セーブ”し続ける一方で、”ロード”に関しては一度もしていない。
正直初期の段階でやっておけばよかったと思う。
仮にセーブした時間にタイムスリップのようなものが出来るなら、果たしてそれは自分にとってのメリットだけで済むだろうか。
何かの代償か、ペナルティの類があるのではないかと疑わざるを得ない。
そうでなくても回数制限があったりするかもしれない、いざという時に最悪の状況を回避するための手段にしたい。
……正直それで腐るならいいことだ、自分たちに直近の脅威がないことがわかるんだから――
「あとは……あ、保存されてるし」
セーブ機能について考えるのはそこまでにして”スクリーンショット”を開くと、さっきの風呂場でのシーンがそれはもう一枚絵のように撮影されている。
湯気立つ浴場を背景に俺の胸の中でマイが泣いているシーン、自分で言うのも難だが感動的だ……だけどもマイのスク水が気になるうううう!
「……保護機能っと」
せっかくの場面が台無しになりそうな邪な理由かはおいておき、スクリーンショットといっても俺自身は撮影の動作をしていないことを思い出す。
というか撮影者のはずの俺も一緒に写ってるけど誰が撮ったんだこれ……。
「ほかにも撮った覚えのないのがあるな……」
そんな撮った覚えのない写真がいくらかあるが、こぞってヒロインのシーンばかりである。
写真をタップしたりスライドしたりすると操作アイコンが出てくる、その中には”メモリー”という項目があった。
試しにそのメモリーのページを見てみるとギャルゲーさながらにCG一枚絵っぽく撮られた写真が順番に配置されている。
「スクリーンショットの写真もといCGが何故かメモリーと一部共有されてる……?」
なんでだろう、何か意味があるんだろうか。
――のちにこの機能自体意味はなく、むしろシステム的にゴッチャになった意図しない挙動こと不具合だったことが判明するのだった。
どうやって判明したかと言えば……俺が主人公のこのゲームが別に”良く出来たゲーム”でなかったことを知る機会があったということで。
「ほかは……これか」
ヒロインどころか周囲の女子の好感度からスリーサイズまで分かってしまう謎の”便利機能”。
加えて女の子の位置する場所の分かるレーダー付き、鮮明でこそないが場所的には間違いのないことだと、何気なくミサで試し証明していた……ごめん。
レーダーは俺を中心点として周囲を測るものだが、索敵地点を固定機能を使って自分の歩幅ゆるめに五十センチ計算でレーダーとにらめっこしながらやってみたところ、半径は五キロメートルほどまでが索敵範囲のようだった。
つまりは直径十キロメートル内ならば動くことなくサーチできるようだ、女の子限定だけど。
ご丁寧にも絞り込み設定も付いているので、家族・友人・クラスメイトなどなど設定が出来るとのこと……。
基本的に地形と大まかな建造物が三色カラーぐらいで画面に表示され、そこに女子が点として存在し点滅していた、俺の見える画面自体はかなりシンプルになる。
「現代にあったらやべーやつ」
いわゆる女子に無差別的に精度の高いGPS検索が出来てしまうわけで、プライバシーもへったくれもない。
もちろんこのレーダー画面を見なければいい話なのだが……やっぱり後ろめたい気持ちが大きくなってしまう。
この家においても今はそれぞれ部屋でミユ、ミサ、マイが距離を置いて点として表示されている、というかモンスターのスラスラも表示されてるし。
女子もとい、ヒロイン判定ならばなんでもありか。
対面状態でも便利機能を起動することでその女子の情報を知ることができるほか、レーダーマップ状態でもスリーサイズや特徴・内面などについても女子の点もといアイコンをタッチすることで確認が可能。
ちなみにスラスラのスリーサイズは5・5・5だった、寸胴という以前に立方体だった。
<ミサ> 年齢:××歳 スリーサイズ:95・50・88 特徴・最近マヨネーズがおいしい、ユージローには自分に甘えてほしい気持ちを抱いている
……でかい。
じゃなかった、こうやってさらっと書いてあるが彼女の内面を知ることが出来てしまうのだ。
それはミユやマイにおいても出来ることであり、たぶん女子なら全員に可能らしい。
それはいよいよプライバシーも何もなく、本人の了解も得ることなく知りえることが出来てしまう地味に恐ろしい機能にほかならない。
