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第三十三話 もっと考えてみた。

 マイから話されたこと。

 それはマイがこの異世界に転生する直前に自分がゲームのキャラクターであることを認識してから、この<シルバーリング>にて俺を待つ十年もの間のこと。

 その間に起ったことについて、女神様に消されたはずの記憶についても覚えていて俺たちに話したのだった。


 ちなみに一方で俺は俺たちの経緯についても話した、二人同時転生にミサとの出会いにスラスラが実は蒼だということも。

 それは水晶占いですでに知っていたことようで、俺たちの会話は見れていたらしい……ちょっと怖いがこれがマイクオリティ。


「しかし転生と言われたのに実質召喚なのに疑問はあったが、そういうカラクリだったんだな」


 異世界転生と聞くと、というより転生という言葉を読み取るにこの世界で”生まれる”必要があるはずだった。

 しかし俺たちは転生前の”死んだ”状態と同じ容姿と記憶を有してこの世界にやってこれていたのが確かに疑問ではあったかもしれない。

 それがちゃんとこの世界で”生まれ”転生前と同じところまで成長したところから始まるように、何らかの方法でそれまでの記憶を消していたと考えられる。

 現にそのことを知ったマイは”女神権限”だかで記憶を消されていた、そんな記憶がどうしてわかったかと言えば――


「私、どうやら占いがうまいみたいです」


 マイがこの世界において扱う技というか技術としては”占術””呪術”の類らしい。

 その占術において過去を占った結果、そのような経緯が記憶を消されたあとでも改めてわかったのだとか。

 

「というかマイも試したんだな……生き返れるかどうか」

「はい、実際にやってみないと信用できませんから」


 俺に関しては過程をすっ飛ばしたことでの経験値不足もあって、はじまりの町の外に出た途端、この界隈にはいないはずのバーニングトラゴンに運悪く消し炭にされて即死。

 ……というなんとも残念感のある初めての”死”なわけだが、マイの場合は自殺したとのこと。

 聞く限りは躊躇なくあっさりと行ったというのだから、相変わらずのマイの肝の据わりっぷりというか、覚悟が決まりすぎているというか……。

 そんな話を聞いていた中、ミユが不信感をあらわにした表情で呟いた。


「それにしても女神様にさ、そういうことされると……なんかもっとやってて隠してるんじゃないか、って思っちゃうよね」


 そりゃ神様なのだから人間の一人や二人に記憶をいじることだって可能なのだろうが、今回の場合は転生者すべての記憶を改ざんしているところがポイントだろう。

 転生した頃のことを覚えていないように全員の記憶を消している、そんなことをしてしまえばいわゆる女神様という存在の信用に関わる、何かやましいことをしているのではないかと。

 少なくとも女神様を俺たちの味方だとは思わない方が良いのかもしれない、そもそも異世界を救うメリット・俺たちを異世界転生させるメリットが女神にあるのかいまいちわからないのだ。

 神様だからこそ世界を救う責任感に駆られているのか、それとも何か裏があって女神様にとって何か考えがあるのか、正直裏が見えないというのは――


  

 割かしどうでもよかった。

 


 そこそこ考えて普通の人なら思うであろう発想を並び立ててみたが、不思議と腹は立たなかった、フーンと言う感じ。

 というのも正義の勇者な不正許さないマンなら思うところがあったとしても、ミユと異世界で過ごせればいい俺としては別に女神様がどうだろうとどうでもいい。

 たとえあっちにメリットがあったとしても、俺とミユを同じ世界の同じ時間軸に転生させてもらっただけで十分感謝しているのだ。

 もっともそれは俺たちの関係を害さないことが大前提にあって、もし女神様であることを以て俺たちの関係を徹底的に邪魔することがあるのだというのなら――



 俺は女神様や神様だってこの手で殺す。



 とりあえずこの世界を救えばあとはミユとのハッピー異世界ライフなのだ、

 どんなやり方をするにしろ、さっさと世界を救っちゃえばいい。 


 ただ気になるところとして――

  

