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第三十五話 女神です。(2)<オルリス視点>

 

 私、オルリス=クランナは神様であり女神です。

 ……いえ、そんな私が別に女神のように美しいということではなく、でも見た目がいいからこそ勇者転生送り出し係に選ばれているようなことは聞いたことが……ごほん!

 ともかく単純にそういう”職業”とでも思っていただければいいかと思います。

 女神様というと何も不自由がなかったり、それどころか万能であり、あらゆる力を際限なく行使できる――ということはないですね。

 女神職の中でも”平女神”でしかない私にはそんな権限はありません。

 ただ一時的に女神の力を貸与してもらい、転生者の方々に行使することは出来るようになっています。

  

 天界から見て、地上などの世界は幾千幾万……もっとあるかもしれません、少なくとも下っ端の私には把握できていません。

 それに加えて時間軸も原始時代から遠い未来まで様々です、基本的に地上などに生まれ落ちるものは全員が”転生者”ですから、その全員に種族や人種や性別などを選定するわけです。

 本当に途方もないですね……。

 割り当てた転生者が百年もしない内に死に至り、また転生先を選定しなければなりませんから神の仕事としては埒があかなくなってくるのです。

 もっとも一部の化学・医療文明が発達した世界・時間では何千年も生きる種族がいて助かるのですが、それはあくまでイレギュラーですから。


 だから天界としては”勇者枠”というのを与えることとしました。

 いわゆる神・女神の代行として、世界に干渉出来るほどの能力を有して転生させ、かつ場合によっては不老不死とすることで転生枠を減らした上で、世界が滅ばないように調整するバランサーの役目を持っています。

 潜在能力も含め能力適正のある”死者”から選定され、その者には勇者として転生させる代わりに一つの願いと、大きな力を託してその転生先に送り出します。

 各時代において明らかに秀でていたり、理屈のつかない現象などを起こしていたものは基本的に転生者と言っていいです。

 ただ各世界においての判断で”転生者としての記憶”の有無はありました、単純に自分が選ばれ死……選ばれし人間であるというぐらいの自覚はあったかもしれませんが、勇者として転生した結果であることをわからない方はいくらでもいたはずです。


 という勇者枠の制定によって、一部の勇者には長生きしてもらい、転生枠は減らしたうえで世界に貢献してもらいます。

 そんなシステムが長い間使われてきました、そして転生者の方々は実際に結果を残し続けたことに代わりはありませんでした。

 しかし逆に優秀な転生者が輪廻転生しなくなったことで、いわゆる”そうでもない”転生者も勇者枠にせざるを得ませんでした。

 勇者枠をある程度送り出さないと、その課の予算が減らされる……などという自分の正義に反するような理由ではありましたが、下っ端の自分には何も出来ませんでした。

 そしてどういうわけか私が担当している#$%世界には、あまり言いたくありませんが……”ハズレ”ばかりが割り当てられてしまいがちだったのです。

 能力がそうでもない上に、望むものも大したものではなく、果たして勇者として貢献できるのか、疑問に思う方を送り出しては……案の定でした。

 

「……というか基地局を持って行ってどうするんですか」


 基地局を特典にした勇者はある町に定住し、スマホを普及したのち今はひっそりと暮らしているそうです。


「……魔王倒してよ」


 うう、毎月その町で使う通信料は私たちが払うことになってるんですから。

 そのせいかはわかりませんが私もしばらく昇給無しで辛いです、私にも生活があるんですからね!


 基地局ぐらい、と思うかもしれませんが女神や神様だからってなんでも出来るわけじゃありません。

 ……というか八千歳の定年を迎えた技術職の神様が一斉退職した影響もあったりなかったりするのですが。

 技術伝承してよ! 後継者育ててよ!

 そんな叫びもむなしく、仕方ないので特殊ルートから下界の住民に報酬などを払って委託している始末です。

 神様としてこれでいいんでしょうか……というよりも転生先でみんな贅沢しすぎです!