確かにこの情報は俺が取捨選択できるものではなく、前も考えた通り”攻略”に用いそうな情報を端的に示しているだけなのだろうと思う。
ただそれが好みだけならまだしも、何か弱点やトラウマに直結するものならば、それを覗き見出来てしまうのはいい気分はしない。
だからこそあまり使わないようにしている、実際にこの便利すぎる機能にデメリットがあるかどうかもわからないし。
……使うごとに体力や寿命が減るとか、それはミユたちとの余生の為に割と困る。
「バックログもそういや大概か」
”バックログ”機能は、さらにプライバシーを無視している。
便利機能よりも女の子について詳細なことが知れてしまう機能で、いわばその人の内面での考え・発言録の一日分が文字として出てきてしまうもの。
本来は内緒話だったり陰口だったりしたものが、俺にはまる分かりになってしまう……これも見ていていい気分はしない。
幸いこれは便利機能からアクセスは出来ず、効果範囲もあくまで自分が近くにいてその子を認識している場合のみ、遠くにいる子のことを遠隔的に知ることは出来ない。
バックログが表示可能な場合は名前の書かれたアイコンがバックログ選択画面に現れる、それ以外では基本的には俺の発言禄もとい発言ログを見ることがメインの機能のようだ。
それでも……あまり言いにくいが、ミユの××なシーンから△△のシーンまで描写されている、まさに赤裸々としか言いようがない。
使い方次第では攻略に役立つかもしれないが、実質過去に遡っての思考透視にほかならない、とんでもない機能だ。
「あとこれも危険だったな……」
”オート&スキップ”機能、これを使った結果過労で死んでしまったのも割とトラウマレベルだ。
基本的にミユ曰く、スキップ機能中の意識の飛んでいる間は前日と似たような動作を繰り返しているらしい、そして休まなかったせいで死んでしまった。
以降オート&スキップは使わないようにしている、自分の体調も管理出来ないオート&スキップ機能など意味がない、死んでしまう為の機能なら不要だ。
ちなみにそれとは別にスキップ・オート単独も選択可能で、スキップに関しては仕事・睡眠などの一区切りまで最大で半日程度が経過する、オートは試したことがないのでわからない。
「これはまぁ使いどころがあるか」
”サウンド”もとい音響機能で、まずは各種バーを弄るとBGM・SE・VOICEが消える。
BGMを切ると生活音の一切が消える、風の音などが消える……のだが後述のSEとの境界は曖昧だ。
SEを切ると効果音が消える……というかミユの爆裂魔法の音も消せた、正直差し迫った危機に気づかず無音のまま死んでもおかしくないので危険だ。
VOICEを切ると人の声が消える、転生時……というか実質召喚状態時にはミュートになっていてミユの声が聞こえなかった。
この三種類に関しては正直いらない、必要なのはその下にある”言語設定”で、そのものズバリ言語の切り替えが出来る。
デフォルトはこの世界の標準語に設定されており、それを脳内か何かで日本語に変換、テキストウィンドウに表示される場合も同じく変換される。
ミユはこの世界で普通にこの世界の言語を喋っているようだが切り替えは出来ないようで、スラスラの言葉を理解できたのは俺だけだった。
実際に<シルバーリング>までの道すがら、俺は言語設定を弄って他のモンスターの声を聞くことが出来ていた。
もっともスラスラが秀でているのかほかのモンスター同士の会話は緩い印象だった、というより言葉は発していたが会話していたかはわからない。
言語について、いわゆるこれが”転生”と”召喚”の違いなのかもしれない。
俺もミユも召喚したような状態で記憶は始まってこそいるが、この世界における生まれた場所が確かに存在し、そこで時間を過ごしてきたという。
その場でこの世界についての最低限の言語など教わっていたのだろう、力などを行使して覚えさせたりするよりもコスパが良いとの神サイドの判断なのかもしれない。
ミユたちは特別な力を以てこの世界の言語を理解できている……わけではなく、ミユたちに関しては日本語をしゃべっているようでいて、実際は現地語を話している状態になる。
もし仮にこの世界に異世界人が”召喚”された場合、俺たちの言葉を最初は理解できない可能性がある、もっとも便利な脳内翻訳機能付きなどなら話は別だが。
実際に一度ミユ相手に試したことがある、さりげなく言語設定にあった”日本語”にしてみたところ、俺の言葉が理解できないかのように首を傾げていた……今のミユには日本語が通じないのだ。
