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第三十一話 転生したあと。<マイ目線>



 そうして私とユージロー様が運命的な再会を果たすまで、色々ありました。



 転生した場所は森の中で、何の知識もなく異世界に放り出されたようなものでした。

 ほかにも転生した方はどうしていたのでしょうか、まさに右も左も分からない状況で――

 

「…………こっちにしましょう」


 私はなんとなく目覚めたところから回れ右をします。

 向いていた方が私の向かう先とは限りません、時には振り返ることも大事なのです――


『ちょ、ちょっと姫城マイ様!?』


 ……何か聞こえましたが気のせいでしょう。

 少なくとも今歩きながら初回特典だという水晶を取り出して占いをしている限り周囲に人の反応はありません。

 どういう仕組みかわかりませんが、私はこの世界に降り立った時点で占い師としての知識を既に得ていました。


『ちょっと、あの! 女神です! そっちじゃないんです! あの、ちょっと止まってください!!』

「……?」


 どうやら幻聴ではなかったようです。

 頭の中に直接語り掛けるようにして、さっき別れたばかりの女神様が私に喋っていたようでした。





 しょうがなく女神様に言う通り立ち止まります。


「何の御用ですか」

『いえ、あのですね。普通向いている先に歩いていくと思うじゃないですか』

「? 私の自由ではないのですか?」


 目の前のことがすべてではなく、たまには振り返ってみるのもいいはずです。


『確かに! 確かにそうなんですけど! そっちは違うといいますか、その……』

「そう言われると何か気になりますね、ちょっと覗いてきます」


 天邪鬼かもしれませんがここまで言われると気になってしまうのが人の性、仕方ないですよね。


『ああダメです! やめてください! そっちはその……危険なんです!』

「……占いの結果によると勇者は何度も生き返れるそうですね、なら問題ないです」

『問題大ありです! というか占いの効果が思ったより付加されすぎてます!?』

 

 ここまで女神様が必死になってまで向かわせない理由があるのでしょうか。

 ……逆に気になってしまいますよね。


「占いによると――」


 占いの効果範囲をあげると、遠くに人の多く存在する集落のようなものが――


『あああああ<女神権限>行使!』


 そうしてどういう仕組みか、どういう理由なのかわかりませんが――女神様の横暴によって一連の出来事の記憶は消されたのです。



* *



<TAKE2>



 そうして私は森の中で目覚めると、目の前に人が歩いた痕跡のある獣道を進み始めました。

 私らしくなく疑わずに突き進むのは解せませんが、そこまで重要でないでしょうしどうでもいいでしょう。 


「それにしても……」


 きっと誰もが疑問に思ったことでしょうが”転生”と女神様には聞かされましたが……これは転生とは違う気がします。

 転生というのは単純に生まれ変わることになるはずです。

 歩いた先に見つけた小さな湖を覗き込んで自分の姿かたちを確認すると、私の人生において最終的な容姿のようです。

 人間というのは両親から産まれるものです、だから赤ちゃんの頃を経て成長し今の私になるはずなのです。

 それがこの世界に降り立った時点で成長しきっているところ、果たしてこれは転生なのでしょうか?

 同じ容姿で別の世界に現れるなら、異世界”転生”ではなく異世界”召喚”になるのでは―― 


『細かいことはいいんです!』


 どういうわけか女神様が脳内に抗議してきます。

 なぜか女神さまが脳内に直接語り掛けてくることに違和感がありませんがどうでもいいことなのでしょう。


 しかし自分がこの世界において何者なのか気になります。

 まさか両親から産まれたわけではなく、コウノトリが運んできたとか、キャベツ畑からこのまま産まれたのだとか、冗談半分に考えてしまいます。

 そもそも今の私は人間なのでしょうか?


「…………」


 少し興味が沸きました、ちょっと試してみましょう――


 

* *


 

『どうして死んだんですか!?』

「つい出来心でした」

『いきなり尖った枝を自分の心臓に突き刺した意味がわからないんですけれど!?』


 自分が人間なのか、最低限生き物であるかを確かめる為に自分の心臓を止めてみましたが生物には違いなかったようです。


「なんか生き返れる気がしましたので」

『確かにそうですけど……って教えてませんよね!?』

「確かにそうですね、どうしてそう思ったんでしょう?」


 何故か生き返れる確信がありました、まるで誰かに聞いたような……そんなはずはないのですが。


『というかそのまま死んで上総ユージロー様と会えなかったらどうするつもりだったんですか……』

「……その発想はありませんでした」

『その発想して!』

 