「はぁ……まったく」


 そう私が呟くのは職場のデスクです。


 <第三神庁 下界部 転生課 勇者派遣係>

 

 私の属するところです、基本的にはデスクで勇者選定と転生時の送り出しが私の仕事です。

 勇者の選定をする<勇者選定係>も存在しており、そこでかなり厳選して選定した中の数人から私たちが選ぶことになります。

 そうしていつもの仕事の生前履歴書をいくつか読んでいると――


「……あ、でも今回もいいですね」

「あ、オルリスくん今回も良さげ?」 

「そうみたいなんですよエミリさん」


 エミリさん、同じ職場にして隣のデスクで仕事をする同期にして同僚です。

 かなりの美人な上に少しボーイッシュ気味で、最初は女性だと気づかなかったぐらいでした。


「ボクは……みんな優秀そうではあるんだけど、ちょっとクセが強いね」

「大変ですね」

「オルリスくんは少し前までは不作続きだったからね、ボーナスタイムみたいなものかもしれないよ」

「それにしたって最近は露骨すぎる気がするんですよね……」


 最近#$%世界に送り出す方々は粒ぞろいで、能力特性はもちろんのこと特典に関してもコスパの悪いものではありません。

 そして各々の目的こそあれど、世界を救う気持ちがそこそこあるのも大きいです。

 ただ気になっていることとして、その方々がほとんど同一世界出身というところが気になるところであって――


「あー、もしかしたらアレかな。アイシアくん先輩が対応してた相手が原因かも」

「アイシア先輩が対応していた……?」

「なんでもね”私、原作者なんですけど!? 私の原作世界に存在するキャラクターの転生を何の一報も無く、するというのはどうかと思うのですが!?”みたいなお怒りのクレームがね」

「あー……」


 基本的に転生するにおいて、創作物から転生させる例も少なくないですね。

 そういった場合転生課で原作者にアポを取って許可をもらうのものの、それが抜けていたとのことです。


「原作ゲームの会社にはアポを取っていたけど、その元来の原作者には連絡がいってなかったみたいなんだ」

「あらら」

「そのことをどういうわけか(・・・・・・・)知りえた原作者はカンカンでね、あのアイシアくん先輩も困っていたほどだったよ」

「あのアイシア先輩が……」 


 基本的にヒョウヒョウとしているというか、つかみどころがなく能天気そうでいて――瞳はどこか冷たい彼女、なことを思い出すと困っている先輩の姿の想像がつかないです。

 

「その原作者は別にお金や物を欲しているわけではなかったみたいでね……それでも何か取引をしたって噂だよ」

「……それが私の世界に同一世界出身にして優秀な方が集まる理由の一つなのでしょうか」

「ありえるね、原作者の希望で転生先を同一とするように求めたとかあるかもしれないよ」


 そういう理由なら少し合点がいく、実際私が手元で確認した同一世界出身の転生者は〇〇人。

 転生者は転生先を選べません、それでいて同一世界の転生者は基本的に能力差があまりなく、ほとんど誰もが優秀な転生者を輩出する世界が存在することから、優秀な人材は各世界にバラバラに配置するのが基本でした。

 偶然にも出来すぎだったのは、偶然でなく原作者の介入による必然だったのでしょう。

 

 そんなちょっとした世間話をしていると、そろそろ自分たちの仕事をしなければならないことを思い出します。



「……あとオルリスくん、アイシア先輩には気を付けたほうがいいかもよ」



「え」


 そんなことを私にしか聞こえない声で呟いたエミリさんは――


「じゃあちょっと送り出しいってくるね」


 そうして私でもドキっとする爽やかな笑顔で仕事場に向かっていきました。


「……?」


 変な先輩ではあるけど、気を付けるって一体……?


「考えてもしょうがないよね、よーし仕事仕事」


 そしてエミリさんの警告は正しかったことを、のちのち私は自分の身で理解することになるのです――

  

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