そう考えればマイの言っていた「記憶を持っているだけの別人」というのがあながち間違いでないこともわかってくる。
俺のこの謎の力がなければ”特別な力を以てこの世界に適応している”ようにしか思えない、神による世界設定はぬかりないのだろう。
そしてその知識を取り入れた記憶もなかったことにしても大丈夫なように調整をしている、正直そこまでするかとも思ってしまうな。
「それにしても今後もモンスターと話さないといけないかもしれないんだよな……」
想像はしたくないが、自分の元彼女にして俺が主人公だったギャルゲーのヒロインが変わり果てた姿をしている可能性。
スラスラはまだ可愛いからいいが、もし厳ついドラゴンどかになってたらどうするか……どうしようもないのだが。
”言語設定”は役立つが、それがモンスター方面で役立たないことを祈る俺だった。
色々考えていると睡魔がやってきた。
明日に備えて、せっかくのふかふかベッドだし寝るとしようと頭を枕に載せ布団をかぶり目を瞑る――
「ユウ兄……」
おおう……。
目を瞑ったのもつかの間、扉の開く音とともに靴下がカーペットを擦る音、そしてベッドがギシっと軋み俺の腰上に何者かの体重がかかる。
案の定気になって目を開けてしまえば、そこには息を荒くしたミユの姿があった。
えろい……。
「ど、どうした」
「ずっと……我慢してたから」
とろんとした瞳、少し紅潮した頬、少しはだけ気味の転生人が持ち込んだっぽい水色のパジャマもとい寝間着……いやもうカンベンしてほしい!
別に俺は無反応なわけじゃなく、堪えているだけにすぎないわけで!
「自分でしてたけど、もう我慢できなくなって」
自分で、とは……?
分かっているが言わないのが紳士、いやでもお兄ちゃん別にミユとこういうことをしたいわけじゃあなくてな!
ないわけでもないけど、そりゃミユが望むなら――
「たくさん女の子増えて、話す時間減って、寂しかったんだから」
「…………」
俺もすっかり冷静になる。
というか実のところ少し前に別の意味で冷静になっていた、俺はこのミユの行動が”MP回復の為の手段”であることを理解していた。
そうでもなければ俺の妹のミユがこんなにエロいわけながない。
それに加えて、寂しさからくる夜の抜き足差し足忍び足でのお部屋訪問なら、何も言えない。
実際不安もあったが俺とミユの二人旅、始まりの町でも二人の日々だったのだ。
気づけばミサが増え、スラスラが増え、マイも増えた。
単純に兄妹のスキンシップが減っていった、それは否めなかった。
「だからユウ兄分よこせえええええええ」
「うおおおおおおおおお!?」
着陸用意! ミユによって掴まれた俺の手が、ミユの寝間着越しに着陸――
「生だよ!」
「!?」
しなかった。
寝間着越しではなく、予め開けていた寝間着の隙間から俺の手を忍び込ませての、ここにタッチ!
手のひらサイズのやわもち肌感触のお胸に着地!
やわこい。
「MPチャージ!」
俺のMURAMURA POINTことMPもチャージ!
俺から見えるミユの現在のMPゲージもグングン上がる、改めて分かったマジ効果あるやつ!
ちなみにあくまでもこの行為がMPを生み出しているのであって、俺からMPを吸い取っているわけではない。
というか俺からMP吸ったら即底を尽きる、謎の仕組みではあるがミユの場合は性的興奮である程度のMPを稼ぐ手段はあるということらしかった。
そういえばはじまりの町を出てから三日間、ミユがメインで戦い続けていたようなものなのだ。
いくら大技を使わなかったとしてもMPは消費されているはず、しかし野外ではこのMP回復行為を行う勇気は流石になかったのだろう。
そしてこの町にやってきてはじめて、壁があり屋根のあるこの場所で行えるようになったんだと思う。
……まぁ俺としても嫌なわけではないし? ミユの為になるなら俺は喜んで協力するし? というか役得でもあるし?
「ごちそうさま!」
「お、おそまつさま」
そう唇を舐めるミユ……別にキスとかはしてないので誤解を呼びそうだが、パイタッチなそれでMP回復はいいらしい。
「またよろしく!」
「お、おう!」
微妙に男らしい去り際のミユによるラッキースケベだった(?)。
とはいってもこれは必要な行為であり仕方ないわけで……これでいいのだ。
とはいっても俺はこれから寝るというのに……ミユのせいでムラムラして仕方なかった。




