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第三十二話 聞きいってみた。

月内更新だからセーフセーフセフセフセフアウアウアウアウト!

やる気減退中につき遅れてもうしわけないです


「そうして私、姫城マイはユージロー様が訪れる日を長い間待っていたのです」

「最初にこの世界にやってきた時の思いをひと時も忘れないまま」

「そして現在、私とユージロー様は相対することとなったのです――」


 俺はそんなマイの話を生唾をのんで聞いていた――


「やっぱり焼きそばにはマヨネーズだねぇ」

「ゴクリ……」


 ――ミサの目の前のテーブルに置かれた焼きそばめっちゃうまそう、よだれが出そうなのを抑えるぜ。

 というかミサってマジでマヨラー疑惑が……でもソースとマヨネーズの組み合わせは反則だよね。


「ちょっと!」


 そんなマイの話を耳で聞きながら、ミサさんがマヨネーズをうりゃうりゃとかける焼きそばを目の当たりしていると。

 ミユがテーブルを叩いて立ち上がった……奥のマスターがビックリしてしまう、妹が申し訳ないと代わりに俺が頭を下げた。


「? なんでしょう、ミユさん」

「”あれ”がどうしてこうなんの!?」

「”あれ”が、とは」


 ”アレ”ガデネブアルタイルベガ、夏の四角形(?)のことかな。


「どうして包丁構えてヤンデレ風に登場してから――」

「喫茶店で何、普通に語り出してんの!?」


 そう、俺たちの訪れた町<シルバーリング>にある喫茶店こと”maho table cafe”に俺たちはやってきていた。

 クレイアニメを作るのが好きな元転生者のマスターが開業した喫茶店らしく、コーヒーもうまいが各種軽食も美味しいと評判のようだ。

 当時でも珍しいレジ無し電卓計算のお会計に、もしかすると店ごと異世界転移してきたかもしれない店内のメニュー表の消費税も五%で止まっている、どこか懐かしい空気を漂わせていた。


 マイの行きつけだというこの店の四人席に腰をかける、それぞれ飲み物を注文してから、マイは転生する直前から今までを語ってくれた。

 ちなみにスラスラはキューブ状態で、注文したコーヒーゼリーと軽くぶつかって共鳴したり吸ったりして楽しんでいる、かわいい。


 対面するマイはというとかつての面影を偲ばせながらも大人になっており、どちらかというとマイ”さん”と呼んでしまいそうになる。

 もとが緩急は激しいとはいえ比較的おだやかな性格はさらに丸くなったかのようで、彼女特有の”危なっかしさ”は鳴りを潜めていた。

 もう、ヤンデレとは呼ばせない! とばかりの変貌ぶりに面食らいながらも、興味深い話に聞き入っていた。


 ……のだが、途中でそういえば昼食を取っていなかったとはいえミサが焼きそばを注文。

 果実やスパイス由来の香ばしいソースを店内に漂わせはじめるとさすがにソワソワしはじめ、ミサさんの手元にやってくれば濃いソース! エクストリーム!

 そんなミユがツッコミを入れたのは、マイの興味深い話と、ミサのソース焼きそばの匂いの二種に意識を持っていかれて、いよいよ俺の理性も限界を迎えようとしていた頃だった。


「それはもう、長いこと待っていたので話したいことがたくさんあったんです」

「そ、そうなんだ……でも! 最初に持ってた包丁は!?」

「それは――ちょうどからあげ用に鶏肉を切っていたところでしたから」

「紛らわしい!?」


 からあげ……だと!?

 

「それよりもマイ、からあげというのは……」


 三度の飯よりもからあげが好き、というか三度の飯がからあげでいい。

 ゲームの設定なのか俺の趣向なのかは知らないが極度のからあげ好きキャラクターとされていた俺がその言葉に反応せざるを得ない。

 そういえば異世界に来てからからあげ食ってないな……もちろん鶏のからあげが一番食べたいところであった。


「はい、今日ユージロー様が来るのは予め分かっていましたから歓迎用にからあげを揚げようかと」


 最高かよ、俺の元彼女。

 ……もう喫茶店切り上げていいだろうか。


「ありがとうございます」

「いえいえ」

「ユウ兄も感謝しない! でもマイさん、話の中でも言ってたじゃん! 私に敵意あるんだよね!?」

「いえいえ、そんなミユ様。将来の義妹様に敵意なんて向けません、私は変わったのです」

「勝手に義理にするなー!」


 両手をあげてぷんすかするミユもかわいい、スクリーンショットに保存しておこ。

 一方でマイがからあげを作っている料理風景を想像して、今のマイを妄想の中でポニテにしてエプロンを着せる……こりゃたまんないね。

 ぐっとくる!


「確かに私はユージロー様に一番近しいミユ様に嫉妬していました、愛ゆえに憎んですらいたのでしょう」

「そうだったよね!」

「そう、あの時のことは今も忘れていません。過去の私はなかったことにはなりませんが――それでも私は大人になりましたから」


 そう話すマイは儚げに、それでいて少し照れつつも記憶に思いを馳せるような優しい表情をしていた。

 なんというか、キレイになったもんだなぁ……。


「ぐ、ぐぬう」


 こう言われてはミユも何も言えないのだろう。

 かつては俺を殺しにかかり、それからもことあるごとにヤンデレ風味を見せていた彼女はもういなかった。

 すっかり落ち着いた女性になったものだ――この人と結婚した人は幸せだろう。


「しかしマイもここで身を固めたんだな、おめでとう」


 俺はマイが左手の薬指にしている指輪を見逃していなかった、落ち着きの正体は人妻となったのも大きいのだろう。

 ……元彼氏としては複雑な心境ではあるが、好きだった女性が幸せになったのは素直に祝福すべきだろう――


「え?」

「え?」


 だと、思ったのだがマイは不思議そうに首を傾げた。


「確かにここで身を固めてもいいとは思いますが……まだ、ですよ」

「おお、そうか。もう結婚が決まってるんだな」

「え?」

「え?」


 んん? 何か会話が噛み合ってないのか?