 考えるだけで末恐ろしくなります、今の私が時間がかかってもユージロー様と再び再会できることのすべての望みをかけていたわけですから。

 単純な好奇心による実証実験にはリスクがありすぎました、これは反省しないといけませんね。

 そう、確かに今考えれば恐ろしい話ですが――


「その時は霊体となってユージロー様に取り憑くのもアリだったかもしれませんね……」

『ナシですよ!?』


 都合良く霊体になれる保証はありませんが、そこは気合でなんとかしましょう。

 思いが強ければ強いほど、愛が深ければ深いほど、きっと私は強力な霊になれたことでしょう。


「その方がユージロー様に寄り付く悪女を呪い殺すことが出来たかもしれないですよね?」

『同意を求めないでください』


 仕方ないので改めて女神様よりこの世界のルールや転生する自分という存在についてを聞きました。

 少なくとも転生先に満ちる魔力を用いて占術を行う占い師もとい転生者にして勇者として魔王を倒すのが役目だと言います。

 そして身体的には転生前の人間と同じのもので、普通に死ぬ時は死ぬようですね。

 それでも勇者特権とのことで生き返るようです、そう聞くと少しぐらい命を粗末したっていい気がしますが……どうしても気になることがあった時に考えてみましょう 


「それで、今の私は異世界転生ではなく異世界召喚ではないのですか?」

『細かいことは気にしないでください』

「実は転生者が産まれるような地があって、そこで育ったあと記憶を消して森の中に送り出す。なんてことありませんよね」

『どうしてわか……ハッ』

「なるほど」


 そういった理由付けの方が納得できます。

 これなら異世界召喚ではなく異世界転生であることに違いなさろうです。

 そうなると姿形がかつての私とうり二つというのも不思議なものですが、そこはもしかすると神様が何か細工をしているのかもしれません。

 もっと私レベルになるとユージロー様の姿形が変わっても、相思相愛の私たちの魂が惹かれあうのは決定的ですから、些細なことです。

 しかし贅沢を言うならばかつてのユージロー様を、あの真の通った性格ながらもどこか優しげかつ男らしさも感じる面持ちのユージロー様を求めてしまうのは乙女的にしょうがないことでしょう。


「理屈はわかりました。ですが、この世界における誕生から勇者として自覚するまでの故郷含めた記憶を消して森の中に放り出すというのは、いささか人道的にどうなのでしょう?」

『そういう指摘があるから言わないんですよ!?』 

「? 誰が指摘するんですか?」

『それはその……女神協会というか、放送倫理機構と言いますか、その……ともかくこの話はおしまいです!』

「そうですか、では自分なりの解釈を吹聴することとします」

『<女神権限>行使!』 



 * *


 

<TAKE3>



 そうこうして目覚めた私は何に疑問を抱くことなく森をまっすぐ進み、モンスター会敵します。

 どういうわけか知識として存在する占い師である私は、呪術を用いてモンスターを呪い殺していきます。

 どうやら私は占術と呪術の力が使えるようです、占術によって敵の素性などを把握し、あとは強い感情を送り込めば精神を破壊し機能停止させます。

 私にとっての世界はユージロー様と友人とあとは興味を抱かない存在なので容赦はしません。


 それから私はモンスターを倒して力を付けながらはじまりの町<ゼクシズ>で冒険者登録をし、しばらく装備をなどを整える時間を経て次の町へと旅立ちます。

 町の住民や冒険者などを対象にした占術と呪術でお金を稼げたことで懐事情に余裕もあっため馬車便で楽に次の町に向かうこととしました。

 そう、その次の町こそがユージロー様が幾年の時を経て訪れるその場所だったのです。


 そこではどういうわけかその町ではスマホが普及し始めていました。

 私の前に訪れた転生者もとい勇者もとい冒険者がおそらくは転生特典とした基地局をこの町に根付かせたようで、ちょうど町民が使い始めた頃でした。

 その頃を最後にこの町への人の往来は無くなり、一方でスマホの普及で快適になったこの町を離れる人もいなくなりました。


 どういうわけかこの町は外界と隔絶されました、それから長い時が流れたのです。

 私がこの世界に転生を自覚してから十年三か月、その時間はその数字以上に長く感じたものでした。

 しかし私がこの町に居ついている間に見つけたのが占いによる広範囲索敵能力で、おそらくはこの世界に転生してから数年が経過したユージロー様の姿をとらえたのです。

 水晶越しにやがてユージロー様となっていく男児が男子になり男性になっていく姿は、見ているだけで素晴らしいものでした。 

 それだけで私の退屈も寂しさも紛れたものです。


 私はこの町にこだわっていないこともあって、少し町を出てモンスターを倒しにいくこともありました。

 十年以上をかけてモンスターなどを倒し続けた私は立派な占い師になっていました、本気を出せば呪術でこの町全員を行動不能にできるほどでした。

 もっともこの町にはお世話になっていたのでそんな考え毛頭ないのですが、それほど力を私が得ていたということでした。



 そしてついにその時がやってきたのです。

 あの慕い続けた愛し続けた、一日一時間一分一秒も忘れたことのないあの私にとって掛け替えのない男性の――ユージロー様との再会が目前に迫っていました。 

 どういうわけか隣に――



「ミユ様です、か」



 私の最大の仇敵ともいう存在がユージロー様の隣にはいたのです、あと二人? ほどヨクワカラナイ異性がいますが、ユージロー様ともなれば慕われて当然なので問題はありません。

 ユージロー様の周囲には魅力的な女性が多くいました、そんな中でも私が唯一勝ち目のなかった相手でした。

 彼女は正真正銘実の妹にして、ユージロー様を”本当に”射止めてしまった人。

 これ以上警戒しなければいない存在はありませんでした、そんな彼女がユージロー様の隣にいることが脅威でした。


「そうですか、そうですね、そうしましょう」


 本来ならば家族ごと兄妹ごと愛するべきなのでしょうが、仕方ないのです。

 ――彼女が妹以上の存在でなりさえしなければよかったのですから。 



 殺せないならどうするか、十年の時を経て得た呪術をどう用いればいいのか。



 覚悟しておいてくだしミユ様、そしてお待ちくださいユージロー様――

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