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第三十話 転生しました。<???目線>

訂正:さすがにアラサーは言いすぎました


 私は姫城マイ、上総ユージロー様の彼女です。

 そしてのちにお嫁さんになり、ゆくゆくはアナタなんて呼ぶように――



 なりませんでした。



 私の世界は、ユージロー様と付き合って数か月で終わってしまうのです。

 たとえあっても二年後の”描写があった”というだけでした。

 

 私は作られた存在だったようです。

 ギャルゲーというゲームのヒロインでしかなく、そしてユージロー様は主人公でした。

 ゲームにおいてのお話の中で私たちは生きていたのです。


 それを知ったのはすべてが終わったあとでした。

 最初こそ理不尽さによる怒りと絶望に苛まれていましたが、そういう風にできているように私は諦めさせられたのです。

 終わったことはどうすることも出来ないのですから。

 

 ……私にとって過去に”ひどい”ことがありました。

 少なくともそれで私の性格は捻じ曲がってしまったのだと思います、歪んでしまったのだと思います。

 そんなひどい過去を持つ私と付き合って、向き合って、受け入れてくれたのが彼ことユージロー様でした。

 かつてから彼に憧れていました、でもそれは憧れでしかなく、愛だと思っていた感情もその当時はまだ憧れでしかなかったのです。

 憧れが本当の愛になって、思いが通じ合って、私の心も解きほぐされたのでしょう。

 ユージロー様との日々は悲しいことも辛いこともありましたが、楽しくて幸せだったのです。



 ――そんなすべてを全否定された私はどうすればいいのでしょう。



 私のひどい過去も、彼との日々も、もしかしたらユージロー様の思いも……そしてユージロー様への私の気持ちも。

 すべてがすべて”作られた”ものでしかなく、お話の都合でしかなかったのだとしたら。


「私ってなんだったんでしょう」


 空虚でした。

 私は何も持っていなかったのです。

 ユージロー様との恋愛関係も、ユージロー様だけでなくなった交友関係も――そして私の辛く苦しんでした過去のことさえも。

 

 すべてを理解した瞬間に死にたくなりました。

 いいえ、すでに死んでいるようなものではないですか。

 こんなすべてを否定された自分なんて、存在する理由がないではないですか。


 

 なら、どうして私はまだ存在出来ているのでしょう。

 何も見えない真っ暗な世界に、私の意識だけがあったのです。



* *



「よくいらっしゃいました、姫城マイ様」

 

 ふとした瞬間に世界に色が戻ったようでした。

 真っ暗な世界を照らすようにスポットライトが点き、目の前の金髪で碧眼の女性を照らしていました。


「突然ですが、勇者に転生して”とある世界”を救っていただけませんか?」


 …………?

 金髪碧眼にして、整った容姿をした女性がそんなことを言ってくる。


「ええと、今の状況って分かってない感じでしょうか? あなたは元ギャルゲーのヒロインとして生まれ、そして命を落としたということは……分かってますよね」


 …………。

 それはわかっています。

 しかしそんな理不尽な真実を再度知らされれても、もう怒りも湧いてきません。


「わかっているみたいですね。どうやら”あの世界”の人間は転生先への魔力適正が高いようで都合がよく……って聞いてます?」


 目の前の女性が言っている意味は正直わかりません、ただ無気力な私からすればどうでもいいことでした。

 

「あのー、もしもしー?」

「……聞いてます」

「ああ、よかった」


 ……内容なんて頭に入っていませんが。 


「ともかく、あなたには”占い師”となってとある男性勇者の手助けをしてほしいのです」

「お断りします」

「え!? 即断ですか!? いやあの、手助けしてもらわないと困るといいますか――」

「私の愛する男性はただ一人です。そんなどこの馬の骨とも分からない方を手助けするぐらいなら舌切って死にます」

「そこまで!?」


 ……手助けということは、おそらくきっとその男性と行動しなければならないのでしょう。

 だいたい”転生”とか”占い師”とか意味の分からないことを言われてはいそうですかと言えるほど私は易い人間では――


「そうですか……その男性があなたの世界の主人公ですから、きっと姫城マイ様も問題ないと思ったのですが」

「…………はい?」


 あなたの世界の主人公…………という意味を少し考えてしまいます。

 私の考える主人公定義がおかしくなければ、私の世界において主人公は彼一人になるはずです。

 

「……その男性の名前は」

「そこはプライバシーの問題で」


 私の世界の主人公とまで言っていてプライバシー!?


「言ってください」  

「いやそれは」

「言わないと殺します」

「上総ユージロー様です」


 上総ユージロー様……ユージロー様…………ユージロー様!?


「それは住所は――で、体重がXXキログラムにして身長がXXXセンチで好きなものはからあげだったりカレーパンだったりして実はスクール水着が大好きなあの上総ユージロー様ですか?

「ひい……なんであってるんですか」


 そうですか、そうですか……。


「……何をモタモタしているんですか。さっさとユージロー様のもとに送ってください」

「理不尽!」

「よくわかりませんがユージロー様に会えるなら話は別です、あと何秒で会えますか?」

「とりあえず話を聞いてください!」


 そうして彼女から改めて”転生”ということと”勇者”ということと”使命”について話される。


「それと……申し訳ないんですけど、会えるのはだいぶ先になりそうです」

「それは何分後ぐらいですか? テレビ番組のコマーシャルの間ぐらいしか待てませんけど」

「せっかちさん!」


 ……そして何かの都合か知りませんが私とユージロー様が出会うのには十年三か月のラグがあるようです。

 意味が分かりません、そんなに待てません。


「転生枠が限られているんです……ようやく予約をねじ込めたのがその年その日しかないんです」


 連日予約で埋まってる歯医者じゃないんですから。


「それで転生特典ですが、何か希望はありますか」

「ユージロー様と付き合って結婚して子供が十人ぐらいできて老いて亡くなるまで末永く生きられる程度でいいです」

「欲張りさん!」

「……それが叶わないならいいです、希望はストックしておきます」

「そんなシステム本当はないんですけど……じゃあ転生枠が限られる代わりということで、特例ですよ?」

「恩着せがましいですね」

「…………」


 とにかくユージロー様とまた出会える算段はついたようでした。

 もっともこの私のユージロー様への気持ちも作られたものでしかないかもしれませんが……。

 それはまた会ってから確かめても遅くないでしょう。


 理屈なんてどうでもいいのです、私の愛するユージロー様とまた会えるのであれば!


 ……私を全否定した世界の理屈を、私が全否定したっていいでしょう。

 私はこの”好き”の気持ち真実のものにします!


 そうして私は異世界に占い師として転生を果たしたのです。

 そして転生して自分を認識してから十年と三か月後、自分の力で何度も占った予知通りに彼とまた出会うのです――



 すっかり大人となった私が、高校生の頃の姿のユージロー様と。

作中の姫城マイの語る”ひどい過去”については「@ クソゲヱリミックス! @」のルート1を読んでね!

※見なくても当作品はお楽しみいただけるはずです

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― 新着の感想 ―
[一言] いつか気になった人のために… マイ過去 185話
[気になる点] 確か妹って神様か天使じゃなかったっけ?
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