「ユージロー様、何か勘違いをなされているかもしれませんが、私は今も昔も前前前世も前世も来世もユージロー様一筋ですよ?」

「え、じゃあその指輪は……ファッションなら勘違いだな、悪かった」


 確かによく見れば飾り気のないデザイン、婚約指輪にしてはそっけない気もする。

 なら俺はかなり良くない勘違いをしていたらしい、てっきり大人になって指輪をしていたものだから異世界で好ましい相手を見つけたものだと――


「そんな! ユージロー様、謝らないでください。そうですね、でもこれはファッションではないのですよ」

「じゃあそれは――」


 そうしてマイはその指輪をはめた指を喫茶店の照明にかざすようにして――



「ユージロー様とのちのち婚約する。これはすなわち婚約指輪ならぬ、”先約”指輪です!」



 あ、ちょっとマイには珍しくドヤっとした。

 彼女時代含めてもレアな表情である。


「「え!?」」


 それには焼きそばを食べていた(口元にマヨネーズが付いている)ミサや、論破されてぐぬぬ顔で注文していたメロンクリームソーダを飲んでいたミユ、コーヒーゼリーを取り込んで一瞬ツートンカラーと化していたスラスラも驚きの声をあげていた。


「彼女である私がユージロー様と将来的に婚約・結婚するのは確定事項なのを考えれば、あらかじめ指輪を作ることに何の不思議もないでしょう」

「謎の理論!?」


 ミユがツッコミを入れてくれている、マイの話し方はなんだか「そうかもしれない」と思わせるものなせいでミユのツッコミでちょっと我に返った。

 ありがとうミユ、やっぱり好きだわ。


「というか既に十年前に結婚式をしています、町の皆さんは暖かい目で祝福してくれました。冠婚葬祭、葬儀で生前葬があるのですから先約婚もあって良いと思うのです。そしてなんとユージロー様! 今日が結婚記念日です!」

「「お、おう」」


 俺とミユの反応がシンクロする……マイのこの妄想先行型のトークがなんだか懐かしい、これぞマイだよな。

 やっぱりこう聞いてるとマイのヤンデレ風味別になくなってはないな、ちょっと安心した。

 というか別に拒否したいわけではないにしても、夫の同意どころか俺自体の有無なんて関係ないらしい。

 ……結婚式に町民呼んでる上に祝福されてるけど、夫不在の結婚式が想像できないだけに謎である。


「あ、『異世界では結婚式こういう場合もあるんですよ』と言ったら町の皆さん信じてくれました」


 普通に俺の心を読んできている、マイクオリティ健在。


「それに結婚指輪を付けていれば言い寄ってくる殿方もいなくなりますから」


 突然冷静な理にかなってる理由付けをしてくる、こういう緩急もあったなぁ。

 異世界に来たとてマイのような美人がモテないはずなかったが……なるほど、そのやり方は一理あるかもしれない。

 ……少なくともこの町に略奪趣味を持つ性癖の持ち主がいなかったことに、なんだかんだで安堵する。


「ともかく先約婚をしているのですから、先約指輪も当たり前のことなのです」


 な、なるほど……?

 とりあえず意外と折れないマイなこともあって謎理論の修正はしないのでノータッチとして、現実的なことを聞いてみる。


「いや、その……そういう指輪って俺から渡すことに意味があるんじゃ」

「それもそうですね……ということで少しゲームをしましょうか、それでは申し訳ありませんが手を出してもらえますか?」

「え? お、おう」


 そうするとマイは自分の指輪をあっさりと外して俺に手渡してきた。


「そして、これを私の指に嵌める。なんのことはないシューティングゲームです。レッツプレイです」

「よ、よーし……やるぞ」


 そうして俺は指を突き出すマイめがけて指輪を――

 

「「やるぞじゃない (よ)!」」


 そう女性陣のツッコミが入って、俺も自覚する!


「こりゃマイには一本取られたぜ!」

「ユージロー様もお上手ですね」


 ハハハ、まさかマイに婚約指輪を状況証拠的に嵌めかけるとは。

 

「いやいやいや地味に本気だったよねマイさん!」

「……さてどうでしょうか」

「指輪をはめると同時に男をはめるのはどうかと思うよ……あ、うまいこと言っちゃったね」

『ブロロロロ、強敵です』


 ミサは何言ってんの。


「色々ありましたが、ユージロー様がこの世界を救うと仰るならば喜んでお供いたします。よろしくお願いしますね」

「あ、ああ。よろしくな」


 マイは変わったようでいて、あんま変わってはいなかったようだった。 

 安心したような、彼女の性格的に今後も色々ありそうでハラハラしそうな。

 にしても、平和的な再会にしてマイも健全そうなのが本当に良かった。



 ……ちなみにこの町の名前が<シルバーリング>だけに、シルバーリングなら地元価格で安く買えるのだという。

 加えてマイの話を”全て”俺たちは知ることとなった、それは女神様が消したとされる”やり直し前の記憶”についても含んでいる。

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