『プルプルプルプル』

「スラスラ曰く”ということは異世界に結構来てて、行けば会える?”とのこと」


 スラスラはこの町の基地局の電波が良くないのか、基本的に省電力モードとばかりにスライム状態で過ごしている。

 そんなスラスラによるスライム語を俺がなんとなく翻訳してみた。

 スラスラの言うことは俺が気にしていたところそのものズバリだったのだ。


「どゆこと?」


 ミユが首をかしげるのも無理はなく、スラスラの言葉を主語ほか省略しているからであり、なんとなく俺が解釈すれば――


「”私たちの世界の人たちってこの異世界に結構来てて”で”俺たちの転生した場所に行けば会える?”な感じか」

『プル!』


 うん、そうそう! と頷くスラスラ、正解だったらしい。


「なるほど。全員がその場所で産まれるのならば、私とユージロー様のように年齢差はあるかもしれませんが、私たちの世界の住人と会える可能性はありますね」


 そもそもこの異世界に既に俺たちの世界の住人が四人も集っている、単なる偶然と済ませていいのだろうか。

 俺にとって元は彼女だった女性たちもまたこの異世界に続々転生しているのではないか、そう考えた。


 みんなには悪いが正直に言えば俺にとってミユという存在が自分の中では一番の存在ではある、が……俺と付き合った元彼女たちについて何も思うところがないわけじゃない。

 実際俺にもったいないぐらいにいい子たちだった、可愛らしい子たちだった、いい意味で十人十色だった。

 だから、この異世界においてどういう関係性になるかはわからないにしても――彼女たちとまた会えたら、とも思ってしまうのだ。


「ただ会ってもマイみたく旅立って過ごしている場合もあるな」

「そうですね、私のように年齢差も結構あるのでわかりづらいかもしれません」

「というかスラスラみたいにモンスターに転生していることもあるもんね」


 特徴的な元彼女たちとはいえ、果たして年齢が上下していてピンとくるものだろうかと考えてしまう。

 特にマイがもしマイだと名乗らなかったら、マイに似た雰囲気を持った年上の女性と思っていたかもしれない。

 逆も然りで、ゲームの中というか俺という登場人物が幼少期からは関わっていない女性の過去についてはわからないので、気づけない可能性だってある。

 それ以前にスラスラもとい中原蒼に関しては種族が違っている、その時点でもし記憶が封印されているなどすればどちらも分からないと思う。


「……どうするユウ兄? 私のテレポートでたぶんひとっ飛びで行けると思うけど」

「…………」


 それに女神様たちが全員の記憶を消してまでその転生した場所をひた隠しにする理由がわからない。

 転生と名乗っているのに召喚でした、では商品なら景品表示法に引っ掛かりそうなものだが、それにしてはやることが大掛かりすぎる。

 この世界を揺るがすような秘密がその場所にはあるのかもしれない。


「やめとこう」


 が、そもそもが全員が転生したとも限らない上に、年齢差で分かりにくく、記憶を消すほどの場所に無理して行けば女神様からのペナルティもありえる。


「旅してる間に会えるなら会えるさ」

「うん、ユウ兄がそういうならいいよ」


 正直どうしても行くメリットというのは感じられない、もしかすると魔王を倒しに行く道中で彼女たちに会えるかもしれない、それでいいのだろうと思う。

 ミユや俺含めてもしかすると危険な目に晒されるかもしれない事態は避けたい、そもそも現時点では進行に必要のない出来事なのだからスルーが正解なのだろう。


「ということはユージロー様ご一行はこのまま魔王城目指していく感じですね」

「ああ、そういうことになるな」


 魔王を倒すにしても目標地点魔王城って、今更知ったことだけど城持ってるんだな。


「それでは先ほど申しましたが、私姫城マイもご一緒させてくれますでしょうか?」 

「もちろん! よろしく頼む」

「はい! それでは末永くよろしくお願いします」


 そうして頭を下げる姿を見て「ちゃっかり末永くとか言ってるし」「なかなか強敵かもねぇ」『ブロロロロロ!』と女性陣が何か言っていたが、別にマイは深い意味を持って言ったんじゃないだろう…………いや、どうかな、でもまぁ今はノータッチで。

 ということでマイのパーティ入りが決まった、未来・過去を見通せるほどの占術師というのはパーティにおいてもありがたい。

 それに加えてこの異世界で十年ほど過ごした同郷の女性というのは、なんだか心強いものだ。


「皆さんきっと野宿でしたでしようから、今日はこの町でお泊りになって。翌日次の町を目指しましょうか。私も旅支度をしますので」

「そうだな」


 こうしてこの町の電波が苦手なスラスラには申し訳ないが一泊することになった。

 <シルバーリング>の特産である金属を用いたコップを購入しスラスラには入ってもらったところ、多少は楽になったとのこと。

 改めて電波がスラスラには良くなく、同時に敵モンスターもこの町に近寄らなくなったのだと再確認したのだった。 

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